消えてなくなるのならその瞬間に奈々も一緒に、雅樹さんと一緒に…
稲毛海岸駅前マリンピアのイルミネーションに照らされる奈々と雅樹の想い。
時が止まればいいと願う奈々…
マリンピアのイルミネーションを見に来ることとなった俺と奈々は足早に家に帰る。
帰宅するとすぐに例の如く手早く夕飯を作り俺にふるまう奈々。
朝の内に仕込んであったというその手料理は昨夜と同様抜群の味付けと出来見栄えであった。
昨夜は勧められたアルコールは今夜は出かけるからとお預けとなった…。
食事が終わると遠慮する奈々を抑えて後片付けをする。
こんな上手い手料理、現実空間でもそうは食べられない。
昨夜同様、後片付けくらいさせてもらわないと罰が当たりそうだ。
「雅樹さん! もう暗くなったからマリンピア行きましょう! お風呂は帰ってきてからね!」
なんだかとてもウキウキした感じで奈々が言う。
「そんなに急がなくても下手すりゃ窓からでも見られるだろうに」
そうぼやく俺。
「そ・れ・じゃ・あ・意味ないでしょ!」
奈々のご機嫌が悪い方に傾きそうなので素直に謝る。
「はい、すみません。その通りです…」
「わかればよろしい~」
「じゃあ…はいっ」
そう言いながら俺の方に手を伸ばしてくる奈々。
「ん?」
「『ん?』じゃないでしょ?」
そう言いながら俺を待たずに自分から手を取り繋ぐ。
「ああ、おじいちゃんが転ばないように手を引いてくれるんだね…奈々は優しいのう…」
「も~う! そうじゃないでしょ? それじゃあ奈々が介護しているみたいじゃない! 雅樹さんはロマンチックじゃないんだから~。仲良く手を繋いで行くの!」
ふたりは同時に笑いそして寄り添いながら街に繰り出す。
誰もいない街をふたりで歩く。
周囲は夜のとばりに包まれている。
現実空間の稲毛海岸駅付近であればまだまだ人で溢れている時間帯だ。
が当然、異空間には俺と奈々しかいない。
街灯もネオンも瞬く星も全て俺と奈々のためだけに煌めいている。
ふたりは三菱UFJ銀行新稲毛支店の前を通りロータリーの脇を歩いてマリンピアに向かう。
ロータリーを右に曲がるとマリンピアのイルミネーションが飛び込んでくる。
「きれい…」
奈々の目が輝く。
イオンカラーのピンクのライトで植木の上から下までびっしりと電飾されている。
奈々の目にピンク色のライトが映りこむ。
俺は奈々の瞳に釘付けになっていた。
「きれいだ…ね」
「うん、とってもきれい」
イルミネーションの前でしばしたたずんだ後、左手に少し下がりベンチに腰掛ける。
その周囲には青系統の電飾がなされている。
左手の屋外イベントスペースにも煌びやかな電飾が施され、まるで季節を謳歌しているかのように輝く。
「あっちにもイルミネーション…きれい」
俺はイルミネーションそっちのけで美しく照らされた奈々横顔に見入っていた。
「あれ…? 雅樹さん?」
「ん? なに?」
「あれ言わないの?」
「あれって?」
「あ・れ!」
「…」
しばし間を取る俺。
そして呼吸を合わせるように深呼吸すると、
『バカだなお前の方がきれいだよっ!』
奈々と俺がお互いを指さしながら声を合わせて同時にそう言い笑い出す。
「あはは、奈々、雅樹さんがいつ言うのかって待ち構えてたの」
「はははっ俺はまた奈々に『不埒っ』って怒られるんじゃないかって警戒してた」
イルミネーションに包まれながらふたりは声を出して笑った。
やがて来る別れをどこかで予感しながらふたりはいつまでも笑い続けた。
イルミネーションに照らされた奈々の美しい横顔。
笑い続けるふたりの肩が触れた瞬間、どちらともなく見つめ合い軽く唇を合せる。
さっきまで手持無沙汰に各々の体を抱きしめていた腕が互いを引き寄せ合う。
永遠に封じ込められたかのような時が流れる。
「このまま時が止まってしまえばいいのに…」
奈々が淋しげな顔をする。
「今、この時は永遠だよ…俺と奈々だけのもの。今、この瞬間全世界はふたりだけのものだ。この先何があろうと決して無くならない永遠の時…」
俺は自分に言い聞かせるように言う。
「雅樹さん…奈々はとても不安なんです…。雅樹さんは何があっても奈々を守り、そして元の世界に帰そうと必死になってくれるってわかっているから…」
奈々がうつむきながら不安気に言う。
「雅樹さん…約束して。死神に狩られるなら奈々も一緒…。雅樹さんがいなくなってしまうのなら奈々はこの先どれだけ生まれ変わっても意味がないの…。だから奈々を守って自分だけなんて絶対に嫌っ。消えてなくなるのならその瞬間に奈々も一緒に、雅樹さんと一緒に…それが奈々の願いなの」
思いつめた顔で必死に伝えようとする奈々。
奈々の想いが痛いほど伝わってくる。
俺は言葉のかわりに強く抱きしめ、その想いに答える。
「心配しなくても大丈夫だよ。俺はしくじったりしない。必ずふたりで元の世界に帰るんだ」
「雅樹さん…。約束…約束…よ」
奈々が俺の胸に顔を埋めながら呟く。
俺は奈々を包み込むように抱きしめる。
イルミネーションに照らされた二人はいつまでも立ち去らず、まるでその場に想いをを刻み込むかのようにいつまでもいつまでも離れられずにいた。
時は止まらず無情にも流れ続ける。
ふたりの想いは永遠に刻み込まれ、しかしただただ時は流れる…




