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竜王のいる異世界  作者: 土師 冴来
二章―星竜王国巡行編―
24/116

2章

24

――――



翌朝、起きてから朝食を摂り、階下に降りれば、すでに人はほとんど居らず、皆お披露目を見に街の真ん中にある広場に向かったとおかみさんが言っていた。

野菜たっぷりのサラダに新鮮な卵のオムレツと焼きたてのパンを満喫してから、街の散策がてら、見に行ってみようとマリが提案した。

ジアンは人混みだと余計な混乱を招くから、と冒険者ギルドで簡単な依頼がないか見てくるといって別れた。

地味な顔に変えたチェザーレと連れ立って歩くマリ。

広場の場所など聞いていなかったが、人だかりの声がする方、とチェザーレが進んでいく。


やがて、大きな舞台を中心に人だかりで溢れた場所に付く。

このままではチェザーレはともかくマリは人の背中しか見えないと思案し、マリを連れて路地に入るチェザーレ。


「掴まれるか?屋根まで飛ぶぞ。」


そういってマリを抱えあげるチェザーレ。いつぞやの荷物のようでなく今度はちゃんと横抱きにして。

急な浮遊感に慌てて近くにあったチェザーレの首に腕を回して掴まるマリ。

何か言う前にぐっと足に力を入れて飛び上がられる。

そのまま跳躍で建物の屋根に身軽に飛び乗り、広場の方に身体を向けた。


「ちょっ…!チェザーレ…!」


広場を見下ろしながらマリの抗議を聞き流し、領主らしき壮年の男の演説がちょうど終わり、入れ替わるように舞台に上がってきた若い男女へと視線を向ける。


「え…?チェザーレ…ねぇ、あの、あの女の人…!身体をずっとモヤが覆ってる…!」


チェザーレへの抗議を諦め、抱えられたまま舞台に目をやったマリが見たのは、幸せそうに笑う青年と、その横にいる黒いモヤに包まれた歪な女性だった。


マリの真っ青になった顔を見てから女性を再び見るものの、チェザーレには普通の人間の女性にしか映らない。

困惑はするものの、抱えた少女が見えるならばそのモヤは闇であると思い直し、警戒するように屋根から降りた。

マリを降ろして立たせ、様子を伺う。


「大丈夫か?どういうふうに見えたんだ。」


青ざめた顔でチェザーレを見上げるマリ。

お城で見たレイナのモヤをもっと濃くしたようなモヤがまとわりつき、笑顔であるはずの女性の顔は酷く歪んでいた。


「なんていうか、ドロっとしてる感じのモヤで…まるでそれそのものが生き物みたいだった…あの女の人…ヒト、なのかな…」


マリの言う言葉を元に自身の知識を照らし合わせるチェザーレ。

そういった特性のモンスターがいた事を思い出したのだ。


「ドッペルゲンガーというモンスターがいる。姿かたちをそっくりそのまま写し取るモンスターだ。しかも…マリが言ったような状態ならば、恐らく闇に堕ちている…。」


魔物の可能性がある、しかしそれがわかった所で、真正面からそういっても信用などされるはずもない。チェザーレにすら見えないものを他の誰が気づくというのか。

もしかしたら家族や、婚約者の領主の息子ならばあるいは、と思ったが、幸せそうに笑うあの青年は恐らく気づいていないのではないだろうか。


そう考えると、より一層あの歪な笑顔が怖くなるマリ。


「あそこで、何をするつもりなのかな…人間として、幸せに生きたいだけなのかもしれないけど…」


「それはない。闇に堕ちた魔物は理性を失う。暴れまわらずにああやっていることの方が稀だ。恐らく何らかの支配を受けているんだろう…」


あとはそれをどう伝えるか、という問題だった。このまま見て見ぬふりも出来るが、チェザーレとしてはこのままではいずれこの街はあの魔物の餌食になるという予感がした。マリにも意志を聞いてみたが、知ってしまって放ってはおけないと真っ直ぐな眼差しで言われる。


「とりあえずジアンと合流が先だな。冒険者ギルドに行くと言っていたが…行ってみるか。」


そう言って広場の賑わいから離れる2人。

彼らの背に聞こえる祝福の声に、なんとも言えないものを感じつつ。


――――


マリ達と別れたジアンは、人型に姿を変え、許可証を首に提げて冒険者ギルドのドアをくぐった。

途端に集まる視線を気にする素振りもなく受け止め、依頼が貼られた掲示板へと歩み寄る。


「ぼ、冒険者の強いひとに依頼したいのです!」


依頼書を流し見ていると、不意に聞こえた幼い少年の声に、カウンターの方を向く。

そこには、カウンターに背伸びしてようやっと顔が覗くほどの少年が、困ったように笑う受付嬢に必死に依頼をしたいと話しかけていた。


「いくら領主様のご子息でも、理由を教えて頂けませんと、ご紹介出来かねます…」


どうやら少年は領主の息子のようで、受付嬢の言葉に思い詰めたように俯く。


「…()()()()()()()()()だなんて、言っても信じてくれないじゃないですか…」


ぽつりと、小さな声で呟く。

その声は受付嬢に届くことはなく、困ったように笑うだけ。

だが、人より遥かに聴覚の優れたジアンには聞こえていた。


(兄様ってことはあれか、今お披露目してる…恋人がオバケ…?うーん気になるが…下手に首を突っ込む訳にもいかねぇしな…)


どうしたものかと思案していると、ギルドのドアが開き、嗅ぎ覚えのある匂いがしてドアの方を振り返った。


「マリ、チェザーレ!いいとこにきた!ちょっと相談があるんだが…。」


「奇遇だな、俺達もお前に話がある。まだ居てくれてよかった。」


そういうチェザーレに、何かあったのか?と首を傾げるジアン。

とりあえず座って話そう、とギルド内にある休憩スペースへと向かう。


あの少年は諦めたようにとぼとぼとギルドを出ていっていた。


(一応匂いは覚えとくか…)


スン、と鼻を鳴らして匂いを覚え、マリ達の後を追うジアン。

なんとなく、あの少年を追うことになりそうだと思った。


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