ヤッホー雅樹さんと奈々は千葉城に到着しました~
千葉城、千葉市立郷土博物館に到着!
朝食を済ませたふたりはそれぞれに出かける支度をする。
「奈々? 何かリュックみたいなものがあったら貸して欲しい」
「ありますよ~これ! どうぞ」
奈々が大きめのリュックを手渡す。
「ありがとう、助かるよ」
「どういたしまして」
「ところで奈々?」
「ん?」
「『喉元ガブリっ』はさ、やっぱり…にゃおんの影響?」
なぜだか恐る恐る聞く。
「そうですよ~にゃおんちゃんと奈々は心の同志ですから。奈々には、にゃおんちゃんの気持がよ~っくわかるんです…。雅樹さん? 奈々のことを放っておいたりしたらまた…ガブリっ! ですからね~」
無邪気な顔をしてそう言う奈々。
「…」
そうか…やっぱりそうか…。
前に夢の話をした時に妙ににゃおんの話しに食いついてきたと思ったが…。
結局俺は自分で自分に与えられる罰を奈々に伝授してしまったという間抜けなことをしてしまったのか…。
悔やむに悔やまれない。
「雅樹さん! お弁当作っちゃった! おにぎりと簡単なおかずだけど」
そう言うとお手製の弁当を得意げに見せる。
「おっ! いいねぇ~。しかし奈々は何やっても要領よく手早いね」
「えへっ」
「歩くの遅くて、走るのもっと遅くて寝相悪いけどな」
「もうっ! 雅樹さんのバカっ! せっかく褒めてもらって気分良かったのにぃ~。寝相悪いとか絶対女の子に言っちゃだめだと思います! 」
奈々がむくれる。
「ハハッ、そうだよなぁ~奈々のイメージと違うもんな、ごめんごめん」
「ねぇ雅樹さんの奈々のイメージってどんな感じなの?」
奈々が改まって言う。
「奈々のイメージか…。一言で言うと『天使』…かな」
「天使?」
「そう天使。今まで2回奈々が天使に見えたことがある。光を浴びた奈々と光の翼を広げた奈々」
俺は陽の光を浴びてまるで天使の様に見えた奈々と、夜の電車の車窓に映る街の灯が天使の翼の様に奈々と重なった時のことを話した。
「そんなことがあったんだ…。でも…天使だなんて奈々うれしい」
「そうそう、まさに奈々は美しい天使だよ…。あーでも宗教画だと天使って男ばっかりだよなぁ~。ガブリエルだけは女性っぽいけど。って待てよ? 確か天使って男でも女でもない存在だよな…」
「雅樹さん~今度は何が言いたいんですか~」
奈々が眉を上げる。
「あっいや別に…」
「もうっ! さっきから上げたり下げたり! 奈々が天使で、天使は男性でも女性でもないって、雅樹さんは一体、な・に・が・言いたいんですか! 奈々は正真正銘のお・ん・な・の・子・です!」
「いや…神聖だからちょっと私の様な下々の者がお側にいては恐れ多いかなと…」
「…」
ちょっとした冗談だったのだがなぜか無言で怒りを表す奈々。
そしてつかつかと俺のそばに来ると背伸びをして耳元で囁く
「そんなことばっかり言ってるとまた…ガブリっ…で・す・か・ら・ね…。ん?」
「はい…ごめんなさい…」
あっけなくノックアウト。
「だけどさ~よく、美しくて心優しい女性を『天使のようだ』って形容するじゃん? でも天使って実は男でも女でもないんだよな~。なんか変なの」
「美しくて優しい女性だって…ウフッ」
小声で呟く奈々。
やや機嫌が直ったようだ。
「さぁ出かけるか」
「はいっ」
マンションを出ると昨日見つけたバイクの元へ急ぐ。
DT125X、125㏄のオフローダーが今日の相棒だ。
「奈々、帰りは電車になると思うけど千葉城まではこれに乗って行こう!」
「オートバイですか? でも奈々スカート…」
そう言うと奈々はスカートのすそを触る。
「大丈夫、スカートのすそ巻き込めばいい」
「大丈夫かな? それに奈々オートバイ乗ったことないからちょっと怖いな…」
「大事な俺の天使を乗せてるんだ、安全運転で行くよ。こいつに乗って行けば道路に停車した車も関係ないし、千葉城なんてすぐだからゆっくり走るよ」
そう言うとヘルメットを奈々にかぶせる。
「しっかりつかまって、俺が車体を傾けた方に体を預けてね」
「はいっ」
そう言うとしっかりと俺の体に腕を回す奈々。
奈々がしっかりつかまったことを確認した俺はセルスターターでエンジンを始動させゆっくりと走り始める。
随分久しぶりのバイクだ。
心が躍る。
初めてバイクを買ったのは19歳の頃だったか。
夏休み中働いて稼いだバイト代を全てつぎ込んだ。
買ったと言っても父親の知人の息子が所有していたバイクを譲り受けたのだ。
つまり中古だ。
知人の息子の元妻が乗っていたバイク。
HONDA CBR250R ハリケーン 4ストローク水冷DOHC4バルプ並列4気筒45ps。
10000回転を過ぎた辺りから発する澄んだエンジン音が静かに闘志を湧かせてくれる。
おまけにと、くれた元妻が使っていたヘルメットと
夫が使っていたブーツ…。
大丈夫かこれ?
と思っていたが案の定良くコケた。
が、世界のHONDA製エンジンは山奥の峠で転倒して途方に暮れていてもしっかりと再び走り出してくれた。
俺はHONDAのエンジンを絶対的に信頼している。
すり抜けはお手の物。
大渋滞の国道16号線を学校に向けて疾走させた。
両サイドびっちり渋滞の道路やノロノロと走る車列を右に左に後ろに振り分け風の様に走る。
全く子供な乗り物だ。
渋滞を我慢して大人しく並ぶ車を横目に我が物顔で走る。
道路の端をすり抜けるドブ板走り。
車と車の間を走り抜ける蟻の門渡り。
車のドライバーが良識のある人物であることが前提の危険な走行…。
嘘みたいだが走行するバイクに対してドアを開けてくる車やドアミラーをギリギリまでに近づけてくるドライバーも本当にいる。
接触すればバイクの方が数倍ダメージがデカイ。
自由と引き換えのリスク。
だが簡単にできる事なら男の心は逸らない…。
全くバカな話だが、より速く、誰よりも速く、車より速くとスピードの虜になっていくのだ。
オフローダーはドブ板走りに有利。
上下車線が縁石で分けられている道路では車高が高い分だけギリギリまで縁石側に寄せられる。
時間が止まった異空間での走行にはもってこいだ。
稲毛海岸駅を千葉街道に向けて走り国道14号を南に。
357号に入り右手にポートサイドタワーが見えたら左折。
千葉都市モノレールの下をくぐって千葉城へ向かう。
小高い丘陵に建つ千葉城または亥鼻城に着く。
千葉城は、鎌倉幕府を開いた源頼朝の重鎮であった千葉常胤の父・常重が大治元年(1126年)に千葉県千葉市中央区亥鼻町に居館を構えた城である。
1455年(康正元年)、胤直が支族原胤房に追われるまで、13代330年にわたって両総に覇を唱えた千葉氏の拠点だ。
「奈々! 着いたよ」
奈々にぶつからないように不恰好にバイクから降りサイドスタンドをかけて奈々の手を取る。
「オートバイ初めて乗ったけど! 気持ち良かった! ちっとも怖くなかったです~」
奈々が興奮して言う。
「奈々バランス感覚良かったから俺も走りやすかったよ」
「本当に! うれしいっ」
ヘルメットを取ると博物館に向かう。
「なんだか懐かしい~。ヤッホー雅樹さんと奈々は千葉城に到着しました~」
まるで山にでも登ったかのように奈々がはしゃぐ。
珍しくテンションが高い。
「さぁ奈々行こうか!」
「はい! なんだか楽しみ」
異空間にいる事なんて忘れてしまうほどただただ奈々と一緒にいる事が楽しかった。
千葉城に向かいふたりで歩き出す。
奈々の手をしっかり握って。




