2章
23
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星竜王国の交通手段は、大きくわけて3通りある。
1つは徒歩によるもの。
魔物や動物を狩り、ギルドなどで換金する為などの目的。
もう1つは乗り合い馬車によるもの。
この方法が最も一般的で、価格もピンからキリまで幅広い。
最後は飛竜による空の移動によるもの。
最も早く、最も高価でもある。
貴族や緊急の用などに使われることが多い。
マリ達は王都から南にある南都マグニルへと向かうことに決め、徒歩だと3日、馬車だと1日と聞いて、乗り合い馬車での移動を決めた。
道中、小さな街や村はあるが、この馬車は特別な用がない限りは寄らずに南都を目指すらしい。
しかし、馬車の御者が、こんな大きな狼は乗せられないと難色を示したのだ。
だが、乗り合わせる客はマリ達の他に優しそうなお爺さんが1人だけ。そのお爺さんも、可愛いワンチャンだねぇ、と笑うばかりで嫌がる素振りもなかった。
結局、魔物や野生動物が出たらジアンが追い払うという話に落ち着き、事なきを得てゴトゴトと揺れる馬車での移動になった。
「お嬢ちゃんたちは観光帰りかい?」
馬車の小さな窓から外を眺めていたマリに、お爺さんが話しかけてくる。
「あ、いえ…南都に行くんです。」
「ほぅ!わしゃマグニルの出身じゃで。あそこは魚が美味いぞぉ。」
そう言って見どころや隠れたお店などを楽しく話してくれるお爺さんに、マリは時折合相づちを打ちながら聞いていた。
そろそろ日が暮れようという頃に南都の周囲を囲う城壁へとたどり着く。
10ほどの馬車がが並ぶ門の列にマリたちが乗る馬車も並び、ゆっくりと進んでいく。
「マリ、ジアンの首に城の入場許可証吊っとけ。何か言われる前に見せれば通れる。」
今まで目を閉じてじっと座ったまま寝ているようだったチェザーレがそう言い、床で寝そべっていたジアンも顔を上げる。
言われるままにポーチから許可証を出してジアンの首に掛けてやり、マリ達の番になった。
「失礼、不審な…なぁ!?お、狼!?」
馬車のドアを開けた兵士らしき男がジアンを見てぎょっと声を上げる。
しかし首元に光る王都の王城許可証を見て我に返った。
「その竜の印は王城許可証…!ならば身の保証は出来ている。入って構わんが、くれぐれもしっかりと管理してくれよ。」
ジアンの頭に手を置き、どうなる事かと見守っていたマリに兵士が言い、お爺さん、地味な顔の男、と顔をチェックして馬車から離れた。
そのまま街の入口で馬車を降り、ぽつぽつと灯りが灯り出した街並みを横目に見つつ、泊まれそうな宿を探すことにした。
「ローウェンは手助けは出来ないって言ってたが、その許可証はジアンの身分を王家が保証するっていう証拠だ。街にいる間は付けといた方がいい。」
そう言うチェザーレに頷く2人。
特にジアンは自分のせいで2人が足止めやいらぬ嫌疑を掛けられると思うと1人で街の外で待っていようかと思うほどだった。
護衛として失格だ、とチェザーレに一蹴されたが。
しょんぼりするジアンを撫でて慰め、1軒の宿屋へとたどり着いた。
この宿屋、城門にいた兵士が少し割高ではあるものの、ペットも入れるといって教えてくれた宿屋で、マリがそこにする、と即決したのだった。
「いらっしゃい!おや、大きなワンちゃんだねぇ。生憎部屋はひとつしか空いてないが構わないかい?明日、領主様の跡取りのガレン様の婚約お披露目があってねぇ、埋まっちまったのさ。」
宿屋に入った3人を出迎えたのは恰幅のいいおかみさんだった。
一部屋しかないと聞いて思案するマリに構わないとさっさと決めるチェザーレ。
夕食はここで食べれるが別料金、朝食は宿泊費に付く。風呂はなし、庭にある井戸を使って身体を拭くのはいいとの事。
部屋にランプは置いてないが必要なら銅貨1枚で貸し出すそうだ。
諸々の説明に鷹揚に頷き、2階の隅の部屋だと鍵を渡された。
「とりあえず飯にしようぜ、オレ腹減った…」
ぼそぼそと喋るジアンに今日1日だけでも結構な我慢を強いてしまったと慮るマリ。
宿屋に併設された酒場のような場所で夕食にすることにした。
席について注文をし、待っている間に聞こえてくるのはやはり領主の息子の婚約お披露目の話ばかり。
どうやら馬車も運行していないらしく、お披露目とやらが終わるのを待つしかないと話し合いながら食事を取り、部屋へと向かった。
「で、ベッドは誰が使う?」
部屋に入った途端にフワフワと暖かな炎が天井に向かっていくつか浮遊する。
それを見ながらこれも精霊の恩恵か…と納得し、部屋に鎮座するベッドを前にして言うマリに男ふたりが肩を落とす。
「お前以外に誰がいる。ジアンは床で寝れるし、俺は睡眠は必要ない。」
そう言って備え付けられた1人用のソファに腰掛けるチェザーレ。
幻影魔法を解き、いつもの赤毛に綺麗な顔を晒している。
「馬車っていっても1日ずっと乗ってたんだからマリみてぇなちっこい子にゃしんどいだろ、ゆっくり休め。」
ジアンにもそう言われ、もぞもぞとベッドに潜り込むマリ。
手にはしっかりと本を持ち、ベッドで読む気だった。
手元には自分の出番とばかりにエンが顕現し、仄かな灯りを灯す。
「今日ぐらいは、大人しく寝ろ。疲れた顔してるぞ。」
本を開きかけたマリの手元から大きな手が本を攫う。
チェザーレはそのままベッドに腰掛け、火竜だからなのか、温かな手がマリの目元を覆う。
子供じゃない、と反論しながらも温かく、そのまますっと眠りに落ちたマリだった。
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2章スタートです!




