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竜王のいる異世界  作者: 土師 冴来
二章―星竜王国巡行編―
41/116

2章

40

――――



人型になり、身体が小さくなったことで傷の治りが早まったアーカイドは、港を出る頃にはほぼ回復したと、話す。

一方、怪我はほとんどないが魔力を使い果たしたジアンは魔力が回復するまではほとんど使い物にならないと嘆いていた。

よたよたと歩く様を哀れんだマリが抱えようとするが、流石に大きすぎて無理だと言われ、自らに幻影魔法をかけ直したチェザーレが、渋々小脇に抱えるも、それも居心地が悪いと暴れた為に、よたよたながらに歩くことになったジアン。


「腹へった…。」


しょぼんと項垂れながらそう呟くジアンの耳に小さな足音が聞こえた。


港を出て広場をぬけ、大通りにさしかかろうというタイミングでのその足音に、揃って大通りの方をむく。


「カイド様っ!」


果たしてその小さな足音の主は一直線にアーカイドへと突撃し、激突寸前でアーカイドに抱き上げられた。


「アイリィ、済まなかったね…怖かっただろう…。」


突撃してきたのはアイリィだった。涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔でアーカイドの首にすがりついて泣きじゃくる。

その背をあやす様にゆっくりと叩きながら謝るアーカイドに、ぶんぶんと首を横に振って真っ赤になった顔を上げるアイリィ。

そのまま首を巡らせ、チェザーレと、マリと、ジアンを見てから、


「お姉ちゃんたち、約束を守ってくれてありがとう…カイド様を助けてくれて、あたしたちの神様を護ってくれてありがとう。」


所々鼻水をすする音が混じるその感謝の言葉に、思わず微笑むマリ。

その言葉に心を打たれたのはマリ達だけではなく、アーカイドもまた、潤みそうになる目元を隠すように瞑目して、アイリィの暖かい身体に頭を預けた。


「アイリィ…!1人で行っちゃ危ない…って、カイド様!ああ、よかった…!よく戻られました…!」


アイリィを追いかけてきたであろう母親のリリィを筆頭に、街の住人たちがぞろぞろと大通りに戻ってくる。

そしてアイリィを抱いたアーカイドを見ては口々によかった、おかえりなさい、と笑顔を見せる。それに対し、アイリィを抱えたままではるものの、すまない、と謝るアーカイド。


その様に擽ったそうに笑って、そっとその輪から離れて見守るマリ達。

海は荒れたが、人々に被害はなかった。アーカイドはアイリィを下ろして、街の住人に謝罪しているが、大漁で返してくれ!などと言われて苦笑している。

ひとしきりアーカイドと話した住人たちは三々五々と各々の家へと戻っていった。

直にこの街の活気も戻るだろう。


ニコニコしながらその様を思い浮かべ、先に宿に戻ろうか、とチェザーレたちと話してから、ゆっくりと宿へと戻る。

宿には既にリリィが戻っており、マリたちを出迎えてくれた。


「そうだ、おかみさん。このあいだ見せてもらったご先祖さまの手記って、また見せてもらっていいですか?」


サービスだという果実水を出してくれるリリィに、マリは思い出したようにそう尋ねると、リリィは一瞬キョトンとしたがすぐに快諾して取りに行ってくれた。

リリィがその手記を持って戻ってくるタイミングで、くっついて離れないアイリィを抱えたアーカイドが宿へと来た。

レインティアはアーカイドの宮殿へと戻ったそうだ。

リリィは手記をマリに渡し、アイリィをひっぺがして手伝いをさせるべく連れ立って奥へと引っ込む。


「その手記は僕も読んだことがある…ユキを養女にしてくれた人が書いていた…あれ…?そうだ、()()()()()()()()()()()()()()()…?」


マリの手にある手記の表紙をみたアーカイドは眉を寄せて額に手をやりつつ呻くように言う。

どうやら正確な内容を思い出したらしいと思ったマリは、手記を開き、ぱらぱらと捲って、とある箇所を指さす。


――この街に時空の研究をしているという男がやってきた。

その男はアーカイド様と、ユキに執拗に付き纏い、話を聞くだけでは飽き足らずに、ユキの身体そのものを調べようと強引に迫ってきた。

私はアーカイド様に、ユキを暫くアーカイド様の宮殿にて匿ってくれるようにお願いした。

そうして1ヶ月がすぎた頃だろうか、港でその男が海に浮いているのが見つかったのだ。

すでに事切れており、外傷はなく、足を滑らせたのだろうという事だった。

近くに住んでいた者の話では、数週間前から酒浸りになり、話もろくに通じなくなっていたそうだ。

男が借りていた家には、時空に纏わる逸話や魔法陣の模写などの資料らしきものが散乱し、男が書いたであろう論文のようなものは真っ黒に塗りつぶされていた。

それから、ユキは街に戻って来た。

そして私にこう言ったのだ。

「お義父さま、私、アーカイドが好きみたい。帰れなくてもいい、あの青い瞳に守ってもらいたいって思うぐらいに…。」

あの時のユキの輝くような笑顔は、私は生涯忘れないだろう…。――


「きっと、ここの部分をあの蟲みたいなやつが悪夢に変えたんじゃないのかな…。」


その部分を静かに読み終えたマリは、そっとアーカイドの様子を伺う。

静かに目を閉じて聞き入っていたアーカイドは、ゆっくりと瞼を開き、マリを見返す。


「ああ…そうだ、そうだった…。」


脳裏に浮かぶのはあの輝くような笑顔。

それを思い出して、微かに微笑む。

チェザーレの華のある男らしい笑みとはまた違った、華やかで優しいその笑顔に、マリはこの笑顔に、ユキは堕ちたんだろうな、と苦笑した。


「さて、アーカイドさんの方はこれでいいとして、ジアン?あの大きな姿は一体なんだったの?」


問題解決、と息を抜いたものの、ふと足元でいつも以上にだらりと伸びているジアンに目がいき、ついその事を聞きたくなった。


「んあ?ああ…オレは人狼と影狼のハーフだって言っただろ?母親が人狼なんだが、月狼の血を引いてたらしくてな。オレはそれの先祖返りなんだとよ。ただ魔力がすくねぇから、自力で月影狼王(フェンリル)には至れねぇんだ。で、さっきの水色の宝石なんだが。」


ちらりとマリの方をみながらそう言われて、闇の乙女から預かった宝石をポーチから取り出すマリ。

それを目にした竜二人がぎょっとする。


「フェンリルの涙じゃないか!」


思わず声を上げたアーカイドに、頷くジアン。キョトンとするマリ。

ひょいっと身軽に椅子に乗ってお座りし、前足でちょんちょんと宝石をつつきながらジアンが続ける。


「この宝石は強力な氷の精霊と一体化した月狼の王の一体が、月の女神に捧げた涙が結晶になったものだと言われるマジックアイテムでな。1時的ではあるがこれを触媒にして狼王の力を借りたって訳だ。で、代償に魔力がスッカラカンって事。」


ふすん、と鼻息を漏らしてテーブルに顎を乗せてぼやくジアンに、よしよしと頭を撫でるマリ。

ジアンが巨大化したカラクリも分かったことで、しばらくこの宿に滞在し、ジアンが復活したら北都の方をを目指してみようか、という話で落ち着いた。


その日の夕食は、アーカイドが無事に戻って来たお祝いと言われ、食事代はいらないから遠慮なく食べてくれ!というアイリィの父親の粋な計らいで宿に泊まる全員が大騒ぎの酒盛りで盛り上がった。

酒豪と自負する漁師共が、地味な顔になったチェザーレに飲み比べを挑み、いくら飲んでも平然としているチェザーレに何人も潰されていくのを酒の飲めないマリは楽しそうに眺め、魔力を取り戻すには肉だ!と豪語するジアンは牛型の獣一頭丸ごと食べきっていた。


「マリ、今回は本当にありがとう。君たちは命の恩人だ。僕は一緒には行けないけれど、困ったことがあれば水に向かって僕を喚んで。必ず駆けつけるとこの名に誓うよ。」


食堂の隅の席でのんびりしていたマリに近づき、向かいに腰を下ろしてそういうアーカイド。


「君を襲ったというあの男性は紛れもなくこの街の住人だったよ、ただ、丘の上に避難する時に誰かに声をかけられてから記憶が無いといっていた…恐らくは一時的に憑依かなにかされていたんだと思う。」


港に置いて来た男性のことを話した時に、少し調べてみる、といったアーカイドと、かすかに首を傾げながら眉を寄せただけで何も言わなかったチェザーレ。

その様を見つつ、あの金の瞳が気になっていたマリだったが、結果は芳しくないようだった。


「さぁ、今日はもう遅い。僕のせいで疲れたろう。ゆっくり眠るといい。」


食堂のあちこちで寝こけている漁師を引きずって一纏めにしているリリィを苦笑しつつ見遣り、そういうアーカイド。

言われれば確かに眠気が襲ってきた気がして、マリは部屋へと戻る。その後をジアンが追い、マリの代わりにチェザーレがアーカイドの向かいに座った。


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