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竜王のいる異世界  作者: 土師 冴来
二章―星竜王国巡行編―
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2章 閑話

連載を始めて一ヶ月経ちました!

三日坊主を極めている私なのにめっちゃ続いている…!

自分の妄想を形にすることが出来てとても楽しいからでしょう!きっと…!

これからも頑張りますので、よろしくお願いします!


閑話「英雄トライドと解放宣言」

――――


―みんな幸せだったらよかったなぁ…僕達獣族だって、ちゃんとこの星に生きてる命だよね…?―


そう、泣くように笑って言ったあいつの顔を思い出す。

マリに渡した子供向けの本の主人公になったあいつ。

子供の頃は臆病で、泣き虫で、優しいやつだった。


トライドという国がある。獣人が多く住むその国は今でこそ自治国家だが、少し前までは従属国家だった。

それを解放し、国として樹立させたのが先代獣王。

俺がそいつと出会ったのは、真っ赤に燃える村の片隅の、枯れた井戸の中で死んでいた狼の腹の下だった。

おかぁさん、おかぁさん、と弱々しく泣くそいつを俺の母上が抱きしめ、共に泣いていた。

俺たちが駆けつけた時は手遅れだった。

闇に堕ちた魔物をけしかけられ、多くの命が失われた後だった。

子供や、見目の麗しい娘は全て連れ去られていた。

生き残っていたのは、そいつだけだった。


「おまえは、今日からトライドと名乗りなさい。」


母上がそいつに向かって言う。

泣き腫らした顔で不思議そうに頷くそいつは、急に目を押さえて蹲る。

直ぐに痛みが引いたのか、瞬きを繰り返して顔を上げた。

俺と同じ、紫の瞳が涙で濡れていた。


母の元で俺と共に育つトライド。

獣人は竜より遥かに成長が早かった。俺の見た目が3歳ほど成長した時、トライドは成人していた。

兄貴分だった俺よりでかくなったトライドは、失った故郷を取り戻したいと言い始めた。

俺も母上も、種族の争いに参加はしない。

星の守護者たる俺たちは、星の危機以外に種族争いには手を貸さない。

力の差が歴然だからだ。天秤が天秤としての役割をなさない程の力量の差は、時に秩序をも乱す。


トライドは俺たちの元を離れ、仲間を探した。

俺も母上も、時々届く精霊たちからの報告を聞くに留めていた。

トライドには星竜の加護がある。並の魔物には遅れを取らないだろうが、我が子、弟分には違いない。気になってしまうものだった。

時に仲間に裏切られ、時に失い、また得て、トライドは成長し、ついには一軍を率いるまでになった。

多くの獣人を救い、導き、そして死なせた、大英雄。

奴隷として囚われた獣人の解放を求めて、戦争をしかけたのだ。

多くの命が世界へと還り、その度に母は泣いた。

この星の命は、等しく母の子だから。

トライドもそれがわかっているから、なるべく殺さないように、死なないようにしていた。

けれど、奴隷を人質に取られ、目の前で幼子を殺され、踏みにじられた時、トライドは激怒した。

星の力を使い、制御出来なくて暴れ回った。

なんで見たように分かるかって…?

その本じゃ、トライドは王国を樹立して、戦争の怪我が原因で死んだことになってるんだっけか。


トライドを止めた、いや、殺したのは俺だからな。


心を喪い、暴れ回り、星を壊し、命を食らう化け物に成り果てたトライドは俺に助けを求めた。

―チェザーレ、僕の大好きな兄様、どうか僕を止めて。僕は僕自身の言うこと聞いてくれないんだ…―


小さな月の精霊を依代にそう訴えてきた。

馬鹿なやつだ、本当は怖くて怖くて震えているんだろう。死にたくなんかないんだろう。


オオオォォーーーーーンン…


月に吼える一頭の魔物。闇に堕ち、涙を流しながら星を壊す化け物。

美しかった金の毛皮は闇に侵食されてどす黒く染まり始めている。

月を背にし、トライドだった魔物の前に滞空する俺。


ガァァアアアアァ…!


咆哮に咆哮を返す。

今からお前を救けてやるからな、と気持ちを込めて。


死闘を期待したか?そんないいもんじゃなかったよ。

元々壊れかけたトライドだ、自分自身の力に身体がついて行かなかったんだろうな…。

決着はあっさりついた。大きく、美しく、禍々しかった体はずるずると萎み、小さな小汚い狼へと戻る。

俺も人型へと姿を変えて駆け寄った。

ボロボロになったトライドを掻き抱き、そっと鼻筋に顔を寄せたら、笑われた。

死にかけているはずのあいつは、嬉しそうに笑った。


「みんな幸せだったらよかったなぁ…僕達獣族だって、ちゃんとこの星に生きてる命だよね…?」


消えそうな声でそう言ったトライドに、俺は頷く。


「本当はね、とっても怖かった。人間も、魔物も、僕自身も…。止めてくれてありがとう、母様に、ごめんなさいって伝えて…それから…」


「それから…?」


それから、の先は結局聞けないままだった。

冷たくなった狼を抱えて母の元に帰った。

母は優しく笑いわが子を受け取って大切に抱きしめ、何かを囁いて、星へと還した。


やがて、戦争を生きのびた獣人たちは従属国家を独立国家に改め、初代を英雄トライドとした。

本人はいなかったが、ごく一部の側近だけが真実を知り、そして代役を立てた。

奴隷たちを救い、祖国を取り戻した大英雄トライド。

その物語は絵本となって国をまたいで語り継がれた。



獣王国トライドの国境付近にある廃村の名残が残る場所。色とりどりの花が咲き乱れ、花の妖精たちが踊っている。

花々の中心に、石を立てただけの簡単な墓標がある。

俺はそこの前にどかりと腰を下ろした。


「100年ぶりだな、トライド。昨日、久しぶりにお前の本をみたよ。なぁ、それから、の続き…なんだったんだ?」


そう、墓標に語りかける。

ザク、と背後に足音を捉えるが振り返らない。ここにくる者など、自分以外ただ一人しかいないからだ。


「あの時、妾がなんて言ったか聞こえていて…?」


そう問われ、振り返る。

豪華な赤毛と金の薄いドレス、深い紫の瞳が美しい美女は、腰に手を当てて不機嫌そうに俺を見ていた。

何を言ったか…?

言われて、あの時の母上の唇の動きを思い出す。


―妾も、兄様も、お前が大好きよ…―


ぽろりと涙が1粒こぼれ落ちるのがわかる。

頬を濡らす暖かい水は重力に従い、顎を伝ってポロリと地に落ちた。

母上はあの時、あの場所にはいなかった。それでも、それからの続きを知っていた。同じ気持ちだったからだ。


「俺は、…」


なにか言いたいが何を言ったらいいか、言葉にならない。

しかし母上は綺麗に笑う。全てを知っているように。


「お前も、妾の大切な子よ。」


自信満々にそう告げられ、苦笑しか漏れない。

それでも昨日からあった胸のつかえが取れた気がした。

1度俯き、再び顔を上げて、しっかりと見返すと満足そうに笑われた。

きっと、俺の背後にある墓石に眠る弟も同じ顔をしているだろう。



それから日が落ちるまで墓標の前で静かに過ごした。

城に戻ったら先日異世界から来た少女と、昨日から飼い始めた狼が不思議なことがあったと報告してくれた。

トライドの時も、今も、恐らく300年前も、俺の知らないところで何か大きなものが蠢いているのかもしれないと、漠然とした予感があった。だからこそ、今度こそ、という気持ちも込めてあいつの墓に行ったつもりだったが…

とりあえず、心のモヤはひとつ晴れた気がする。

不思議そうに見上げてくる少女と狼を片手ずつ頭に乗せて少し荒っぽく撫でてやる。


ふと、テーブルに置かれた本が目に入った。

「英雄トライドと解放宣言」

表紙には美しい金色の狼。




――――

お話の中に出てきた本の内容を一人称視点で書いてみました!

ちょっと暗い内容でしたが、いかがでしたでしょうか。

でっかい狼と竜のバトルなんて怪獣大決戦じゃん!と思いましたが詰め込むとより一層重苦しくなるな…と思いまして…




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