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番外編 セラ・特殊能力への苦悩

カフェリンダで椿姫が突然、セラの特殊な能力について問い詰める。

その結果思わぬ方向に話は進み、リンダ、椿姫、京子の本音が赤裸々に語られる。


番外編



カフェリンダの一角でセラとリンダが異空間について論議を繰り返し、ある一定の共通認識が構築された様だ。


「ふうーっセラ君、かなり複雑な図式ね。ちょっと疲れたわ…。それに喉も乾いた。何か飲み物用意するわね」

「リンダさんありがとうございます」

リンダはカウンターに向かう。


「椿姫ちゃーん、京子ちゃーん何か飲み物用意するわねー」

「リンダちゃんありがとー」

「すみません、リンダ先生」


少し離れて座っていた京子と椿姫も返事をし、セラの方へ近づいて来る。


椿姫がセラの目の前に着くとなぜか無言でセラを見つめ始める。

「お兄ちゃん…」

「ん? どうしたの椿姫すごい顔して…」

椿姫の異様な形相にセラが気付く。


「お兄ちゃん、無意識の領域に行って色々見られるんだよね? 過去も現在も未来も?」

「あ、ああ介入出来ない高次なレベルの意識体はあるけどね…それがどうかした?」


「…」

椿姫が無言で考え込む。

「それって色々見えたりするわけ?」

「見えるけど…色々って?」

椿姫が何を言いたいのかわからずセラは戸惑いがちに聞き返す。


「やっぱり見えるんだ…」

「やっぱりって?」

セラは不安でいっぱいになり短く返す。こんな時の椿姫が何かとんでもないことを言い出すのをこれまで何度も経験して来たからだ。


「いやらしいっ! リンダちゃん、京子ちゃん聞いてっ! お兄ちゃんは過去や現在や未来に行って色々見てるんだって!」

なぜか胸のあたりを隠しながら椿姫が叫ぶ。


「どうしたの椿姫ちゃん大きな声だしてー」

カウンター越しにリンダがたしなめる。

「リンダちゃん呑気なこと言ってる場合じゃないよ!」

興奮する椿姫を尻目に京子が代弁する。


「椿姫どうしたの? セラ君どういうこと? なぜ椿姫は興奮してるの?」

京子が慌て駆け寄る。

「いや…僕には一体何のことだか…」

セラが戸惑う。


「お兄ちゃんそうやってとぼけて! 京子ちゃん危ない! お兄ちゃんから離れて!」

「は? 椿姫? 一体なんなんだよ? セラ君もびっくりしてるじゃない! ちゃんと説明して」

京子が冷静に返す。


「京子ちゃん、お兄ちゃんが女の子みたいな感じだからって油断しちゃダメ! お兄ちゃんは無意識の領域でみんな見えちゃうんだから!」


「は? 何言ってるんだよ椿姫?」

「どうりでおかしいと思ったよ! 女の子みたいだからって言ってもお兄ちゃんも年頃の男の子! それなのにこんなに可愛くて魅力的な椿姫に指一本触れようとしないばかりか、椿姫がせっかくちょっと気を許した格好しても見もしない!」

一気に捲したてる椿姫。


「椿姫? 何が言いたいのかわかんないよ?」

京子も椿姫をたしなめる。

こうなると椿姫は止まらない。


「つまりね〜お兄ちゃんが椿姫にちっとも興味を示さないのは、無意識の領域で過去現在未来の椿姫のあられもない姿を堪能しているからに違いないのよ!」


「はぁ〜?」

京子とリンダが同時に呆れる。

「椿姫…何を言い出すかと思えば。セラ君はそんなことする人には見えないよ? 京子から見ても。ね? セラ君? そんなバカなことしないよね?」

「京子ちゃん騙されたらダメっ」

叫ぶ椿姫。


「椿姫…そんなことを考えてたの? 心配しなくてもそんなことはしてないよ。」

セラは感情を取り乱すこともなく優しく椿姫に言う。


「椿姫…何考えてんだよ。お子ちゃまだなぁ椿姫は」

ほくそ笑みながら放たれた京子のこの言葉に椿姫が過剰反応する。


「むぅ〜みんなお兄ちゃんの味方ばっかりして〜! 椿姫はみんなのことも心配して言ってるのに〜」

そして無言になって考え込む様な顔を作る。

セラは呆れた様な顔を見咎められ、椿姫をこれ以上興奮させない為に努めて平静を装っている。


「みんなで椿姫のことお子ちゃま扱いして〜。ん? 京子ちゃん! お兄ちゃんから離れて!」

椿姫が何か閃いたかの様に言う。


「今度はなんだよお子ちゃま椿姫〜」

京子がからかう。

「京子ちゃん! 良く考えて! 無意識の領域に行けるなんてすごい能力持ってるんだよ? そしたら透視能力とかも絶対持ってて、椿姫達みんな丸裸だよ! 嫌っエッチ」

そう言いながら胸のあたりを隠す椿姫。


「エッ? そうなの? セラ君?」

椿姫のあまりの剣幕に京子まで胸のあたりを隠しながらセラの視線から自分の身体を庇う。


『透視‥出来ないことはないけど‥ここは敢えて否定しよう。これ以上椿姫を興奮させても何も良いことはない』

セラが心の中で呟く。


「そんなことは出来ないよ。」

そんなことは出来るけどしないと言う思いを込めて嘘にしないセラ。


「ほ、ほら椿姫! 透視なんて出来ないって! 椿姫はバカだなぁ」

と言いつつ胸のガードを外さない京子。


「そんなこと言って京子ちゃんだって一瞬疑って胸隠してるじゃん!」


「おバカさん、セラ君がそんなことするわけないでしょう? たとえ出来たとしても堂々としてれば良いのよ? 女の余裕っての?」

リンダがことさら胸を張り出して言う。


「リンダちゃんは黙ってて! まだ出来ないって確定したわけじゃないんだからオッパイ隠してってば! そんなに大っきいのと比べられたら椿姫の立場ないでしょ!」

なんだかよくわからない方向に話が進んでいる。

「何言ってるの椿姫ちゃん?」

リンダが可笑しそうに笑い京子も続く。


「むぅ〜みんなで椿姫のことおバカなお子ちゃま扱いして〜」

椿姫がさらにムキになる。


「京子だって別に自信ないわけじゃないしセラ君に透視してもらったっていいかなぁ〜。自分で言うのもなんだけど結構‥綺麗よ」

そう椿姫を挑発しながらセラの前でポーズを取る京子。


そんな京子をセラがチラッと見る。

ちょっと透視しちゃおうかなとの思いがよぎるが京子と目が合いそして猪の様に激る椿姫の気配を感じて中止される。


「京子ちゃんダメ〜お兄ちゃんを誘惑しないでっ! 椿姫のだよっ!」


思わず本音が飛び出すが興奮している椿姫は自分が言っていることが耳に入らない。


「プッ‥」

いつもはセラへの想いを悟られまいと振る舞う椿姫のドタバタ劇に京子とリンダが思わず吹き出す。

しかし、『椿姫のだよっ』との思わず飛び出した椿姫の言葉に微笑ましい気持ちにもなるのであった。


セラは喧騒の中、過去を振り返っていた。


幼少期から他の人間には見えない物や聞こえない声が聞こえることで随分と疎外感を感じさせられていたのである。


なんでわかるの?

どうして知っているの?

こっそり見てたの?

気味の悪い子。


自分が知覚していることは他の誰もが認知しているものと理解していたセラは周囲から疎まれることもしばしばだった。


少年期に入る頃には自分に与えられた特殊な能力であることを自覚し両親にですら悟られない様に能力をひた隠した。


そんなセラの中にはセラを100%理解してくれる、テラと言う男性人格と七瀬と言う女性人格が内在されている。

セラはこのふたりの人格を多重人格、いわゆる同一性障害の賜であることを強く否定した。


セラの認識の正当性は、その後の長大な世代間に渡る実験によって完全に証明された。


セラの中には完全に独立した魂が存在し内在したことが明らかになったのである。


プロジェクトにより、蘇ったセラがテラ、七瀬と完全に分離されるのはこの時より数世代後の出来事である。


今のセラの中には、理性と秩序を守る科学者テラと、神秘と慈愛を司る七瀬が内在されている。各々の人格との意志の疎通はセラがひとりきりの時に行われていた。


セラ、テラ、七瀬と言う三つの魂がひとつの肉体に内在されている。


セラは大いなる意志がなぜこの様な特殊な事態を生じさせたのかを無意識の領域にまで踏み込み探りようやくその意図を掴んだ。


数世代先の未来の話である。


セラはカフェリンダに集いし叡智をサイバーワールドに集結させ永遠の時間の中それぞれのスペシャリストに研究の場を与えた。


つまり肉体的な死からの解放。魂と記憶を電子化しサイバーワールドに第2の地球を作ったのである。

大いなる意志との戦いに備えて着々と準備が進む。


セラの戦いは、ビックバンから始まったこの世界を収束、終息させるビッグクランチとの戦いだと言っても良いだろう。


しかしそれは今から遠く遠く離れた未来の時空での話である。


セラは今を懸命に生きる。

長大な未来の果てにも愛し続ける椿姫のために‥


セラの意識が椿姫の喧騒により呼び戻される。


「透視能力は、ともかく‥テレパシーや人のこころを読む力とかはありそう‥」

椿姫が、頭を捻りながら言う。


「読心術ってこと?」

京子は呆れた様に椿姫に返す。


『それも出来ないことはないけど‥ここでは敢えて秘す‥方が無難かな、経験上』

セラが再び心の中で呟く。


「ってことは、私が実は昔、椿姫ちゃんのパパのことが好きで、でも、椿姫ちゃんのママも親友で大好きで、すっごく苦しんだけどこうして成長した椿姫ちゃんを前にして『やっぱりあれでよかったのね』なんて思ってることもセラ君には知られちゃってるってこと? なんてことなの‥」


『リンダさん‥皆んなの前で言ってしまっています‥。僕はそんなこと知りませんでした。リンダさん‥旦那さんいない時間で良かった‥』

セラが心の中で呟く。


「じゃあじゃあ椿姫が京子ちゃんのことかっこ良いって思ってて、京子ちゃんならお兄ちゃんの前でチューして、ヤキモチ妬かせても京子ちゃん女の子だし浮気したことにならないし、なんか憧れの京子ちゃんともチューもできて一石二鳥だな、なんで企んでるのも知られちゃってるってこと?」


『企みって‥椿姫‥皆んなの前で言っちゃってるし、そんな企み知らなかったよ』


「そんな‥じゃあ私が異空間で奈々と過ごしている雅樹って人に嫉妬してて、でも椿姫も可愛くてセラ君にもちょっと嫉妬してて、自分でも『あれ? あたしって大丈夫かな?』ってちょっと悩んでることなんかも知られちゃってるってこと? 嫌っ恥ずかしい! セラ君見ないで。あたしは女の子好きなんじゃないの! あたしを守ってくれる逞しい男の人がいないだけなのっ! 誤解しないでっ」


『京子さん‥あなたも皆んなの前で言っちゃってます‥。そしてある意味一番ヘヴィな悩みですね‥』


リンダ、椿姫、京子がそれぞれの想いを吐露したところで一瞬間が空く‥

そして‥


「え? えーっ!」

3人が一斉に声を上げる。


「リンダちゃん椿姫のパパのこと好きだったの? 全然知らなかった!」

「椿姫ちゃんパパとママには絶対内緒ね! 特にママには! お願いよ」

リンダが必死に頼み込む。

「そしたらリンダちゃんパフェ1年間食べ放題ね〜」


椿姫が弱みに付け込む。

「し、仕方がない」

「やった〜」

「でも椿姫ちゃん? 太るわよ? セラ君に嫌われても知らないから」

リンダが応戦する。

「ウッしまった。それはダメ‥」

椿姫がガッカリとした顔をし、リンダが勝ち誇った様に笑う。


「つ・ば・き〜!」

京子が椿姫を呼び咎める。

「ひっ、京子ちゃん?」

京子の形相を見て椿姫が怯える。


「椿姫またあたしを男扱いして、さ・ら・に! 懲りもせず自分の恋に利用しようとしてたね〜バックハグこちょこちょの刑確定だから‥」

京子が冷たく言い放つ。

が、椿姫も負けてはいない。


「京子ちゃんだって奈々ちゃんにヤキモチ妬いてそんで椿姫にもヤキモチ妬いてそれじゃあまるで二股だよ! 酷いっ! 椿姫と奈々ちゃんどっちが好きなのっ」

椿姫もすごい剣幕で京子に返す。


3人がそれぞれ言いたいことを言い喧騒に包まれるカフェリンダ。


ワイワイガヤガヤと言葉が行き交う集いの場。


数世代後のこの場所に同じ様に叡智が集結することなどセラを除いては誰も知らない。


ただ喧騒の中に温かい人の心が飛び交っていた。







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