雅樹さんっ今夜マリンピアのイルミネーション見に来ましょっ!
千葉市美浜区マリンピアのイルミネーションを奈々と雅樹で見に行きま~す!
すごくきれいなイルミネーションですよ!
カフェリンダを出て家路につく。
陽は傾きかけていたがここからであればほどなく奈々の姉のマンションに着くだろう。
間もなく俺は異空間からの脱出を実行に移す。
稲毛海岸駅の周辺をこうして奈々と歩くのもあと何回あるか…
そう思うと見慣れた街並みもなぜか特別な輝きを放っているように見える。
何の変哲もない街並みが、ふたりにノスタルジックな想いを湧き上がらせていた。
駅前のイオンマリンピアにイルミネーションが設置されている。
季節はもう12月か…
もう少したって夕闇が街を包む頃、華やかなイルミネーションが辺りを彩る。
「雅樹さんっ今夜マリンピアのイルミネーション見に来ましょっ! ピンク色のイルミネーションがすっごくきれいなんだから!」
奈々が弾けるように言う。
「でも…寒いよ?」
ここに来てやや腰を曲げながらおっさんらしいことを言う。
「雅樹さんっ! 背中伸ばしてっ! おじいちゃんじゃないんだから! それにふたりで来れば寒くないでしょっ? ねっ?」
そう言いながら俺の腕に絡みつく奈々。
この瞳で見上げられ、おねだりなんてされたら抗える奴などいない。
「わかったわかった。おじいちゃん眠くなる前に頼むよ…」
「もうっ! そんなこと言わないのっ! 今回の空間は夜の時間だったみたいだから電力の消費が少ないみたい。だから夜になったらイルミネーション見られるの。こんなことあんまりないから一緒に見たいの…」
「そっか、じゃあ是非ふたりで見ないとな」
「うんっ!」
薄暗闇に奈々の笑顔が輝く。
漆黒の津波が運んできたのが夜の時間か。
つまり深夜帯であれば一般住宅は電気を消しているし電力を大量に消費する事業所も稼働していないから電力が残っているってことね。
全く不思議な空間だ。
切り貼りされて運ばれてきた空間は同じ場所でも違う時間帯であったりする。
数限りなく時間と空間を異なす宇宙が内在されている異空間。
例えば隣町にもたらされた5分後の世界も、このエリアにもたらされた世界も同一の空間で破綻なく存在しながら各々に全ての宇宙を内在している。
結果的に異空間は現実世界よりも広大なスペースを持つことになり、空間に比例しての質量のバランスが崩れさり超高速で時間が流れる。
普通に考えれば超質量を招きそうであるがそうではなく時間が高速に流れる結果をもたらしている。
宇宙は光速以上の速さで広がり続けている。
これは同一方向に対しては光速であるが当然広がる方向は同時に四方八方となることから引き起こされる現象だ。
どれだけの数の宇宙空間がこの異空間に内包されているのかは不明であるがこの辺りのロジックがこの空間の時間を超高速で流すことになっているのではないだろうか。
つまり同一空間内に無数に存在する宇宙空間がそれぞれに光速を超えて広がり続けそれに伴い異空間も膨張し続ける…。
そう考えるといずれベースの現実空間に影響を与える空間となってしまうのではないか…。
しかし現実世界でこの異空間の存在が全く感知されていないことから類推するに、異空間で内在される宇宙空間の数と異空間自体のスペースとにある一定の法則が存在するのかもしれない。
この法則を保持するために定期的に漆黒の津波がもたらされているとすれば何となく納得が出来る。
宇宙は光速以上で広がり続けている…
そう考えると時間の流れもまた我々が気が付かないうちに早くなっているのではないか?
子供の頃、時間はゆっくりと流れていた。
およそ夏休み終了10日前でもなければ、時間はゆっくりとゆっくりと流れ一日がとても長く退屈なものに感じられた。
しかし年を取るにつれて、一日はあっと言う間に過ぎ、一週間を追いかけているといつの間にか一月が過ぎ、気がつけば一年が終わる…。
子供の頃と大人になってからは明らかに時間の流れに違いがある。
子供と大人の違いからくる時間への認識の差と考えていたが…。
時間の流れは本当に早くなっているのではないか。
四方八方に光速で広がり続ける宇宙空間。
広がり続ける宇宙空間は広がるにつれ内在する質量を希薄化する。
つまりブラックホールの逆。
ブラックホールは超質量により時間の流れが限りなく遅くなる。
これの逆ということである。
我々は時間の流れが速くなってきていることを実感できていないだけではないのか…。
原子の波長で誤差なく時間を定義しているが、宇宙に内在している原子がその母体の宇宙の時間の流れに沿って変異しても誰も気がつけていないだけではないのか。
およそ人間が知り得る、手に入れられる指標などわずかな変異で崩れ去る。
ましてや宇宙自体が宇宙を生成した意志ではないかと思われる節もあるくらいだ。
我々が実感できる指標など吹けば飛ぶ。
ブラックホールに吸い込まれた宇宙船は外部から観測する者にはあっと言う間に吸い込まれ以後観測することは出来なくなる。
しかし吸い込まれた宇宙船の中にいるクルーにとっては限りなく遅くなった時間の流れの中いつまでたっても吸い込まれない。
恐らく宇宙船の中のクルーには時間の流れが遅くなったことですら感知されていないのではないか。
これと同じ現象が現実世界にいる我々にも起こっているのではないかと夢想してしまう…。
それほど時間の流れの速さを実感して生きている。
異空間での奈々との生活…。
愛しいこの時間のなんと早く流れる事か。
俺と奈々に残された時間はあとわずか。
愛しい生きた時間を愛しい奈々といつまでも共にしたい。
時の流れが途絶えるその日まで…




