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竜王のいる異世界  作者: 土師 冴来
二章―星竜王国巡行編―
30/116

2章

29

――――


夜も明け切らぬうちからボロボロの姿で帰還した騎士たちを見てガレンは青醒める。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

そう、騎士隊長から聞かされたからだ。

隊長には部下共々ゆっくり休めと労い、寝室に戻る。

ベッドには心配そうにこちらを見るシンシア。その黒い瞳に吸い寄せられるようにそっと胸元に頭を預ける。

優しい手の動きで頭を撫でられ、何事か呟かれた。

聞き返そうと顔を上げると、黒い瞳が瞬くことなくじっと見つめてくる。


「怖いですわ…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()退()()()()()…お義父さまにご相談しましょう?」


柔らかい声音はするりと溶けて頭に染み込んでいく。

そうだな、そうだ、と頷く。




朝食の席で父である領主、モーデルトに話があると言うガレン。俯いていたミースもまた、同じく父にはなしたいことがあるという。

兄弟揃って珍しいとばかりに驚くも、親ばかの気があるモーデルトは快諾した。


「街に魔物が侵入し、これを討伐しようと私の私兵を差し向けましたが、返り討ちにあってしまいました。どうか父上の騎士団を派遣していただきたい。」


思っていたより深刻な話にモーデルトの眉間に皺がよる。

ガレンの話では街の中央付近にある宿屋に、黒髪の少女の姿で泊まっているという。狼と地味な顔の男の護衛を伴って。

その話を聞いたミースががたりと立ち上がる。何事かとミースを見やる2人。


「違います!その人達は僕を助けてくれた人なのです!魔物だなんてとんでもない!魔物はシンシ…ッ」


そこまで言いかけて、ガレンの隣で静かに話を聞いていたシンシアと目が合ってしまうミース。

どろりとした、あの黒い瞳。そして、ガレンやモーデルトに見えないように、そっと嗤う。引き裂いたような口角で。


「ヒッ…!」


言いかけた言葉を飲み込んでしまい、震えながらそのまま席に座り込むミース。

どうしたのか、と問いかけてくる父に言葉にならず、首を振ってなんでもない、と黙り込んでしまう。

震えが止まらない身体を掻き抱くようにぎゅっと身を縮こまらせる。

ぐっと目を閉じて自分を助けてくれると言ってくれた3人の顔を思い出し、深呼吸を1つ。


「と、父様…僕からのお話ですが…僕の命を助けてくださった3人を父様に紹介したいのです…!」


一息に言えば、荒くなりそうな息を吐いて、父を見つめる。

シンシアがなにか言いたげにしていたが、ここは発言すべきではないと弁えて、静かにしている。そちらに意図的に視線を向けずに父に向かって頭を下げるミース。


「待て!それはわが騎士を退けた賊を招くということだぞ!お前は父上を危険に晒すつもりか!!」


椅子を蹴立てて反論するガレン。

その濁りかかった瞳に悲しくなりつつ、ぐっと腹に力を入れるミース。ここが、自分の戦うべき瞬間だとばかりに、まだ幼い小さな身体を精一杯奮い立たせ、


「もし!その人たちが父様に害をなすようであれば、僕を廃嫡するなり、処刑するなりして頂いて構いません!父様の騎士団が同席でも構いません!ですが一度、どうか会って話を聞いて欲しいのです!」


いつもは大人しい次男の思わぬはっきりとした意思に虚を突かれる父子。

何より、ガレンの濁りかかった瞳に僅かに光が差す。


「ミ、ミース…お前…」


何事か言おうとミースに手を伸ばしかけたガレンの手をそっと細い腕が絡めとる。

隣に座ったシンシアだった。

ゆっくりと首を振り、ここは何かを言う場面ではないと身振りで伝えつつ、しっかりとガレンの顔を見つめる。

それに抵抗なく頷き、メイドが整えてくれた椅子へと再び腰掛けるガレン。

光が戻り始めていた瞳は再び濁っていた。


「あいわかった!ミース。お前の言うように一度話してみよう。これは領主決定である。よいな、ガレン?」


父の取り決めにぐっと顔を歪め、渋々頷くガレン。


「私も同席します。」


「ならばシンシアも一緒に…!」


このまま正体を暴けるのではと期待して言い募るミースだが、濁りが戻った兄の瞳に睨まれて威竦む。


「シンシアは狙われている!騎士団の護衛の負担を増やしたいのか!」


そう突っぱねられて項垂れ、わかりました、と承諾するしかなかった。

話はまとまったとばかりにモーデルトが家令にマリ達がいる宿に伝令を走らせるように言伝た。

モーデルトの仕事の予定と照らし合わせると、充分な時間が取れるのは今日の昼前が一番早いとのことで、ミースはそれで!と食い気味に言う。

予定を聞くのは先方であってお前ではないと怒られたが、一刻も早くしないと、兄が戻ってこれない気がしたからだ。

朝食が終わり、各々席を立った時に、不意にミースの前を遮る影に、思わず顔を上げる。

シンシアの姿をした異形が、にっこりと笑ってミースを見下ろしていた。

思わず叫びそうになるのをぐっと堪え、闇色の瞳を睨み返す。


「お前の正体を、必ず暴いてやる…っ!」


「まぁ怖い……」


クスクスと笑みを残し、立ち去るシンシア。待っていたガレンへと寄り添い、にこりと微笑みかけているのを見ながら、ミースも踵を返して自室へと戻った。




――――

柔らかなベッドでの睡眠はマリの疲労を優しく労い、スッキリとした目覚めを齎してくれた。

床で伏せていたジアンも大きく欠伸をしてのそのそと立ち上がる。チェザーレは窓を開けて風を取り込んでいた。


「おはよう。2人とも。」


「おはよう。よく眠れたようだな。」


「おはよーさん。腹減った…」


思い切り伸びをしてベッドから出つつ、身支度をしようとポーチから着替えなどを取り出す。

ジアンもチェザーレも、先に下で待つぞ、と言い残して出ていった。

手早く着替えて、井戸で顔を洗い、さっぱりとした所で宿に併設された食堂へと足を踏み入れると、チェザーレと何やら話している青年がいた。

何事だろうと思いつつ様子を伺っていると、話が済んだのか青年がぺこぺこと頭を下げて立ち去る。

それを見送ってマリへと視線を向け、こっちへ来いと手招きするチェザーレ。


「ミースが頑張ってくれたようだ。領主が面会を申し出てきた。この後行くぞ。」


チェザーレの言葉にマリの表情が引き締まる。席に座りながら今の青年が領主からの伝令だと聞いて納得した。

朝食を食べながら具体的な内容を詰めつつ、さっきの伝令の青年の妙にびくびくした仕草が気になったマリだったが、チェザーレに聞いてもそういう性格なんだろう、と取り合われず、ジアンに至ってはそっぽを向かれてしまう。

昨夜、ジアンに腕を噛まれ、振り回されて蹲っていた若い騎士だったなぁ、と誤魔化す二人の心の声である。


朝食後、領主から時間になれば迎えが来ると聞いて宿でゆっくりしておこうと話し、部屋に戻って読書に耽る。

チェザーレも何が読むと言うので、買った1冊を渡し、マリは傍で寝そべるジアンを片手間に撫でながら時間を過ごした。

途中、おかみさんがクッキーをおすそ分けに来てくれ、代償にジアンを娘さんにモフらせて欲しいと言うので快諾してクッキーを美味しく頂いた。

30分ほどで戻ってきたジアンには色とりどりの布リボンが巻かれ、ぐったりとしていた。

リボンを解いてやりつつ、クッキーを食べていると、昼にさしかかろうか、という時間帯に、領主からの迎えが来たとおかみさんに呼ばれる。

階下に降りれば、先程も来ていた騎士と馬車、昨日チェザーレらが話した領主の息子の騎士団達が整列して待っていた。

マリを見た隊長の壮年の男性が若干びくりとしたが、ジアンがじっと見つめるとそそくさと離れていく。

何があったのかな?と思いつつ馬車に乗り込むと、ゆっくりとした足取りで領主の館へと向かい始めた。


「マリ、もし何が事態が動くことがあれば、俺が動く。ジアンを残すから絶対に離れるな、いいな?」


静かに目を閉じて馬車に揺られているチェザーレからの真剣な声にぎゅっと唇を引き結んでコクリと頷くマリ。


やがてガタン、と馬車が止まり、ノックの後にドアが開かれる。

タラップを踏んで降り立った先に見える豪奢な館はとても美しく、暫し見入るマリ。

だが同時にどろりとした黒いものが随所に絡まり、真っ黒なモヤがニタリ裂けそうな程に笑っているように見えて眉を顰める。


「マリ。ちょっといいか。じっとしてろよ。」


傍らに降り立ったジアンが不意にそういうので、館から目を離して首をかしげつつその場に立ち止まる。


「『彼方の乙女たちよ。』マリに近づく闇の魔法を祓ってくれ。」


魔力を込めた声で呼びかけたジアンに対し、全身真っ黒の乙女たちが二人、ずるりとジアンの影から現れ、ジアンに対して手を振ったあとに、マリの方に顔を向けてこくりと頷き、するりとマリの影に消えた。


「ジアン…今のは…?」


「彼方の乙女たち。闇の精霊シェイド達だ。ドッペルゲンガーってのは闇の魔法を使えるらしいからな。念の為だ。闇魔法ってのは、呪いとか毒とかもあるんだ。彼女らはそれらを見破れるし跳ね返せる。オレやチェザーレが何がアクションするより早く気づいてくれるはずだ。」


そういっていくぞ、と歩き出す。

ふと、馬車横で整列していた迎えに来た騎士たちが尋常じゃなく真っ青になって震えているのを目にしてしまい、闇精霊というのはそんなにも強力なのかな、と足元を見やる。

影がゆらりと嗤うように揺れたような気がした。

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