3章
しょっぱなからいきなり主人公いませんが、お話は間違ってないです、大丈夫。
この章は恐らくイツキの視点も多くあると思います。
読みにくくないよう精一杯頑張ります…!
57
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英雄を目指す。
そう決意したイツキの行動は早かった。
その日のうちにジラール王へと面会を取り付け、その意志を伝えた。
「お前のそのなにかしてやりたいと言う気持ちはよく分かる。だがなぁ…」
書類に埋もれたままのジラール王は悩む。
先日レイナとマリの身に起こったことを考えれば、この少年にも危険は及ぶかもしれないという危惧がある。
「それだけじゃない。レイナの心が囚われてたことに気づかなかったのも勿論だけど、俺は、俺自身の力で居場所を作りたい。」
真っ直ぐに王の目を見て言うイツキに、しばし瞑目して悩んだジラール王だったが、
「うむ…その意気は認めよう。だが獣王国への渡航は認められない。」
そうはっきりと言い返す。今にも食いかかってきそうな剣幕のイツキをそばに控えたローウェンが抑える。
細身の優男なのに、片手で抑えられ、悔しさに拳を握って王を睨むイツキ。
「なにもお前を嫌ってそう言っているのではない。かの国は徹底した実力主義を掲げた国だ。我が国の騎士団にすら及ばぬお前では行っても武功を立てれるとは思えないし、万が一にも死なれても困る。」
きっぱりとお前はまだ弱い、と告げられ、ぐぅの音も出ずに体に入っていた力を抜くイツキ。
ローウェンも抑えていた手を離すが、油断なくその動きを見ている。
普段の優しい笑顔とは違う、刺すような鋭いアイスブルーの瞳に萎縮する自分を奮い立たせ、ぐっと2人を見てから、修練にもどります…!とぺこりと頭を下げて出ていった。
「騎士団の者に聞いたのですが、どうやら彼は英雄願望があるようです。」
静かになった執務室で、ドアの方を見ながら気遣わしげに呟くローウェンに、大きなため息をつくジラール王。
「あれぐらいの年頃は、そういう憧れってのは強いもんだ…で?肝心の腕の方は?」
「そうですね…。荒削りではありますが、身体能力は高いです。あと、無意識ですが魔力で膂力をブーストしていますね。もう2、3年も訓練を続ければ一介の騎士としては十分かと。」
息を吐きながらの問いかけに、少し考えてから答えるローウェン。
その2、3年が待てるような雰囲気じゃ無かったな、と呟き、ローウェンにそれとなく監視を頼む。
それを受けて一礼して立ち去る背を見送り、置きっぱなしだった書類の決済へと没頭するのだった。
(くそ、くそ!こうやってもたもたしてる間も、レイナは弱っていってるんだ…。なにか、獣王国に行く理由を作らないと…。)
冷めやらぬ気持ちに区切りを付けようと、迎賓館の裏庭まで戻ったその足で素振りを始めたイツキだったが、ぐるぐるとループする思考が剣の動きを邪魔する。
やがて大きく振った反動からか、腕から剣が滑り、弧を描いて城壁のそばにあった木に突き刺さった。
舌打ちしながらそれを取りに向かい、剣に触れた矢先、
(いっそ、冒険者になればいいんじゃない…?)
ふわりと、脳内に湧き上がるような声がした。
咄嗟に周囲を見回すが誰もいない。
空耳かとも思ったが、言葉は今まさにイツキが悩んでいたことへの答えだった。
訝しみながらも剣を抜き、その場を後にする。
(ふゥん…?ナイアーラトテップが死んだって言うから見に来てみたけど…。あの子、美味しそうねぇ…。)
風のそよぎのような微かな声は、クスクスと小さな笑いを残して、そっと消えた。
迎賓館の自室に剣を置き、ベッドの向こうにある窓から見える塔を見つめる。
あそこにはレイナがいる。
いつ目覚めるか分からない、目覚めたとしてまた異形に身を蝕まれるかもしれないという理由で、あの塔へと半ば幽閉のように閉じ込められている。
それを見る度にイツキの焦燥は高まり、その度に剣を振った。
今も、離した剣を再び取ろうとしたが、ふと、さっき聞こえた声の事を思い出す。
「冒険者、か…。」
以前アウローラが話していたことを思い出す。
彼らは国の庇護がない、代わりに国にも縛られない。独自のルールと権利を有するのだと。
冒険者という選択肢について考えていると、迎賓館のドアが開く音、次いでイツキの向かいにある部屋のドアが開閉する音がした。
この迎賓館、一階の北側にイツキとトオルの部屋があり、今はいないレイナの部屋はその反対側になる。
つまり、ここに帰ってきたのはトオルという事で…。
図書館での調べ物が行き詰まり、資料の読み返しでもしようと思って部屋に戻ったトオルを、イツキが尋ねてきた。
広い室内の至る所に本や紙、珍しい羊皮紙などが散らばる。
当然ソファにも本が乗っていたが、それを退けながら座り、目の前で同じようにして座るイツキを眺めるトオル。
「王様に謁見に行ったんじゃなかったのか?どうなったんだ?」
トオルの問いかけに謁見の場で言われたこと、冒険者になろうと思っている事を伝えるイツキだったが、何故か裏庭で聞いた声のことは、言ってはいけない気がして、そこだけ省いてトオルへと話す。
「ふぅん…。で、冒険者なら獣王国に行けるって…?」
本人曰く天然パーマらしいくるりと巻いた毛先を指先で弄りながら若干呆れたような声で返すトオル。
その反応にむっとしながらも頷くイツキ。
ムスッとした顔からはイツキが何を言いたいのか丸わかりで、くるんと指先で毛を跳ねさせて
大袈裟な溜息をつき、
「別に俺は止めたりはしないよ。お前の思うようにやればいいと思う。でも、その結果、お前がどうなっても、周りの責任にはしない事だ。お前が選んで、お前が進むんだから、お前自身がその全てに責任をもって突き進むんだ。」
真っ直ぐに射抜くような目で見られてそう言われ、応援はしてくれるが、言葉の意味はとても重く深いものだと噛み締める。
だからこそ、後押しとしては十分だった。
その日をもって、イツキは少ない荷物に、迎賓館から持ち出せるだけの食料と、僅かな貨幣、一振の剣を持ち出し、冒険者ギルドの門をくぐった。
――――
「そう…、山口君が…。」
マリ達がジラール王に呼び出され、執務室で聞いた内容は、共にこの世界に来た少年のことだった。
数日前から姿が見えないと騎士に進言され、調査をしたところ、冒険者となっていたとの事。
監視の目が強くなる前に行動を起こしたらしく、不審に思われるまでに少しの間が空いたことが、行方を分からなくしていた。
「十中八九、獣王国に向かったんだろうぜ。この国と獣王国の間にゃ竜王山がある。オレもやったが…あの山を徒歩で超えるのは、かなりキツいぜ?」
魔力が戻り、復活したジアンがそう言えば、ジラール王も重く頷く。
資料をめくっていたチェザーレが無造作にその紙をテーブルに投げてからジラール王へと視線を向ける。
「で?俺たちに迎えにいけと?」
長い足を組み、ため息混じりにそう言ったチェザーレの顔には、ありありと面倒臭いと書かれている。
「ん、いや…。」
出来ればその方が安全ではあるが、どう見ても乗り気ではない様子にジラール王が言葉に詰まっていると、くいくいとチェザーレの袖を引かれる感触に、面倒くさそうな顔を引っ込めてマリの方に向けば、モフモフとジアンの頭を撫でるマリ。
「獣王国の近くには、聖樹ユグドラシルの本体があるんだよね…?この間、とてもお世話になったし…お話が出来るのなら…。」
ジアンを撫でながら、チェザーレを見上げてそう言うマリに、大袈裟なため息を一つ吐いてガシガシと赤毛を掻く。
「聖樹ユグドラシルに向かわれるのでしたら、その途中で少年一人保護してもおかしくはありませんね?」
「世界を見た言って言うマリの願いにも適ってるな?」
ローウェン、ジアンからの援護射撃を受けて、チェザーレはもう一度大きくため息をついた。
「わかった、行きゃいいんだろ…。とっ捕まえて説教だ。」
そうボヤくチェザーレに、周囲が笑う。
どんな理由であれ、彼らとまたこの世界を歩んでいけることが、マリにはとても嬉しく、楽しみだった。
狙われる恐怖が無いわけではない。
周囲を巻き込む恐れがない訳でもない。
それでも、マリはこの世界を好きになり始めていた。
できるだけ、頑張ってみよう、と一人決意を新たにしたのだった。




