2章
25
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「とりあえず俺たちの方であった事を先に伝える。」
丸テーブルを囲うように座り、いつものエアドームを発動させたチェザーレが、広場で見てきたことをジアンに話す。
途中で、やっぱりか…と呟いたのをマリが聞き咎めた。
「やっぱりって…?ジアンの方も何かあったの?」
そう言うマリに、頷き返して、ジアンがここで見聞きしたことを話す。
「その弟さんを介して領主様に訴えるのは?」
「子供の戯言だと思われるだろうな。そもそも、言ったところで彼らには退治する手立てがないだろう。」
マリの提案に難しい顔をしたチェザーレが返す。
「チェザーレなら出来るのか?」
そう尋ねるジアンに頷きと共にマリを見やるチェザーレ。
「俺と、マリも可能だ。マリが着けているその髪飾りは浄化の炎を宿す精霊のものだ。上手く力を引き出せれば出来る。あとは俺の爪もだな。俺自身だと直接触れて燃やせば浄化される。」
「マリにやらせんのは荷が重いだろ…とりあえずさっきのガキに話してみるか…」
自分もできると言われて無理無理とすごい勢いで首を振るマリを見ながらジアンもこれは無理だと判断する。
弟ならば、兄たちの行動などの情報が掴みやすいと思い、提案する。匂いを辿れば直ぐに見つけれると請け負うジアンに、出来ることが少ないうちはできることからやった方が選択の幅が広がるというマリの言葉に頷くチェザーレ。
「…こっちだ。結構近いな…っていうか、匂い的にこの先はもうスラムのような気がするんだが…」
ギルドを出て、裏路地で狼姿に戻ったジアンが地面に鼻を寄せて案内を始める。
幾ばくか路地を進んだ辺りで顔を上げてチェザーレを振り返りながらそう言えば、ぴくんと耳を動かせた。
「!!子供の声だ!先に行くぜ!」
そう言い残して進行方向に向かって駆ける。
チェザーレ達も後を追うように駆け出した。
「うわぁぁあ!お、狼!?」
チェザーレ達が駆けつけると、蹲った子供に群がる身なりの貧相な大人が数人。その間に牙を剥いて唸るジアン。
マリは子供の方に駆け寄り、蹲った背中をそっと撫でている。何事か声も掛けているようだった。
ジアンに並ぶように立ったチェザーレは、1度そっと目を閉じる。
再び開いた紫の瞳は先程までの人のそれではなく、縦に瞳孔が開いた竜のものだった。
「ここで狼に食われるか、竜にくわれるか、どっちがいい?」
低い声で告げれば、数人いた大人たちは足をもつれさせながら這うように逃げていった。
「…あの、ありがとうございました…。」
背後から聞こえた声に首をめぐらす2人。チェザーレの瞳孔は元の人のものに戻っていた。
声をかけてきたのは先程ギルドにいた少年で、マリの服をしっかり掴みながらもぺこりとお辞儀する。
「おう、オレらもお前を探してたんだ。怪我はねぇか?」
そう声をかけたジアンに、ぎょっとしてマリの背に半分隠れる少年。
「い、犬が喋った…?!」
「犬じゃねぇ!狼だ!!もっと言うなら人狼だ!」
がうがうと抗議するジアンに、許可証には犬って書いてるけどな、と呟くチェザーレ。
「とりあえず、ここから少し離れよっか。落ち着いて話せるとこに行こう?」
今にもチェザーレに噛みつきそうなジアン、怯えたままの少年に、話が進まないとばかりにマリが提案する。
揶揄い始めた張本人たるチェザーレもそれに同意して歩き出した。
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気がつけば昼食時だったこともあり、街の中心部に戻る道すがら見つけた食堂へと貼入ることにした。ジアンは人型へと姿を変え、その時もまた、少年は酷く驚いていたが。
「改めまして…助けて下さり、ありがとうございました。僕はミース・フォン・マグニルと言います。この街の領主の次男になります。それで、僕を探していたとか…」
運ばれてきた果実水で喉を潤した少年がそう切り出せば、3人からの視線が集まる。
『エアドーム』
手馴れた魔法を口にした後に、広場でマリがみたものの話をするチェザーレ。
兄の恋人が魔物かもしれない、と口にした時、ミースは驚きと、そしてやっぱり、と呟く。
ギルドでジアンが聞いていたのは彼女の事だったのだと確信した3人。
「お兄さん達にお願いがあります…!シンシア、兄様の恋人のシンシアの姿をしたオバケをやっつけて下さい!」
今にも泣きそうに潤む瞳を、ぐっと堪えながら、テーブルに置いた拳をキツく握りしめて訴えるミース。
「…お前にも手伝ってもらうぞ…。いいな?」
了承の代わりに、そう問いかけるチェザーレ。
こくりと頷いて、ほっと息を吐くミースの頭を撫でて、頑張ろうね、と声をかけるマリ。
詳しい話をする前に、飯にしようぜ!と明るく言ったジアンにエアドームを解除して頷くチェザーレ。
運ばれてきた料理は、ここに来る時に馬車で聞いた通り、とても美味しい魚料理がメインだった。




