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おさんぽ

 うちの学校で飛び降り自殺があってから2日。テレビのニュースでも報道されていて、新聞にも載っていたらしい。らしいと言うのは、わたしがニュースも新聞も見ないから。


 学校は1週間ほど休校になっていて、わたしは今、暇をもて余している。


 ベッドに寝転びながら考えてみる。結局、あの飛び降り幽霊は何だったんだろうか。あの男子が死んだのは、あの日、あの瞬間だったのだ。


 生霊ってやつだったのか、はたまたわたしは幽霊じゃ無くて未来を見ていたのか。


 ……なんだか頭が煮えてきた。ぐるぐると余計なことは考えるべきじゃない。


「お母さん、散歩行ってくる」


「はーい、気を付けてね」


 お母さんに一言かけると、しまってあるリードを引っ張り出す。その音を聞き付けて駆け寄って来る一匹の柴犬。


 名前はアマテラス。


 いや、おかしいのはわかる。でも、お母さんが好きなゲームの犬がこの名前で、犬を飼うならこの名前以外認めないって言うから。わたしはそんな呼び方はできないので、アマちゃんと読んでいる。


 首輪にリードを繋いでやると、盛大に尻尾をふって、早く行こうとせがんで来る。


「よし、アマちゃん、行こうか」


 天気も良い、お散歩日和だ。


 家を出ると、とりあえずいつもの公園に向かって歩き出す。公園は歩いて15分くらいのところにあって、広いはらっぱになっている。アマちゃんを遊ばせるには中々良い場所。


 アマちゃんと一緒にいると、よくない霊が減る。わたしは幽霊が近くなると頭痛がするけど、よくない幽霊が増えると、それがより顕著になって痛みも増す。


 よく動物は()()()()()なんて言うけれど、アマちゃんは色々わかって、わたしを守ってくれているような気がする。


 そんなことをつらつら考えながら、ぼーっと歩いていると、思っていたよりも早く公園に着いた。


 ――軽い頭痛。


 我慢してアマちゃんのリードを首輪から外してやる。アマちゃんと公園に来たときはこの頭痛を我慢しなくてはならない。


 何故なら……。


 はらっぱに嬉しそうに走っていくアマちゃんを見送り、離れたところから手で顔を覆う。そっと指のすき間から覗くと、アマちゃんと楽しそうに遊ぶ、たくさんのワンちゃんが。


 癒されるわー、頭痛いけど。


 これに気がついたのは半年くらい前。最初はわたしがボールを投げてあげたりしていたんだけど、急に何もないのに一人遊びを始めたのが切っ掛け。


 今も続いてる、この軽い頭痛がして、不思議に思って見てみたらたくさんいた。


 いろんな犬種のワンちゃんたちがアマちゃんと駆け回って遊んでいたのだ。


 頭は痛いけど、こんな楽しい気分にさせてくれる幽霊もいるんだなって、少しだけ嬉しくなった。


 目隠しをしたまま、ぼーっとアマちゃんたちを見て過ごす。何時間でも見ていられそうだ。


 芝生に腰をおろして、そんなことを考えていると、アマちゃんが何かに気がついたようにどこかに走り出した。他のワンちゃんたちもそれについて走っていく。


 今までアマちゃんが、わたしから離れて勝手にどこかへ行こうとするなんて無かったから一瞬どうしていいかわからなかった。


 わんっ、と吠えたのが聞こえた。アマちゃんがわたしを呼んでいる?


 走った。まだ吠えているのが聞こえる。


 アマちゃんたちがいたのは、公園内の林になっているところだった。


 さっきより少しだけ強い頭痛。アマちゃんが何も無いところに吠えている。


 見て。そう言っているように聞こえた。


 アマちゃんが吠えている先、指のすき間から見てみる。


 男の子が立っていた。


 男の子がゆっくりこちらを向く。ヤバい、と思った。でも、男の子は泣いていて、その子が指を指していて、その先にはガリガリに細くなった仔犬が横たわっていた。


 男の子が何かを言っているのがわかった。でも、わたしには声は聞こえない。それでも男の子は何度も口にする。


 口の動き。


『助けて。助けてあげて』


 まだ生きている!


 わたしは仔犬を抱えると、いつもアマちゃんを診てもらっている獣医さんに向かって走った。


 大丈夫、生きている。息をしている。


 アマちゃんがわたしの横を一緒に走っている。本当にこの子は頭が良い子だ。でも、そのもっと早く走れないの?って顔は許せない。


 苦しい、こんな全力疾走初めてかもしれない。


 息も絶え絶えに病院にたどり着く。入り口を入って。


「先生!」


「はい、どうしましたか?って、神無ちゃんかい。そんなに焦ってどうしたの、アマテラスに何かあったかい?」


 先生に抱きかかえてた仔犬を見せる。


「この子……、見つけて……。死んじゃいそうで……」


「仔犬?拾ったのかい?どれ……」


 先生が優しい手つきで診察室へ連れていく。わたしはそこで力尽き、待合室のソファーに倒れこんだ。あとは先生に任せよう。


 わたしが息を整えてると、アマちゃんがまた何もないところを見ていた。もう苦しすぎて頭が痛いのかわからなかったけど、ダルい腕をあげて、少しだけ見てみた。


 さっきの男の子が、頭を下げてゆっくりと消えていった。

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