表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

狂戦士様(バーカーサー)は止められない!

作者: ろくろっく

最近ちょっと狂気が溜まってきたので放出してみました。

息抜きがてらのお話ですが楽しんでいただけたら幸いです。感想もお待ちしています。

 ここは剣と魔法の世界マーマクーヤ。

 人々が平和に暮らすこの世界は今、突如現れた「魔王」の存在により、存亡の危機に瀕していた!


 魔王が率いる魔物の軍勢により、次々と失われる国、尊い命。

 最強と謳われた軍隊、腕利きの冒険者、勇者と呼ばれる英雄達が立ち向かうも、理不尽な力の差によりことごとくが倒れていった。


 嘆き、悲しみ、絶望に打ちひしがれる人々の声で世界が包まれる暗黒の時代は、すぐ目の前に迫る。

 しかし、それでもなお人類は諦めなかった!


「バナーラ砂漠……ここに噂の「狂戦士様」がおられるのですね……!」


 魔王軍に滅ぼされ砂漠となったかつての草原を、白き衣を纏った少女が歩いている。

 彼女はルルベル、12歳という若さでトアール王国の宮廷魔導師を務める天才魔法使いだ。


 彼女もまた諦めない人類の一人。

 王からの勅命により、彼女はこの砂漠にいるという狂戦士と呼ばれた人物を探していた。


 曰く、狂戦士は人の身でありながら理不尽極まる力を持ち、近づく生物は何であれ打ち倒すと聞く。

 彼が善人かどうかなど定かではないが、いまの人類に必要なのは力ある人間。

 彼女は狂戦士をなんとかして味方につけ、魔王軍に対抗しようとしているのである。


「ひーっひっひっ、狂戦士には会えないぜお嬢ちゃん」

「あ、悪魔……!」


 ああしかし、なんとこの世は無情か!

 砂漠を行く彼女の頭上から軽薄そうな男の声がかけられる。

 上を見上げれば、そこには額に二本の角、漆黒の翼を背中から生やした人外が少女を嘲笑う。

 人類に残された僅かな光すら摘み取ろうと、魔王の手がこの地まで伸びていたのだ!


「俺は魔王軍四天王が一人、フェロモンモン様の側近チャーラス。悪いが狂戦士は先に魔王軍こっち側に引き込ませてもらうぜ」

「そ、そんなことさせません!」

「そんなことといわれてもなぁ? 今まで「堕落のフェロモンモン」様の誘惑に堕ちて、俺達の仲間になった人間の男たちが何人いると思う?」


 なんということだろうか!

 魔王もまた噂を聞きつけ、狂戦士を自らの軍へ取り込もうとしているというのだ。

 四天王フェロモンモン、彼女の蠱惑的な肉体に魅了され数多の猛者が虜となり、国一つがまるまる魔王の手に堕ちたことはルルベルの記憶に新しい。


「お嬢ちゃんを使って庇護欲を掻き立てようってのは良い作戦だが、男ってのは超肉食系のグラマラス悪魔っ娘にはかてねぇのさ! くっひゃはははは!」

「くっ」


 件の狂戦士が魔王の手に堕ちれば、魔王軍は更に強大になり、ますます手が付けられなくなってしまう

 一刻も早くこの悪魔を退け、先に狂戦士を見つけ出さなければならない。


「邪魔をするなです! お前をさっさと倒して、フェロモンモンより早く狂戦士さまの力を借りるのです!」

「おっと俺を甘く見てもらっちゃ困るぜ? 天才魔導士ルルベルちゃんのことは調べがついてる。魔法使い一人なんて、俺達で囲んで叩いたらイチコロだぜ」

「「「「キィーッヒッヒッヒ!」」」」


 一、二、三、四、と更に悪魔たちが空から舞いおりてくる。

 ただでさえ魔法の耐性が高いと言われる悪魔が、五人。

 ルルベルの顔がさあっと青ざめた。


「そ、そんな、五人なんて。卑怯です……!」

「悪魔に卑怯もくそもないのさ! どうする? 勝ち目がないなら、ルルベルちゃんも魔王軍に入らないかい? 男を堕とすのはフェロモンモン様だが、女は俺達が担当してるんだぜ?」

「けだものっ……!」


 男たちの下卑た笑いに、ルルベルの背筋が凍り付く。

 何たる鬼畜、この悪魔たちには幼き少女すら毒牙に掛けようとしているのだ!

 しかし数の差は歴然としており、例えルルベルが全力を振り絞ろうとも、容易く蹂躙されることは容易に想像ができる。

 ルルベルはこの後に訪れるだろう最悪の瞬間に恐怖し、しかし震えを悟られぬよう悪魔たちをにらみつける。


 今日もまた一つ、人類の希望は散ってしまうのか――――否!


「いやああぁぁあぁぁぁぁ……!!!」

「あの声ッ!? フェロモンモン様!?」


 遠くに聞こえた女性の悲鳴。

 チャラースにはフェロモンモンの声だとすぐにわかった。

 同時に、彼女が悲鳴をあげるという異常事態が起きていることも!


「おいおい嘘だろ! フェロモンモン様が男を堕とすのに失敗したってのか!?」

「狂戦士様……!!」


 四天王である彼女が悲鳴を上げるような相手。

 該当しそうな人物は、今この砂漠には一人しかいない。

 ルルベルは事態を呑みこみ、瞳に希望の光を宿す。

 そうだ、件の狂戦士は魔物の誘惑に打ち勝ったに違いない!


 フェロモンモンがルルベルたちの前方から全力疾走している。

 翼をもつ彼女が飛ぶことすら忘れ逃げ惑う程の脅威が、人類にとっては希望の光が、その後に続いて―――





「D・H・A! D・H・A! お魚食べろ! 頭がよくなる! D・H・Aェェェェェェェ!!!!」

「いやああぁぁお魚押し付けてこないで生臭い生臭いなまぐさぃぃぃぃ!!!」


 あえて、あえて皆様には見たままの真実をお伝えしよう。

 フェロモンモンを追いかけているソレ。

 二メートルはあろう筋骨隆々の肉体、上半身は「フルーツポンチ」とデカデカと墨字で書かれたクソダサい白Tシャツ、下半身は赤ふんどしのみ、顔だけ甲冑の兜で隠しているというド級の変態。

 ソレはなぜか両手に魚類の鯛を握りしめ、訳の分からない言葉を叫び、逃げるフェロモンモンに余裕で追いつき、その魅惑的な体にお魚をベチベチと押し付けているのであった。



「「「「「「…………」」」」」


 その場の全員が、一言も発することができなくなった。

 まず、なにを言えばいいのというのだ。

 あれが狂戦士なのか? ただの狂人ではなく?

 なぜふんどし一丁なのか? いや上半身もだいぶ可笑しいけど。

 何がどうして逃げるフェロモンモンにピチピチの鯛を押し付けるという状況に至ったのか、この場で分かる奴がいたとしたら教えてほしかった。


「おぉ魚たべろよぉー!!!!」

「びえぇぇえぇんわたじ菜食主義ベジタリアンなのぉぉぉ!! もうやだぁ、わたしかえるぅぅ!!!」


 実は菜食主義者だった他称超肉食系悪魔っ娘フェロモンモンはマジで泣いていた、それはもうボロッボロ涙を零しながら。

 部下であるチャラースの存在すら忘れ、代わりとばかりに彼女は背中の翼を思い出し、大空へと逃避してしまった。


「ふん! 魔物どもめ、お魚すら食えんとは! 竜宮城で鍛えなおしてくるんだな!」


 訳の分からないことを偉そうに言う謎の変態、その手にはまだ鯛がぴちぴちともがいている。



「……おおい! てめー、なんなんだ。フェロモンモン様に何しやがった!」


 ただ一人の変態を除き時が止まってしまったこの場で、最も早く再起動したのはチャラース。

 上司を倒された(?)怒りのまま、狂戦士らしき変態に詰め寄る。


「フッ、俺は貴様らが狂戦士と呼ぶ男っ。ところでお前! おさかなは食べられるか!」

「は、はあ!?」


 残念なことにこの変態は自らを狂戦士と名乗った。

 しかもチャラースの質問をガン無視して、意味不明な質問で返す始末。

 この男が狂っているのは間違いない、話がまるで通じない。


(……はっ!? まてよ、この質問にちゃんと答えたらコイツ仲間になってくれるんじゃねえか?)


 悪魔的思い付きが、チャラースの頭の中に閃いた。

 バカそのものなこの男の、バカバカしいこの質問にフェロモンモンは間違った答えを返したせいで、あんなふうに追い回されたのではないかという推測だ。

 

 それなら実に分かりやすい、女を堕落させるより簡単だと、チャラースは脳内で舌なめずりする。


「へへへ、奇遇だな。俺もアンタと同じで、お魚は大好物さ」


 正直言ってこんなド変態を仲間に加えたくもないし、魚なんて好物でもなんでもない。

 だがコイツの実力がまるで読み取れないのも事実、ここは敵対者を増やさず確実にルルベルを狩れる状況まで持っていくべきだと、悪魔は思案した。


「お魚大好物同士、仲良くしよーぜー。それに、俺ら魔王軍だしアンタを紹介したっていいぜぇ?」

「ほー、そうかそうか……」

「……あ! しまっ」


 ルルベルが一歩遅れて再起動、チャラースの意図に気付くがもう遅い――



「生ぐせえ口で話しかけてくんじゃねーー!!!」

「ぼぎゃあああぁぁぁぁあ!!?」

「も、問答無用で殴りやがったですー!?」


 ――狂戦士は鯛を握った手でチャラースをぶん殴った、それも唐突且つ思いっきり!

 ぎゅるんぎゅるんと錐もみ回転し、黒い霧となってチャラースの体は霧散――魔物にとっての死を迎えた。

 もう何が起きているかさっぱりついてこれないルルベルは、ただ叫ぶことしかできない。


「「「「ひ、ひぃーー!?」」」」


 四天王側近のチャラースが狂戦士のこぶし一発で倒されたという事実に、しもべの悪魔どもは尻尾を巻いて逃げ出していった。


「あ、悪魔をたった一撃で……」

「そこのお前は! おさかなは食べられるか!」

「私もです!?」


 狂戦士はルルベルにも握られた鯛を向けて、同じ質問を繰り返す。

 この狂戦士、見境が全くない!

 

 しかしなんたることか、状況すべてに混乱しきっているルルベルには、何と言ったら正解とか、そんなこと考える(考えても分からない)余裕は全くない!


「えと、そのぉ。お、お魚は食べられないこともないですけど、ショートケーキの方が大好物です……?」


 だから狂戦士に急かされるまま、つい本音をぽろっといってしまった。


(ななななにいってんですか私ー!? というかなんなんですこの変態はー!?)


 自分も自分で全然質問と関係ない事を喋ってしまった事実に、ルルベルは愕然とする。

 そして今更ながら目の前の変態の存在に疑問を抱くのであった。


「そうか……そうか……ショートケーキ……。おい、ルルベルといったな!」

「ひゃいっ!?」


 狂戦士は両手に握った鯛を投げ捨て、猛烈な勢いでルルベルの肩をつかんだ!

 普段ならお魚特有の生臭さが肩に移りそうで嫌だが、彼女はこの変態の一挙一動に驚くことで精一杯である。


(ひぃぃぃ! もももしかしなくても、間違えちゃったですかー!?)


 狂戦士の素顔だけは兜に覆われている所為で表情が一切読めない。

 バイザーの奥に揺らめく青い光は、果たして憤怒の眼光なのか、それとも歓喜の眼差しなのか!

 そしてルルベルは、「ああ、やはり狂戦士などと言う善か悪かも分からない存在に頼るべきではなかったと」後悔しかけたが―――



「俺たちは――絆で強く結ばれた友だ!!!」

(な……なんか気にいられたですぅぅぅぅぅ!!?)


 何をもって狂戦士がそんな結論に至ったのかは神だろうと分からないが――どうやら狂戦士は、ルルベルを親友と認めてしまったのだ!




 ――そう、この物語は、勇敢なるものや冒険者たちが活躍する、花々しき物語などではない。


「流石じゃルルベル、お主なら狂戦士殿を味方に付けられると信じておったぞ」

「お褒めにあずかりまして光栄です、王様」

「うめー! 味噌とんこつラーメンうめー!!!」

「注文が多くてスマンが、狂戦士殿のあの格好と、ワシのかつらをさっきからもしゃもしゃ食べてるのと、魔王討伐までの同行をお主に任せてよいじゃろか?」

「イヤです」

「ダメじゃ」

「格好と奇行は何しても駄目です、私も頑張りましたですけど」

「なんという疲れきった目をしとるんじゃ……。ならばせめて同行を」

「…………わかったです。じゃあちょっと手ごろな武器も下さいです。モーニングスターかメイス辺りを」

「お主は魔導士じゃろうなぜ杖を」

「杖じゃ狂戦士様をぶん殴るのに強度が足りないです。前もってたのは折れました」



――時に絆を深め。


「そういえば何故狂戦士様は兜を脱がないのです? というかなぜそんな恰好でいままで生きてきたんです? 恥ずかしくないんです?」

「ルルベルももうそんな事を気にする年になったか……思春期だな!」

「まだ王国出て三日しかたってないです。あと全然そんなことじゃないですので、今すぐまともな服を着てほしいですので」

「これは「英知の兜」といって、その昔神様に無理やり着せられたのだ! 正直視界の邪魔っ、でも俺の手では決して脱ぐことができない悲しみ!」

「またそんな適当なことを……ちなみに人が脱がしたらどうなるです? 実は素顔はイケメンとかそんなベタな展開です?」

「素顔から発せられる「フェイス☆フラッシュ」が解放されて、光を浴びた奴が全て俺と同等の知能を得られるぞ!」

「一生兜だけは脱がなくていいです」



――時に笑い。

「よく来たな狂戦士よ……。我は四天王が一人、ウルフヘジンのもがああああ」

「くえー! ワライタケ食って、笑いまくれーーー!!!」

「無理やりすぎるですぅー!!?」



――時に困難に立ち向かい。

「ぐっぐっぐ……どんな奴かと見れば、狂戦士。この四天王が一人、竜魔王と比べれば誠小さき存在じゃのう」

「竜魔王!? ま、まるで山そのものです! 狂戦士様、ここは逃げ――」

「あー! レアカードめーっけ!!」ぶちっ

「あの馬鹿真っ先に逆鱗ひっこぬきやがったですぅぅぅぅ!!?」

「―――――――――ミ゜」

「あっれー? このデカトカゲ動かなくなっちゃったぞー?」

「ふ……憤死してるです……」



――時に心強い仲間を増やし。

「貴様が狂戦士か。次々と四天王を撃破しているようだがそれもここまでだ! 四天王が一人、機神姫メカバルキリアの私は、お前の思考全てを読みとり、動きを先読みできるっ!」

「んもう! 思春期は色々気になるって知ってるけどやめて! えっちだゾ☆」

「ただ純粋に死んでほしいです狂戦士様。あと思考読み取るとかぜってー辞めたほうがいいです」

「なにおっ! この私の演算能力をなめ―――繧九↑繧医?∫洌蟆上↑莠コ髢薙←繧ゑシ」

「ほら言わんこっちゃねーです」

「繧上◆縺励?√□繧鯉シ溘??縺薙―――ばぶぅ。ばぶばぶ」

「おめでとうございます! 元気な女の子ですよ!」

「マッマ、マッマ」

「やめるです! 私にこんなメカメカしくてデカい娘はいねーです!」


――時に因縁と決着をつける。

「お、お前はっ!」

「初めて会った時以来ね狂戦士ちゃん、四天王が一人フェロモンモンがリベンジに来たわ……。もう私は菜食主義者ベジタリアンじゃない、寿司屋での厳しい修練を経てお魚を食べられるようになったわ。あの時と同じ私と思わない事ね」

「ふっ……その顔立ち、貴様も相当に修羅場をくぐったようだな。だが俺もまた、前歯をつかって板から綺麗にかまぼこを剥がす修行で力をつけたのだ!!!」

「な、なんですって!?」

「わー、バカがもう一人増えてるです」

「ばぶばぶ」



 理不尽と意味不明が具現化した狂戦士バーカーサーとそんな彼のツッコミ役として選ばれてしまった少女ルルベルの、バカバカしき冒険譚である!!!


「ぐばー!!」

「狂戦士様っ!?」

「狂戦士よ、この魔王をここまでよく手こずらせてくれたな……! どれ止めを刺す前にその素顔を私がみてやろう」

「それだけはやめろですぅぅぅぅぅぅう!!!」

「んぎゃああああああ!!!」


 ルルベルのモーニングスターが、世界を救うと信じて!!!

解説

狂戦士:解説できるような存在ではない。

ルルベル:ツッコミ役。

DHA:ドコサヘキサエン酸の略称、青魚に多く含まれるというのはよく聞く話。なお鯛は白身魚……。

ウルフヘジン:死因、ワライタケの大量摂取。

竜魔王:憤死、なお逆鱗が生えてた跡には狂戦士がアロエの葉っぱをくっ付けておいた(意味はない)。

機神姫:狂戦士の思考回路を読み取り、精神年齢が1歳児のそれと同等になった。

フェロモンモン:敗因、狂戦士が回転寿司でショートケーキの皿しか取らなかったから。

魔王:竜魔王と名前がかぶってる。モーニングスターの一撃に耐えられるような肉体派ではない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 会話のキャッチボールをする気が無い凶戦士と勢いのあるナレーションがツボですw 支離滅裂なのに笑えてくる感じが好きでした(´∀`)
2020/07/04 15:49 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ