4章
すみませんすみませんすみません!!!
めちゃくちゃ体調悪くて寝込んでました…。
2日も更新が止まってしまったこと、申し訳ないです…。
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「この宮殿には下働きの人間、それ以下の奴隷が20人ほどおります。」
それ以下、という言い方にマリの表情が強ばる。
さっきの出来事を思い出したのか、ぎゅっと拳を握る姿を横目で見つつ、メリアは報告を続けた。
「どうやら法皇様は民は勿論、下働きのものにも評判はよく、この10年で労働環境はかなりよくなったと口々に申しておりました。その反面、枢機卿らに仕えるもの達は、法皇のせいで彼らの主人の機嫌が悪く、八つ当たりされる事もあるのだとか。大体は奴隷をやって凌いでいると言っていましたが。」
メリアの淡々とした報告に、項垂れていくマリ。マリのいた世界でも身分制度はあった。だがそれはマリの身近には無かった。
奴隷、という言葉がマリに重くのしかかるのにぐっと耐えながら話を聞く。
ふわりと、花のように甘い匂いがして、マリは顔を上げる。
傍らにはアウローラが座り、そっとマリの背に手を回して撫でてくれていた。
見上げた先にある綺麗な顔は、申し訳なさそうではあるが、聞く義務がある、とばかりに瞳が訴えてくる。
こくりと喉を鳴らし、言葉を切っていたメリアへと視線をやって、先を促した。
「イェブという少年に関してですが、特徴をそれとなく言ってみたものの、知っているものは居りませんでした。先程、ルミルと共にいたとお聞きしましたので、後ほど彼にも探りを入れてみます。聖剣の持ち主、それと、トオル少年に評判はうなぎ登りのようです。この宮殿内の一角に専用のフロアを与えられ、彼の側近と共に日夜訓練と魔物退治に勤しんでいるのだとか。さすがにそのフロアは警備が厳重で、侵入は不可能でした。」
メリアの報告は細かく調べ尽くされ、この短時間で調べた事が不思議な程に多くの事を調べてくれた。
彼女に労いの言葉を伝えつつ、残るはチェザーレ達だけど、と思案げに言うアウローラ。
少し休憩にしょうと声をかけた矢先に、メリアがぴくりと反応した。
「チェザーレ様がお戻りのようです。ジアン様はご一緒ではないようですが…。」
メリアの言葉に腰が浮きかけるマリだったが、背中を撫でていてくれたアウローラの手によって思いとどまる。
やがて談話室のドアが開き、チェザーレが入ってくる。
「戻った。」
1言そう言って空いていたアーカイドの隣に腰掛ける。
入れ違いでメリアがお茶を用意しに退室し、ジアンが居ないことにマリが視線を彷徨わせる。
「心配しなくていい、ジアンだけの方が動きやすいらしい。」
ガリガリと頭を掻きながら言われ、僅かに息を吐くマリと、クスクスと笑い始めるアウローラ。
「相変わらず、貴方はこういう事が苦手なのね。」
笑いだしたアウローラに、苦虫を噛み潰したように眉間に皺を寄せてそっぽ向くチェザーレ。
僕が言った通りでしょ?と遅れて笑いだしたアーカイドに、マリも頷いた。
「余計なことを…。何も収穫が無かった訳じゃないぞ。ナズールに会ってきた。」
彼が口にした名は、先日起きた騒動で協力してくれた獣王国の宰相の名だった。
聞き覚えのある名にマリが目を瞬かせる。
各国の重鎮、ともなれば彼が来るのも頷ける。だが、この国は獣人を奴隷として扱っている。そんな国が獣王国から招くのだろうか、そしてそれに応じるのだろうか?という疑問が付いて出てきた。
「俺もそれ不思議でな、それとなく聞いてみたんだが、何でも招待状が来たんだそうだ。で、普通なら突っぱねるところだが、聖剣の存在は無視できない。あと逃げたイェブの事もある。十中八九、この国に逃げたんじゃないかって言うのが獣王国の予想だった。」
チェザーレの報告にアウローラとアーカイドが苦笑し、キョトンとした彼に、マリがさっき起こったことを話した。
「なるほどな…さすが獣族、鼻の利きがいい。」
感心したように揶揄するチェザーレに、苦笑を引っ込めたアーカイドが首を傾げた。
「今の所、イェブはその存在を公にはしていないけど、これがナズール殿に見つかったら式典どころではないんじゃないかい?」
アーカイドの危惧も頷ける話だった。
だがその疑問に答えたのは思わぬ声だった。
「そりゃ心配いらねぇと思うぜ。っと、戻った。」
カチャリとドアを開けたメリアの後ろから、大きな狼がひょっこりと顔を出す。
そのままのそのそと歩き、マリの足元にお座りをした。
「ジアン!…どこも怪我はない?」
もふもふと頭を撫でながらマリが心配そうに問いかけ、それを見たチェザーレがぶすくれながら俺には何もなかったんだが?と呟いてアーカイドが失笑する。
頭を撫でられ、揺れそうになる尻尾を気合いで押しとどめながら大丈夫だ、と答えるジアン。
「それで?何が大丈夫なのかしら?」
メリアから新しいお茶を受け取り、一息ついたアウローラが足元にいるジアンへと視線を向けて問いかける。
「この国っていうか、法皇は、イェブとの繋がりを公にはしねぇって事だ。イレギュラーがねぇかぎり、少なくとも式典が終わるまでは、な。」
ジアンの答えに眉を寄せるアウローラ。
その根拠が分からず、かすかに首を傾げる。
全員の困惑した顔を見回し、ふすんと鼻を鳴らしてジアンが続ける。
「どうも法皇はトオルにご執心らしくてな。聖剣の有無以前にあいつ本人に用があったみてぇだぜ。聖剣の所有は副次的なモンらしい。で、だ。トオルとイツキは仲間っつーか同郷だろ?そんでもってイツキは英雄願望があったのをトオルは知ってたはずだ。その英雄にイツキじゃなくトオルがなった。イツキ側はもうイェブが支配してるから妙なことにはならねぇだろうが、トオルが見たらおかしいって思うだろうな。そうなったら、聖剣持ちがイツキを滅しに掛かる可能性が高い。だから、イェブは出て来れない。って事だ。」
ジアンの報告に全員がストンと納得した。
良くも悪くも2人のことをよく知っている発想だったからだ。
「お前、それどうやって…。」
自分がナズールと話している間に調べたのか、と疑問に思い、チェザーレが呟くように聞いた。
「シェイドの力だよ。法皇の部屋は警備が厳重すぎて入れなかったが、法皇のことをよく思わねぇ枢機卿やらお取り巻きやらが調べたことをまるっと聞いてきた。ただし、聖剣が近くになかったから使える手だぜ。聖剣についてる光の精霊が近くにいる時は、シェイドは使えねぇ…。」
彼の言葉に倣うように、ジアンの影が伸びて1人の女性が現れる。
漆黒の胸鎧、手甲、足鎧を纏い、羽根兜を小脇に抱えて恭しく傅く。背には折りたたんだ漆黒の翼を生やした、闇の戦乙女だった。
「カレーナだ。」
ジアンの紹介に、傅いたままそっと頭を揺らす程度に下げる戦乙女。
「これは…、複数のシェイドがより重なって昇華したのかい?精霊が溶け合い、更なる精霊に生まれ変わるなんて…。水の精霊たちでもほとんどなし得ない事だよ…。君は彼女らに愛されているんだね。」
驚く面々のなか、同じような現象を見たことがあるアーカイドだけがいち早く気づいて感嘆の声を上げる。
マリは、ジアンが先日のマンティコアとの戦いでシェイドを1体食われてしまったことをずっと気にしていたのを思い出した。
きっと、その思いが彼女らをより強くしたのだろうとも思う。
ふわふわと柔らかな毛皮を撫でつつ、おめでとう、と呟く。
「おう…。ただまぁさっきも言ったが、聖剣がないとこじゃないと、カレーナは使えねぇ、あっちの光の精霊は、最上位の精霊、アスカだそうだ。カレーナの見立てだがな。」




