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竜王のいる異世界  作者: 土師 冴来
一章―異世界来訪編―
11/116

1章

11

――――



食事中、マリは正面にいるレイナを直視出来なかった。

レイナの周りには薄黒いモヤがまとわりつき、それが徐々に黒くなっていくのだ。

例えばアウローラがイツキたちに微笑み、彼らがそれに見惚れた時。

例えばチェザーレがマリに話しかけた時。

1番顕著に黒いモヤが動いたのはチェザーレがマリと共に護衛としてこの国を回ると告げた時だった。

レイナたちはアウローラやチェザーレが竜だとは知らないようで、マリは顔のいい男と2人旅になるのか、と悪気なくイツキが言ったのだ。

その時、レイナのモヤは深い闇の色に染まった。そしてそのまますっとレイナの中に消えてしまったのだ。


(この世界に来てから、出会った人たちには少なからずあのモヤが見える…山口くんたちのモヤは他の人とはちょっと違ってたけど…チェザーレの言うようにあれが闇と魔の気配の予兆っていうのかな…)


こそっと正面にいる3人に視線を向けるマリ。レイナのモヤも他のふたりと同じようにごく僅かに戻っていた。

ただ、さっきの執務室でローウェンはそれが見えていたはずだった。竜に近いからという理由で。

ならば竜そのものであるチェザーレやアウローラは彼らのモヤが見えているのではないんだろうか。

そう思い、にこやかに話すアウローラを見るマリ。


見られていることに気づいたアウローラはにこりとマリに微笑み返してきた。

3人のモヤは見えていないような素振りにみえる。

ならば、と反対側にいるチェザーレへと視線を向けるマリ。

彼もまたモヤを気にしたような風でもなく料理を口にしている。


「ねぇ、チェザ…」


見えていないのかと聞こうと彼の袖を再び引くマリ。

途端にレイナのモヤがブワリと溢れ出す。しかしレイナの顔はにこにこしてアウローラの話を聞いている。


そのあまりのちぐはぐさに、どうした?と問いかけてくるチェザーレになんでもない、と首を振って口を噤むマリ。


そうやってモヤを見ながら僅かばかりの料理を口にし、食事を終える6人。

食堂の前でアウローラは執務に戻らなければならないのでここで別れるという。

3人の案内は側を通ったメイドへと頼んでいた。

マリはどうするのかと問われ、一緒に貴賓室に行くにはレイナのもやがあまりに不気味だった。


「どんな部屋でも構いません、別の部屋で本が読みたい。」


そう、アウローラに申し出た。


「なら俺の部屋の隣にしろ、この城で何があるとは思えないが、近くにいた方が俺としても安心出来る。」


マリの強ばった顔に何かしら感じ取ったのかチェザーレが助け舟を出すように言う。

アウローラもそれに頷き、6人はその場で解散した。





「マリ、さっきから顔が固まってるぜ?何があったのか。アイツらは同郷のやつらだろ?」


長い廊下を歩き、ぎゅっと力を入れていたマリの体から少しだけ力が抜けたタイミングでチェザーレが話しかける。

いつの間にかさっきまでいたチェザーレの部屋の前まで戻ってきていたようだった。


「チェザーレは、闇と魔の気配のあの黒いモヤが見えるんだよね…?」


部屋に入りながら問いかけるマリに頷くチェザーレ。彼が部屋に入った途端に暗かった室内のランプに一気に火が灯り、室内を明るくする。

これも彼の友達の仕業らしい。


「ああ。人間の負の感情に寄り付くあれは俺ら竜には縁のないものだ。見ればすぐに分かる。もしかして…」


先程のマリの強ばった顔はそれが見えたからか?というチェザーレの問いかけにこくりと頷くマリ。

同郷の彼らには薄いモヤがまとわりついていたらしい。


「俺たちにも見えないぐらいの極僅かな闇の気配が見えるのか…」


驚きを隠すことなくいうチェザーレにむしろ見えてないのかとマリの方も驚く。

どういった状況でそれが見えたのかを聞かれ、この世界にきてから見えるようになったこと。

アウローラやチェザーレと話すとレイナのモヤが増したことなどを伝えた。


ソファにどさりと腰を下ろし、話を聞くチェザーレ。

マリも対面に腰掛ける。


「…なるほどな…そのレイナって子にはおまえは起爆剤みたいなもんになるんだろな。まぁどうせ、あと数日であの子らと暫く離れる。そうしたら収まるんじゃないか?」


顎に手をやってそう結論を出すチェザーレ。

やはりその顔のせいでトラブルになりかけているとしみじみ思うマリ。


その日はドアで続いた隣の部屋にチェザーレに案内してもらい、彼が独自に集めたという沢山の本が詰まった本棚から、気になった本を読むことで気を紛らわせることが出来たマリ。

何より、ランプの明かりとは別に小さな手のひらほどの大きさの火蜥蜴が机に陣取り、マリの手元をその炎のように明るい身体で照らし、温めてくれていたのも大きかった。


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