そうでないのなら‥奈々は一生泣き続けますけど? ん?
千葉城を後にする雅樹と奈々。
死神との決戦を控え残り少ない時間を大切に過ごす。
奈々のお弁当で腹も満たされ死神退治の獲物も手に入った。
ここ千葉城では奈々の新たな能力である超記憶についても知るところとなった。
甚だ都合の悪い事もあり、今後恐らく色々苦労させられそうな特殊能力だが、その能力のおかげで俺と奈々の出会いが遠く過去から何度もニアミスを繰り返し、ようやくこの異空間でひとつになれた事もわかった。
ふたりにとって重要な転換をもたらした特別な場所となった千葉城。
いつか元の世界に帰ったら再びふたりで訪れたいものだ。
「しずかちゃん? お弁当美味しかったよ、ご馳走様でした。さぁ行こうか?」
「はい、のび太さん。お腹いっぱいになりましたか?」
奈々も俺に調子を合わせてくる。
千葉城でのやり取りがまたふたりの距離をグッと近づけたみたいだ。
「奈々? のび太さんやめない?」
「あら? どうして? 奈々がしずかちゃんなら雅樹さんには絶対のび太さんでいてもらわないと? そうでないのなら‥奈々は一生泣き続けますけど? ん? どうします? 雅樹さん?」
「ん? ってクエスチョンマークだらけなんだけど‥。はいはい、私はのび太ですよ。誰がどう考えても、決して出木杉君でもなくジャイアンでもなく、スネ夫でもなく、紛れもなくのび太です‥」
情けなく認める。
「はいっ! よろしい。誰がなんと言おうと雅樹さんは奈々だけの、のび太さんで良いのてす。むしろのび太さんくらいのほうが色々安心だわ‥」
男としてものすごくプライドが傷ついた気がする。
まぁ奈々がご満悦だから、諦めがつく様なもんで。
「思い出深い千葉城に一旦お別れだ、アディオス千葉城!」
腕を掲げてそう言う俺の袖を引っ張って心細そうな顔をする奈々。
「雅樹さん‥アディオスは嫌‥チャオにして‥」
小声でそう言うと、奈々が悲し気な顔をする。
「あ、ああ‥。じゃあチャオ千葉城!」
「チャオ! 千葉城! またすぐに雅樹さんと来ますね!」
「奈々? どうしたの?」
別れの挨拶にこだわる奈々にそっと聞く。
「アディオスって長い別れの時に使うお別れの挨拶なんですって‥だからまた来るねって感じのチャオ! の方が良いの‥。雅樹さん‥元の世界的に帰ってたら、すぐに千葉城に来ましょう! ふたりですぐに千葉城に逢いに来られる様に‥。 だからアディオスじゃなくてチャオ‥」
「そっか‥そんな違いがあったんだね。ごめんちっとも知らなかったよ。そうだね、元の世界に帰ったら真っ先にここに来よう! その時は奈々? お弁当作ってよ。唐揚げ最高に美味かった!」
「本当に! あの唐揚げは色々混ぜてありますからね〜。また作ってあげます。 雅樹さん‥本当にここに来ましょうね‥」
そう言うと奈々はグッと俺の腕を掴む。
ここに来て奈々はだいぶ変わった。
以前より溌剌として、ハッキリ自分の想いも表現出来る様になった感じだ。
しかし‥だからと言って俺達を取り巻く環境が何ら変わった訳ではない。
ナーバスな奈々のフォローはきちんとしなくては。
それでも、行動する事によって異空間から元の世界に帰る準備は進み、モチベーションは確実に上がって来ている。
死神との決戦まできっとあとわずかだ。
出来れは準備を整えて早いうちに戦ってしまいたい。
様々なパターンを勘案してみるとやはり初戦は早い方が良い‥。
どんな結果になるとしても内的時間の逆行を加味して考えていかなければならない。
このままふたりの時間が永久にここで過ぎていけば‥などと言う想いが時折頭をよぎるが、そんな訳にはいかないのだ。
無情に過ぎて行く時間に逆らうかの如く、オレ達は異空間にアンカーを打ち込む様に絆を深めて行く。
俺は背中に奈々を乗せるとバイクのアクセルをゆっくりと開けて千葉城を後にした。




