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竜王のいる異世界  作者: 土師 冴来
四章―精霊の国と霧の悪魔編―
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4章

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 ――――



 街の住人に話を聞いて回ろうか、と提案するアーカイドについて通りに出ている店を回るマリ達。

 通貨に関しては冒険者ギルドが全世界共通で発行しているものが使えるとのことで、アーカイドが持っていた分で買い物が出来た。

 とある道具屋では、聖剣使いの姿を描いたという絵画が大々的に掛けられ、注目を集めていた。

 立ち寄ったパン屋では祝福の聖水でこねたパンが飛ぶように売れていて、興味本位で買ってみたが普通のパンな上に聖別もされていないとアーカイドが断ずる。

 数件ほど店を周り、休憩でもしようと公園や広場はないかと聞いた所、通りの先にあると教えてもらい、向かう。


「なんか…人が、増えていってません?」


 広場に向かう途中で、周囲の人の数が徐々に増えていっていることに気がついたマリは、アーカイドを見上げた。

 彼も難しい顔をして道の先を睨んでいる。


「うーん、これは多分、トオル君がいるんじゃないかな…。ちらほらそんな話が聞こえるね…。」


 顎に指をやって呟くアーカイドに、どうしますか?と尋ねるマリ。


「姿を見ておきたいけど、辞めておこう。今僕達の正体がバレるとアウローラに迷惑が掛かる。正直、彼自身はそこまで脅威じゃなさそうだけど、光の精霊ってのは大概が強力な存在だからね。勘付かれでもしたら面倒だ。」


 アーカイドの決定に、マリに否やはなく、2人は人の波に逆らうように来た道を歩き出した。


「凄いんですね、聖剣って。そのすごい力を、何に使うんだろう…。」


 ようやく人の波がまばらになった頃に、背後を振り返りながらマリが呟く。

 その声にふむ、とアーカイドも振り返った。


「まぁ少なくとも、僕達にとって愉快な事態にはならないだろうね…。」


「そう、ですね…。少しでもマシになるように頑張りましょう!」


 ぺちっと頬を叩いて気合いを入れ直すマリに、苦笑するアーカイドだったが、不意にマリを抱えてすぐ横にあった建物の陰に隠れる。

 荷物のように扱われて抗議しようとしたマリだたが、真剣な顔のアーカイドに、ぐっと言葉を堪えて彼が見つめる先へと視線をやった。


 視線の先では2人の男性が話しながら歩いてくるところだった。

 1人は簡素ながらもしっかりした白い神官服を着て、もう1人は騎士服を崩したようなラフな格好。

 1人は、マリも先程まで一緒だったルミルだった。何かを探すように周囲を見渡している。

 そして、もう一人もマリは知っていた。

 イツキだったからだ。

 正確にはイツキの身体を乗っ取ったイェブだが。

 彼らは時折何かを話しながら歩いている。

 恐らく1人で出てきたマリを追ってきたのだろう。

 ルミルのあの様子では、恐らくイェブの事は知らないのだろう。

 ゴクリとマリの喉がなる。

 その音さえも、イェブならば聞き取りそうで怖かった。

 その心配を他所に、2人は話しながら通り過ぎ、やがて宮殿の方へと去っていった。


「あれが、マリを狙っているっていう?」


 声を潜めたアーカイドの問いかけに、こくんと頷くマリ。

 アーカイドはイツキの顔も、イェブの事も見たことは無かったはずだが、彼の機転のお陰で見つからずに済んだことにほっとするマリ。


「アーカイドさん、なんであの人がイェブだって…?」


「ん?彼がイェブなのかい?僕はマリを呼ぶルミルの声が聞こえたから隠れただけだよ。結果的に助かったけどね。」


 アーカイドの返しにキョトンとしたが、確かに彼と一緒なのを見られるのは良くないんだった、と思い直して礼を言う。


「あの子が探してるんじゃ、街の中を歩くのは危ないね。宮殿に戻ろうか。入れ違いになるように帰れば、イェブも迎賓館までは入ってこないと思うよ、まだ、ね。」


 含みのある言い方だったが、大事になる前に戻ることに関しては賛成で、そのまま宮殿へと戻り始めるマリ達。

 途中の路地裏でアーカイドは再び小蛇の姿になって背中のザックに入り込んだ。

 門番の兵士に戻ったことを伝えて、門が開くのを待っていると、背中をつんつんとつつかれ、それがアーカイドからの何かしらのサインだと気づき、周囲を見渡すマリ。

 遠くの方からこちらに歩いてくるのは、ルミルとイェブだった。

 背筋が冷える思いで、早く門を開けてくれとばかりに閉ざされた門を見上げるマリ。

 やがて、僅かに開いた門に身体を滑り込ませ、そのまま猛然と駆け出して迎賓館の方へ向かう。

 その背が庭木の陰に消えた瞬間に、ルミルたちが門を通り抜けて来た。

 入れ違いかなぁ、とボヤくルミルの隣で、マリが消えていった方向を見つめるイェブ。


「僕はここで。報告しなければいけないことがありますから。お客様、見つかるといいですね。」


 ルミルにそう言ってからゆっくりと宮殿の中に姿を消すイェブの背を見送りながら、キョトンとするルミル。

 果たして、()()()()()()()()()()()()()()()()()、と。



 迎賓館の門を抜けた瞬間、何か膜のようなものを抜けた感触がして、ぴたりと足を止めたマリだったが、玄関のドアを開けて手招きするメリアに気づき、そのまま歩み寄る。


「おかえりなさい、マリ。アーカイド様。」


 マリ達を館に迎え入れながら言うメリアに、マリがただいま戻りました。と返す。

 玄関の広いホールで、背負っていたザックを下ろし、にゅるりと這い出てきた蛇はそのまま人型になっていつものアーカイドの姿となり、伸びをしていた。


「久々に変身したら身体がバキバキだよ…。そういえば門に施してあったのは君の風結界かい?」


 ぽきぽきとあちこちから不気味な音を鳴らしながら言うアーカイドに、マリが引いていると、左様でございます。とメリアが答える。


「あら、おかえりなさい。何か面白いことはあって?」


 メリアに買ってきたものを渡していると、ホールにアウローラが姿を見せた。

 その問にマリはどう答えるべきか悩んだ挙句、

 アーカイドへと顔を向ける。

 お願いします。という気持ちを込めて。


「ん?まぁこれと言ってめぼしいものは無かったね。少し使えそうな子が居たから彼らの情報待ちなのと、イェブだっけ?見たよ。」


 アーカイドの報告に、すっとアウローラの瞳が眇られた。


「詳しく聞きたいわ、談話室に行きましょう。メリア、人数分のお茶をお願い。それとあなたの報告も聞きたいわ。」


「畏まりました。」


 素早く指示して身を翻し、談話室へと向かうアウローラの背を追う。

 マリと並んで歩くアーカイドは僅かに虚空を見て、


「チェザーレたちはまだ戻ってないようだね。イェブと鉢合わせないといいけど…。」


 アーカイドの心配に、ジアンがいれば大丈夫だと思いますよ、と苦笑しながら答えるマリ。

 談話室に入り、ソファに腰を落ち着けて出してくれたお茶で一息入れた後、マリ達が見聞きしたことを話す。

 イェブは姿を隠すことなくこの宮殿に出入りしているようだ、とも付け加えて。


「なるほどね…。メリア、あなたの方はどうだでしたか?」


 マリ達の話を聞いた後に、少し考える素振りを見せたアウローラだったが、すぐにメリアへと顔を向ける。

 彼女はこの宮殿の下働きの人々を調べてもらっていた。

 はい、とひとつ頷いて彼女が見聞きしたことを語り始めた。


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