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現世幽世

 かりかり、さくさく。かりかり、さくさく。


 わたしはハンバーガー店のポテトが好き。ハンバーガーを買わないでポテトだけ食べることの方が多い。


 まあ、店内で食べることは無くて、絶対に持ち帰りだけど。


 かりかり、さくさく。かりかり、さくさく。


「あ、この期間限定バーガー美味しい」


「ホント?こっちのは微妙だよ?」


「私はちょっと怖くていつも同じのしか選べないです。あ、ナゲットの大きいサイズ買ったんです!一緒に食べましょ?」


 ……ポテトに集中して誤魔化していたけど、駄目だ居心地が悪い。基本一人でいるのが好きなわたしは、こんな仲良し組に交ざって休日を過ごすことなんてなかったのだから。


 というか、中学生って外バーガーして良いの?補導されない?大丈夫?


「ほら、御神さんもどうぞ」


「……いただきます」


 差し出されたチキンナゲットを食べながら思い出す。


 うずまきさまに襲われた二日前。


 私たちを助けてくれたのはお母さんだった。


 わたしはいつもの様に気を失っていて、お母さんはわたしと三人を家に連れ帰って、お父さんが帰ってきた後に車で送ったらしい。


 わたしは目が覚めてから両親に色々と一般家庭では無い様な、うちのふくざつな事情を聞かされた。


 ――結論から言うと、わたしに霊が見えていた事を両親は知っていた。


 この見る力は、お父さんの遺伝らしい。お父さんはわたしみたいに目を隠さなくても見えるし、声も聞こえるし……触れもするらしい。


 わたしが毎日毎日死にそうな思いをしながら生きていたと言うのに……、そう思ったのが顔に出たらしい。


 両親ともに苦い顔をしながら言った。


 言うことが出来なかった、と。


 子供の頃に霊を見たことがある、とか、子供は霊が見える、とか、霊感がある無しの話でよく出てくるけど、つまりはそれ。


 子供は霊感が強いんじゃなくて、曖昧なのだと言う。生きているのか死んでいるのか、産まれたのか、まだ産まれていないのか。


 その曖昧さを隔てて、現世、幽世と言うらしい。


 わたしは曖昧だった。


 そして、今も曖昧であり続けている。


 子供の全ては親から始まる。親が教える、教育する。


 あなたは産まれたよ。あなたは生きているよ。自分達も、周りも、皆、生きているよ。


 死んだ人は、いなくなるよ。


 そう、いなくなる。


 いくらお父さんが見えていようと聞こえようと触れようと、親がそれを子供に言うわけにはいかなかった。


 曖昧では無くなるから。


 確定してしまう。


 いなくなってしまったものに触れていることが、確定してしまうから。


 わたしが、お父さんと同じ、もう戻れない人間になってしまうから。


「遅かったがな。……いや、早かったのかな」


 お前の成長が……。


 ポテトを食べてナゲットを食べて、口の中が少し塩辛くなったのでコーラに手を伸ばす。


 わたしが普通に産まれてくるかは賭けだった。


 お父さんの中ではそうだったらしい。お母さんはそこまで深くは考えてなかったと言う。


 娘を賭けた上に負けたわけだ。救えないし救われないよ。主にわたしが一番救われないよ。産まれて来たくなかったとも言えないし、腹立たしいわぁ。


 ちゅごごごごごっとコーラを吸う。


 この何とも言い難い気持ちも、炭酸の様にはじけて消えてしまえばいいのに。


 そんなわたしのアンニュイな気持ちを知ってか知らずか(まあ、しらないだろうが)ショートカットの似合う(これも恨みがましい)城戸さんが話題を振ってきた。


 何の話題かと言えば、わたしのお母さんの話。


「カンナちゃんのお母さん、すごかったよね!来たと思ったら、何か怖いの全部やっつけちゃったんだもん」


「いや、恭子。何か怖いのってさ。……まあ、何か怖いのだったけどさ。確かに凄いよね、本当に何も感じなくなったし」


 城戸さんの相槌の打ちにくい言葉端に、微妙な顔をしながらも同意したのが新谷さん。


「いや、あれはそう言うのじゃ無くてね。何と言うか……」


 何と言うか、言葉に困る。


 あれは、うちのお母さんがあのワケわからんものたちをやっつけたわけでも、祓ったわけでも、調伏したわけでもない。


 あれらが、お母さんを避けたのだ。


 ガン無視したと言ってもいい。


 お父さんが賭けた。いや掛けたのがお母さんのこの体質。


 この世のものならぬ、幽世が全て避けて通る。幽世が関わる全ての不自然を自然に還す、超自然体質。


 何の事はない、家でわたしが安寧と暮らせていたのはこのお陰。


 お母さんがいたから、何も出なかった。


 お母さんが住んでいる場所だから、何も近づいて来なかった。


 そしてわたしはそれを継がなかっただけの話だ。


 ただそれだけ。


 あそこにお母さんが駆けつけたのは、お父さんがお母さんに電話をしたかららしい。


 お父さんには見えたのだそうだ。私たちを追っていたものが。娘の危機として。命の危機として。


「まさか自分の娘が知らぬ間にあんなものに襲われるようになっていようとは。お前の肩越しにうっすら見えただけなのに、片目を持っていかれる所だった」


 そう言ったお父さんの左目は、瞼か大きく腫れ上がり、白目が赤く染まっていた。


 そんなものを退けたと考えると、やっぱり凄いのかもと思えるけど、不自然を自然に戻す人間、なんて考えると、凄いってよりもやっぱりお母さんもおかしいのだと思う。


 だからこそ、わたしが産まれた。


 極端と極端が引かれ合ってわたしが産まれた。


 理想は調和で、それは叶わなかったけれど。


「でも困りましたよね」


 そんな、中学生には言い難い(わたしもそうだけど)ことを言いあぐねていると、沢野さんがそんなことを言った。


「私たち、あんな目にあったからわかりますけど。わかってしまいましたけど、来週の()()()危ないんじゃないでしょうか?」


「まさにそれなんだよねぇ」


 またもそれに同意したのは新谷さん。


 まあ、それはいい。それはいいが、肝試し?


「あ、そうだよね。肝試し、お祭りのあとに集まってやろうって言ってたよね」


「そうなんですよ。町内会企画のものなので大人もいるし大丈夫だとは思うんですけど……」


「あんなの出てこられたら、大人とか関係ないでしょ」


 で、三人の視線の矛先がわたしに向いた。


「御神さん、お母さんと一緒に参加してくれない?」


「はん、嫌だね」


 鼻で嗤ってやった。

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