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竜王のいる異世界  作者: 土師 冴来
四章―精霊の国と霧の悪魔編―
109/116

4章

うわぁぁああん!

長らく放置しててすみません!

恐ろしい程に話が進まず、書いては消し、書いては消しを繰り返してました…。

長らくお待たせしてしまって申し訳ありませんでした!!

 108

 ――――



 同時刻、星竜王国


「国王陛下!ご報告がございます!」


 執務室にて書類を捌きつつ、そろそろ式典が始まる頃かと窓の外に視線をやったジラールの耳に飛び込んでくるノックと聞き覚えのある女性の声。

 入室の許可を出せば、綺麗な金髪を頭の高いところで結わえた鮮やかな碧眼が目に入る。

 姪のアイリアだった。


「どうした、騒がしい。そんなんだから嫁の貰い手が…、」


「私の嫁事情はほっといて下さい!それどころではありません!隊長が…!」


 勢い込んで入ってきたアイリアに眉をひそめながら茶化したジラール王だったが、彼女の剣幕に表情を引き締めた。


「ローウェン隊長が、失踪しました…!」


「なんだと!!?」


 手にしていた書類がぐしゃりと握りつぶされ、アイリアに負けないぐらいの声が執務室に響き渡った。




 ――――

 時は少し遡り、調味料を貰いに行くっと言って出ていったマリが一向に戻ってこず、メリアは調理場から食堂へと駆け込んだ。

 そこには彼女たち以外のメンツが顔を揃えており、青ざめたメリアの表情を見たアウローラが眉を寄せて立ち上がる。


「メリア、何かあったのね?」


 彼女の問いかけに、メリアはそっと床に膝をつき、額を床に擦り付けるように平伏する。


「申し訳ございません、アウローラ様、竜王陛下。私の責任でございます。マリが、戻ってきません…。」


 その言葉に、全員が思わず立ち上がる。

 そして、平伏したメリアの小さな頭を掴みあげる手。

 ギリギリと締め上げる手の力で体ごと浮かされ、痛みに呻くメリアに、その手の持ち主、チェザーレが低く問いかけた。


「どういうことだ。」


 瞬間、ヒヤリとした空気と共に、チェザーレの腕が白く凍り始める。

 パキパキという音と共に、アウローラの白い手が添えられた。


「手をお離しくださいませ。彼女はわたくしの従僕、この責はわたくしが請け負いましょう。」


 アウローラの冷ややかな言葉と、鋭いアイスブルーの瞳に睨みつけられ、チェザーレの薄紫の瞳が睨み返す。


「なんにしても、まずは彼女から話を聞くのが先じゃない?それでも納得できないならマリを探すより先にその子を始末すればいい。」


 と、横から口を挟むアーカイドに、ふっと息を吐いて手を離すチェザーレ。

 ドサリという音ともに、床に座り込むように落ちたメリアは痛む頭を押さえたいのを堪えて再び額を床に擦り付ける。


「申し訳、ございません…。朝食の準備中に、足りなくなった調味料を頂きに宮殿へ行ってしまい、それから戻ってきておりません…。」


 メリアの説明に、ジアンへと視線をやるチェザーレ。追えるか、という無言の促しにスンスンと床に鼻をつける。


「まだ匂いは残ってる。」


 ジアンの言葉に頷いたチェザーレは踵を返して彼を伴って出ていこうとした。

 その背を追ったのはアーカイド。

 アウローラとメリアは式典の準備がある為、ここに残らなければならなかった。


「メリア、気を引き締めて参りましょう。」


 いつになく厳しい表情をしたアウローラに、メリアは顔を上げて頷いた。



「くん…、ここで匂いが途切れてやがる…。」


 宮殿の調理場近くの廊下の隅で、ジアンが床から顔を上げる。

 きょろりと周囲を見渡すも、匂いはここで忽然と消えており、周囲に人気もない。

 式典に出払っているのは当然だが、下働きの人間さえいないシン、と静まり返った宮殿。

 ジアンの後についていた赤と蒼の竜はお互いを見て頷く。

 異様なまでの静けさと、ピリリとした緊張感に、ジアンも警戒の色を見せた矢先。

 ツン、と鼻につく異臭とともに、ジアンが突然吹き飛ばされた。

 何事かと目を見張るチェザーレと、突然過ぎて受け身も取れずに壁にぶち当たったジアンは痛む体に僅かに呻いて起き上がる。

 今度は起き上がった瞬間だった。

 左の後足の踵を思い切り噛まれ、堅がちぎれる音とジアンの悲鳴が響く。

 思わず蹲ったジアンにアーカイドが駆け寄り、癒しの水魔法を使いながら周囲をつぶさに見回し、僅かな違和感を覚える。

 その違和感を言葉にしようとした矢先、周囲を警戒していたチェザーレの頭が思い切り横殴りにされたようにブレた。

 流石に転がるまでは行かなかったが、ぐらつき、顔を覆う。

 どろりと血が手を伝い、視界の邪魔になる前に熱をもって蒸発させた。

 鉄錆の嫌な匂いに混じって、異臭が強くなる。


「この、くっせぇ匂い…腐臭か、ってことは…」


 アーカイドによる応急処置に礼を言って立ち上がったジアンが嫌そうに言う言葉に、チェザーレとアーカイドが頷く。


「どうやら、ここから先は嗅がれたくないらしい。」


 冗談めかしてアーカイドが言うが、彼らの目にもその姿を捉えることが出来ず、ましてや攻撃の気配もほとんど感じれない。

 ジリジリと時間を稼がれている、と感じるには十分な状況だった。

 その証拠に、先程までとは打って変わって、ピタリと攻撃の手が止んだ。

 試しに、とばかりにアーカイドが水の蛇を作り出してこの先へ這わせた瞬間、バシャン、と蛇が破裂する。先に行かせる気はないのは明白な攻撃だった。


「さて…まぁ僕達も暇じゃないし…。いつまでもこんなのに付き合ってられないんだよね…。」


 ジアンの傍らでゆっくりと立ち上がり、チェザーレ程ではないにしろ、少々低く呟くアーカイドに、普段の優しげな風貌はない。

 じっと動かずにいたチェザーレが、ふん、と鼻を鳴らすと、にっこりとアーカイドが笑う。

 目は全く笑っていなかった、とその後にジアンが語っていた。


「見えないなら、引きずり出せばいいだけの事。レインティア、遠慮無用だ。」


 彼の声に従うように、どこからともなく水が床を、壁を這ってアーカイドの足元に集まり始める。やがてそれは大きな水の塊となり、そのまま留まることなくどんどんと膨れ上がった。

 そして驚いてぽかんとしているジアン、状況を静観しているチェザーレをも包み込み、廊下一帯を水で埋めつくしてしまった。

 水の中にいて、ジアンは自分が一切濡れていないこと、呼吸が出来ることに驚くが、チェザーレなどはさも当然とばかりに周囲に異変がないかを伺っていた。


「さて、このままここに居ても襲われないだろうし、少し歩こうか。」


 水の中にいてさえ、きちんと声が聞こえる違和感にジアンの常識部分が崩れそうになるが、チェザーレもアーカイドも歩き始めている。

 水の空間もそれに合わせてズルズルと範囲を動かしていた。


 ガボボッ!


 不意に聞こえた音は、アーカイドの正面。

 水の中で藻掻く異形の姿があった。

 水の中でジアンたちが普段と変わらずに呼吸や音が聞こえるのはアーカイド、引いては水の大精霊たるレインティアの恩恵があればこそ。

 当然、その恩恵は彼ら以外にはない。

 結果、アーカイドが言ったように出てくるしかない状況で、異形の生き物が水の中で藻掻く羽目になった。


 パチン、と指を鳴らすことで周囲の水が引いていく。

 当然、もがく異形の周囲は水の塊が残っていた。


「なんだこいつ…見たことねぇぞ…。」


 訝しげなジアンの声に、竜たちも無言の同意だった。

 なぜなら、その生き物に耳はなく、目も鼻もない。

 唯一あるのは顔を割いたように開く大きな口と、異常に長い舌。

 毛はなく、薄い灰色の体には黒い血管が浮いて見える。

 四足獣らしく、強靭な四肢の先には黒い爪。

 異様に長い尻尾は水の中でぐねぐねと蠢いていた。

 なんという生き物か分からない以上、どうすべきかと悩んでいる彼らの傍に、影が集まる。

 ずるりと影から姿を表したのは、ジアンの契約精霊、闇の精霊シェイドのカレーナだった。


「カレーナ?こいつを知ってるのか?」


 ジアンの声に、彼女は厳しく眉を寄せて頷いた。

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