1章
12
――――
コンコン、という何かを叩く音で眠りから醒めるマリ。
ぼんやりとする思考で、昨日のことを思い出し、もぞもぞとベッドから這い出てドアを開けた。
「今まで寝てたのか。もう随分日が昇ってるぞ?」
ドアの向こうには呆れた顔をしたチェザーレ。
起き抜けに見るには目に痛いなどと考えながら、遅くまで本を読んでいたことを伝える。
「あ、そういえば昨日はありがとう。」
ふと、思い出したように礼を言うマリになにがだ?と首を傾げるチェザーレ。
「サラマンダー、貸してくれて…」
そう言ったマリに対して驚くチェザーレ。その様子にマリもあれ?と不思議に思う。
「…確かに俺が近くにいるから顕現しやすい…のか?いや…サラマンダー、どう思う」
ぶつぶつと独り言を呟くチェザーレに、着替えるから、と一旦ドアを閉めてから部屋のクローゼットを開けてみる。
昨日までは制服だったのだが、流石に3日連続で着るのを躊躇ってしまった。
クローゼットの中から動きやすそうなシャツとパンツを発見し、シャツはサイズが大きいのを我慢してそのまま、パンツはウエストをベルトで締めて身につける。
手早く着替えて先程のドアを開ければ、そこは昨日いたチェザーレの部屋で、彼はサラマンダーを肩に乗せてソファで寛いでいた。ドアの音でマリに気づいて座るよう促す。
「恐らく、生まれたてのサラマンダーが顕現したんだろう。まだ力も弱いからそんな長時間身体を保っていられないんだ。ちょっと手を出してみろ。」
対面に座るマリにそう説明し、小さな手のひらを差し出してきたのに対し、チェザーレの腕を伝ってサラマンダーがマリの手のひらをぺちぺちと叩いた。
ほんのりと暖かくなった手のひらから小さな火種が生まれ、見る間に昨日いた手のひらサイズの火蜥蜴が現れる。
眠そうに欠伸をしながらマリを見た後にすぐ近くにいたサラマンダーを見て、慌てて腕を伝ってマリの肩に避難する。
「俺の力を少し分け与えてやる。あとマリ、髪でも爪でもなんでもいいからそいつに食わせろ。」
そういって立ち上がり、マリの側まで来て膝を着くチェザーレ。
座ったマリとほぼ視線の高さが同じになり、肩にいた小さなサラマンダーに指先に灯った小さな火を食わせる。
次いでマリが抜いた髪の毛も火種にして食わせ、これでいい、と立ち上がった。
「いまのはどういう意味があるの?」
満足そうに目を細める火蜥蜴を指先で撫でながら問いかけるマリ。
炎を巻いて消える自分のサラマンダーを見送り、軽くなった肩をぐるぐると回しながら、
「生まれたばかりのそいつはほとんど力がない。だから俺の火の力を少し与えてやった。髪の毛を食わしたのはお前の呼び掛けに応えれるようにするためだ。」
そう返すチェザーレ。
トカゲのペットができたと思え。と最後に付け加えられ、難しく考えるよりはその方が分かりやすいとマリも納得する。
それに昨日、1人で本を読んでいた時、傍らで小さな体で照らしてくれたのはこの子なのだ。
まだ生まれたばかりだったはずなのに、マリに寄り添ってくれた。
それがマリにはたまらなく嬉しく感じ、小さな頭をそっと指先で撫でる。
「名前、付けなきゃね。火の精霊…炎…エン。」
エン、と呼ばれたサラマンダーの幼生はポッと火を吹いて喜び、それを見ていたチェザーレも仲良くしてやってくれ、と笑う。
「そんじゃ、今日は昼から買い出しにいくか。いつまでも城に缶詰じゃ息が詰まるだろ。」
食堂に行けばレイナの闇の気配が増すかもしれない危険性を考慮し、ここに朝食を運ばせるというチェザーレの気遣いに、素直に礼を言うマリ。
そしてタイミングを測ったようにドアがノックされ、朝食が運ばれてくる。
「そういえば、買い出しにいくなら昨日みたいに顔をかえていってね。もうお城の中じゃ手遅れだけど…」
柔らかなパンをちぎって口に入れながらそう釘を刺すマリ。
わかってる、と頷くチェザーレだったが、はた、と気がついたようにマリに視線を向ける。
「俺のこの顔を変える魔法、幻影魔法の1種なんだが、厳密には顔を変えるんじゃなくて見え方を変える魔法でな。魔力が高い奴には効かないからな。昨日ローウェンや王様が俺を見て驚いてたのは平凡な顔だからじゃなくてこの顔が見えてたからだ。」
さらりとそう言ってのけた。
つまりは魔力が高い人間には、この朝の光も霞むほどに眩しい顔が見えているのだと。
まぁそうそう見破られることはない、と気楽に笑うチェザーレと、何事も起こりませんように、と虚しい願いを心の中で呟くマリ。
それを汲み取ったのか、エンが首筋に擦り寄ってくる。
暖かな火蜥蜴を撫でながら何時でも他人のフリが出来るように気を張っておこうと買い物とは違う方向に意識を燃やし出した。
―――――
活動報告にも書きましたが、Twitter始めました。
チェザーレの顔面置いてあります(語弊がある言い方)
この話がアップされるぐらいにローウェンも。
マリはまだ顔が微妙に定まっていない…




