2章
56
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「さて、今後のことはとりあえずは一旦保留にして…まぁ警備だ何だはローウェンの管轄だしな。とりあえず、マリよ。我が国はどうだった?あまり楽しくなかったかもしれんが…。」
ジラール王の問いかけにぶんぶんと首を横に振ってから笑顔のままマリが答える。
「とても、いい国です。どの街もみんな優しくて、ご飯は美味しくて、景色は綺麗でした。落ち着いたらまた、回りたいです。」
そう答えるマリに、ジラール王とアウローラが微笑む。
それから行く先々で出会った人々の事や、食べたものなどの話をし、ひとしきり話してお茶で喉を潤す。
「それにしても…海竜アーカイドに氷結の女王と名高いセルシウスの一体…妖精の王族…流石は竜王との旅路というか…凄まじいな?」
しみじみと呟くジラール王に、乾いた笑いを洩らすマリ。
そして、はたっと気がついたようにチェザーレを見上げる。
その視線に気がついたチェザーレがことんと首を傾げるのに釣られるように、マリも首をかしげながら張り付いた笑顔を向ける。
「竜王陛下ってどういう事…?高位の竜は住処から出てこない、どこにでもいる火竜の一匹だって、言ってなかった?」
笑顔だが声は固く、表情筋もその笑顔に張り付いたままの言葉に、あー…と言葉を探しながら虚空を見上げ、ジアンに助けを求めるように視線をやるが、かの狼はぷい、とそっぽを向いてあっさりとチェザーレを見捨てる。
そのままアウローラ、ジラール王、ローウェンを続けて見遣るが、皆一様に視線を逸らしたりお茶を飲み始めたりされ、孤立するチェザーレ。
「いや…その…わかった、説明するからその張り付いた笑顔やめてくれ、背中がぞわぞわする!」
降参するように手のひらをぱっと広げて言えば、優雅にお茶を飲んでいたアウローラが、もう尻に敷かれてるのかしら、などと呟いていたが聞こえないふりをして咳払いを一つ。
「俺の母竜はこの星の守護竜だ。この世界の調停を担う者でもある。その母が今回の異世界からの落とし子、つまりはお前たちだな。それが気になるから見てこいと俺に言った。」
思っていたよりも壮大な話になりそうで慄くマリだったが、周囲はそれが当たり前なのか気にした素振りもない。
この星では広く知られた存在なのだと納得した。
「で、俺は幻影魔法を使ってこの城に来て、お前たちの事を調査することにしたんだ。それで、1人だけ召喚方法が違うお前の事をどうにかして調べようとしたんだが…」
そこから先はあの通りだ。と息を吐く。
お茶で喉を潤しながら納得したか?と視線で問いかけるが、マリは難しい顔をしたまま、
「それはわかった。でもなんで身分を偽ったの?」
その問いかけに眉間に皺を寄せるチェザーレ。
物凄く不機嫌なそれにマリがキョトンとする。
「お前が、目立ちたくないと言うからだ。竜王と周囲に知らしめて歩いてみろ。常時アーカイドみたいに囲まれるぞ。」
西の都で見た人だかりに囲まれて笑う海竜の事を思い出させるように言えば、う、と唸るマリ。
「まぁどっちにしろ敵さんが周囲を気にしないタイプだったお陰でめちゃくちゃ目立ったけどな。オレも月影狼王に成ったし。」
ぼそりと呟いたジアンの一言に、その場の全員が確かに…、と頷いた。
「目立ちたくないのは分かるけれど、狙われれているとわかった以上、竜王陛下の姿そのものが抑止力になるでしょう。」
心配そうなアウローラの言葉に、そうだ、と頷くチェザーレ。
それに対して頷くマリ。そして、ソファの傍らに居たローウェンの方を向いてぺこりと頭を下げ、身体ごとチェザーレの方に向き直り、同様にぺこりと頭を下げた。
「最初に、あなたたちの顔のせいで目立つのは嫌だなんて言ってごめんなさい。特にチェザーレは結果的に、私が貴方を多くの事に巻き込む羽目になってしまったから、このことに関しては私の言い過ぎだと思う。ごめんなさい。」
殊勝にそう謝るマリに口元に手を当てて驚くアウローラと、固まったまま動かないチェザーレ。ジアンはそんなこと言ったんか…とボヤいていたが。
そんな固まった空気を察してちらりとチェザーレを見上げるマリ。
なんの反応も無いと流石にどうすればいいか分からずに頭は下げたままで視線だけで見上げる。
「マリ、顔を上げてください。私も竜王陛下も気にしていませんよ。ね?」
にっこりと笑っていうローウェンにようやく再起動したチェザーレがぎこちなく頷く。
珍しいものを見たても言うように笑うアウローラを睨みながら、これからは幻影魔法なしでいく、とぼそぼそと言うチェザーレに頷くマリ。
「よし、報告はそれぐらいか。まだ疲れも癒えてないだろう、少しゆっくりしてから、この先、ここに留まるかまだこの世界を回りたいか、教えて欲しい。」
そう締めくくるジラール王に、マリが首を振り、ソファから立ち上がって、
「それはもう決めています。私は、この世界を知りたい。この気持ちは変わりません。」
はっきりと言ったマリに、そうか、と破顔するジラール王。
ならばこの先のことも、後日話し合おう。と今度こそ締めくくって、マリ達は執務室を出た。
部屋に戻る道すがら、レイナの様子を見に行きたいというマリに渋面を返すチェザーレ。
「お前はまだ行かない方がいい。あとの二人がお前に何を言うか、何をするか分からない。」
謂れのない恨みを買いかねない、やめておけ、と忠告するチェザーレに、眉を下げて項垂れながら頷く。
「…わかった。でもなにか変化があれば教えてね。」
そういうマリに、俺も聞きたいことが山ほどあるからな、目が覚めたら面会しに行こう。と、返すチェザーレ。
話しながら部屋へと戻り、ジアンは疲れた、と再び眠りに入り、マリも宛てがわれた部屋へと戻ってベッドへ突っ伏す。
頭元にエンが顕現し、寄り添ってくれる温もりにうとうととし始めた。
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左腕を失い、意識のないレイナと、疲れ果ててぐったりするマリ達が戻ってきたのが数日前。それからレイナは一向に目を覚まさない。
トオルは文献を漁っている、と言って図書館に籠り、俺は、騎士団での訓練で体を動かしていた。
体を動かさないと、何も出来なくてイライラするからだ。
騎士のみんなに打ち込みを見てもらい、模擬戦に付き合ってもらう。
「よし、それまで!イツキ、随分踏み込みがよくなったな。だが剣に乱れがあるぞ。悩み事か?」
俺より少し年上の騎士が模擬戦用の剣を下ろしながら苦笑混じりにそう言う。
気の迷いが剣にでてる、とか漫画の世界だと思ってたが、見抜けるもんなんだな…。
「いえ…先輩。英雄って、この星にいるんですか?」
ふと、頭に浮かんだその単語。
それを声をかけてくれた騎士に問うた。
「英雄?そうだなぁ…人間の、だよな?」
そう返してくる先輩に、そういえばこの星には人間以外の種族も多くいるんだった、と思い出し、頷く。
「おとぎ話みたいなもんだが、精霊国シルべアナには聖剣が祀られてるっていうし、過去にはいたんだろうぜ?あと獣王国トライドには国王が認めた英雄だけが使える魔法の秘薬がるとかなんとか…。」
「魔法の秘薬!?」
先輩の言葉に咄嗟に食いかかるように言い返す。ぎょっとする先輩だったが、それよりも魔法の秘薬が気になった。
それがあればレイナは目覚め、腕も治るんじゃないか…?
先輩におざなりに礼をいい、図書館に引きこもっているトオルの元へと走る。
「うーん…確かにそういう記述はあるけど…真偽は定かじゃないぞ。」
俺の話を聞いたトオルの反応は良くなかった。でも、俺に出来そうなことはこれぐらいしかない。
目を覚まさないレイナの姿は、見ていてとても辛い。
それに、英雄になれば、この星での生き方も見えてくる気がした。
決めた…。俺は、英雄を目指そう。
二章完結でございます!
明日からは三章突入!
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