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竜王のいる異世界  作者: 土師 冴来
一章―異世界来訪編―
5/116

1章

5

――――



頬を撫でた暖かい空気は重く、冷え始めた室内を少しづつ温めていく。

ソファの端にあった染みはもうほとんど見えない迄に薄まっていた。


「…戻れない、なら…この星でいきていくしかないんだよな…」


ぽつりとイツキが呟く。ずっと泣いているレイナの頭を自然と抱き寄せ、落ち着かせるように柔らかな髪を撫でながら顔を上げた。僅かに涙目ではあるものの、ジラール王を見据える。


「ジラール陛下、俺たちがここで生きていけるようになるまで、この星のことを知るまで、どうかここに置いて欲しい。少なくともここならば、まだ何も知らない俺たちでも生きていける。」


自らの髪から指先を離し、イツキと同様に王をみながらトオルが言えば、勿論だ、と王が頷く。

レイナは俺たちが守るから…と、イツキの言葉にレイナも真っ赤になった目を隠すように擦りながら頷いた。


「すみません、話し合いたいのでさっきの部屋にもどっても構いませんか?」


トオルもレイナを気遣うように王に進言し、退室の許可を求める。

それに対して王はまたしても深く頷き、


「勿論だとも。できる限りの支援は約束しよう。茶は先程の部屋に届けさせよう、まずはゆっくり話し合ってくれ。」


そういって立ち上がり、4人を見送ろうと部屋のドアを開けた。

王に続くようにイツキ、レイナ、トオルの3人が部屋を出て、ドアの横で待機してた兵士へとローウェンが案内を言いつける。

ふと、ジラール王は室内に視線を戻した。1人、出てこなかったからだ。


「マリ?」


ソファに座ったまま動かないマリを訝しげに見つつ、3人を送り出してローウェンと共に部屋に戻ってくる。

先程と違い、マリの対面に腰掛けて、聞きたいことでもあるのか、または先程の転移の話の続きか、と話しかけようとした。


「私は、この世界を歩いてみたい、です。」


ぽつりと零したマリの言葉に、ジラール王の動きが止まる。他の3人とは合っていないのだろうな、というのはこの部屋に来た瞬間から分かっていた。転移の仕方も謎が残る。

その辺から話そうとしていたのだが、どうにも結論を先に言われてしまったようだ。


「それは…」


「待っている間に、いくつか本を読ませて貰いました。竜と精霊の星、おとぎ話でしか知らない世界でした。戻れない、いえ…戻らなくていいのなら…私はこの星を見て回りたいのです。」


ここに来て初めてこれほどまでに饒舌に喋る彼女にジラール王も、ローウェンも、そしてひっそりとまだいた兵士も驚く。


「…そうか、だが。お前さん達がいた星の話はこちらでも伝わっている、多くは似通っているだろう、だが決定的に違うことも多くある。簡単に言えば、危険が多い。死ぬかもしれない旅に、俺はよし、とは言えない。」


じっとマリを見据え、マリたちの世界にはいないであろう魔物や、精霊、竜の存在を匂わせる。

ローウェンもまた、女性の、ましてやまだ子供の旅など認めれないとばかりに首を横に振る。


「1人で行けるとは思っていません。松本くん達に支援してくれるのならば、私が頂きたい支援は共に巡ってくれる人、です。」


確かに出来る限り支援はすると言った、王たるジラール自身がそう言ったのでは、この国で否を唱えれるものは居ない。

ぐっと押し黙るジラールを見てからそっとローウェンが口を出す。


「…マリ、まずはこの国で、試してみましょう?この国を見て、回って見てはどうでしょう。」


国内であれば、それほど危険も少ないであろうという考えと、真っ直ぐに王を見つめるマリの意志の固さに妥協した形の提案だった。


「…ううむ…。国内であれば、護衛の手配はすぐにでもできよう。騎士団に連絡して…いやいっそロー、お前が…」


腕を組み、顔を顰めて悩んだ末にジラールが出した結論に、即座にマリが首を横に振った。


「いけません、陛下。ローウェンさんは近衛騎士隊長、陛下の護りの筆頭です。何より、そのお顔ではとても目立ってしまいます。」


ジラール王の傍らに立ち、騎士団の誰を行かせるべきかと思案するローウェンを見上げるマリ。

あまり人に興味のないマリでもわかる、艶のある長い黒髪と冷たい宝石のようなアイスブルーの瞳。整った顔立ちで背も高く、地位もある。絶対に、目立つ。


きっぱりとそう言われて狼狽えるローウェンと、堪えきれずに笑い出すジラール王。

ばしばしと自身の膝を叩きながら確かにな!と再び込み上げる笑いを押さえ込んで、


「わかった、ならば騎士団の腕利きを用意しよう!路銀と、旅装もな。」


止まらなかった笑いをようやく収めて約束し、ローウェンも頷く。

すぐに選考に入ろう、とばかりに騎士団の者を呼ぼうと腰を上げかけたジラールにマリがすっと挙手した。


「恐れながら、私はあの方と一緒がいいのですが…」


挙手した手を、そのまま部屋の隅にいた兵士へと向けた。


未だに主人公が絶賛空気。

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