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名前も知らない…奈々が恋した人…

京子の複雑な思い…

異空間から帰って来たセラを囲むようにして座る面々。

奈々が異空間から帰ることに戸惑いがあるようだと言うセラの言葉に一同は騒然とする。


「セラ君、奈々ちゃんが現実世界に帰ってくることをためらうってどういうことなの?」

真っ先にリンダが食いつく。

可愛い教え子の無事が確認できホッとした矢先の信じられない事態に仰天する。


「奈々ちゃんは現実世界に帰って来ることで異空間での記憶を全て失くしてしまう事に拒絶感がある様です」

「セラ君…その心強いパートナーって、私が異空間から帰って来てからずっと奈々のそばにいてくれたってこと? どんな人なの…?」

京子が微妙なニュアンスで話しを割ってくる。

どうしても気になって仕方がなかったのだ。


「奈々ちゃんは異空間の時間で約1ヶ月はひとりで過ごしていたはずです。今回のパートナーが来たのは今僕が行った時点からほんの1日前でしょう。つまり…神秘の青いノートと共に異空間にもたらされた。」


「お兄ちゃん! 京子ちゃんが聴きたいのはその人がどんな人かってこと! もう鈍いんだから」


「あ、あそうなんだ…。雅樹さんと言う人で僕らより年上の人だったよ。奈々ちゃんは雅樹さんのことをとても信頼していた」


「え~? たった一日一緒に過ごしただけなのにあの奈々ちゃんが? 信じられない」

椿姫が含みを持たせて言う。


「確かにそうね…奈々ちゃんは奥手だからそんなに急に距離が縮むなんて想像しにくいわね…」

リンダも訝しげに言う。


「ふたりは深く愛し合っていました。だから現実世界に戻って記憶を失くし、雅樹さんとの関係が失われることを恐れていたんです。だけどそんなの今となっては心配無用なんですけどね。奈々ちゃんが今回僕と異空間で出会ったことをきちんと把握してその事態を発展的に推測出来ていれば…」


「お兄ちゃん、それってどういう事?」

「気が付かないかい椿姫?」

セラが椿姫に問いかける。


「気が付かないかいって? どういう事?」

椿姫はさっぱりわからないと言った顔をする。


「セラ君は…忘れていない…。異空間のカフェリンダの…記憶を…現実世界のカフェリンダに…運んできた…」

ドキンちゃんがセラの問いに答える。


「流石ドキンちゃん、その通りです! 僕は無意識の領域を通じて半ば強引に異空間へ侵入しました。つまり招かざる客。ですからあちらのルールでは縛れない。まぁだからこそ、あちらのシステムに排除されて強制的に現実世界に帰されたんですけど。でもおかげで異空間での記憶もしっかり残ってると言うわけです。反面、異空間では記憶やある種の情報が意図的に規制がかけられていました。だから直接奈々ちゃんに肝心なことは伝えられませんでした。最期に伝えた言葉は妨害され途切れ途切れになってしまったし…ですが奈々ちゃんなら少ない情報を手繰り寄せ必ず答えを導き出せると思います」


「なるほど…気が付かなかったわ。でもセラ君! セラ君が言うとおり奈々ちゃんは必ず答えを見つけ出すと思うわ! 私の優秀な教え子ですもの!」

リンダが胸を張って言う!


「僕は今、自分が招かざる客だと表現しました。それが何を意味するか皆さんにお伝えするには、もう少し考える時間が必要ですが現段階で言えることとしては、異空間に召喚された人物には共通した何かがあると言う事です。」

セラが異空間についての見解を述べる。


「共通点…」

京子が小さく呟く。


「話しが逸れてしまいました。奈々ちゃんが記憶を失くすことを嫌って現実世界に帰ることを拒んでいるのであれば、僕が異空間で奈々ちゃんと雅樹さんの関係を把握したことの意義について仮説形成し思考してさえくれれば…」

セラが言葉を止める。


「してさえくれれば…何? お兄ちゃんっ!」

椿姫がセラを急かす。


「奈々ちゃんがカフェリンダに帰ってくれば問題は全て解決という事さ。だって僕が全てを覚えているんだから。奈々ちゃんに教えてあげればいいのさ。奈々ちゃんと雅樹さんの関係を!」

そう言うとセラが椿姫に軽くウィンクをする。


「そっか! そうすれば奈々ちゃんは雅樹さんと再会できるもんね!」

椿姫が弾けるように言う。


「でも…奈々は異空間での雅樹さん?って言う人の記憶を失くすわけでしょう? セラ君にいくら説明されても感情までは再現されないんじゃないかな?」

京子がポツリと言う。

その表情には何か別の感情も見え隠れしていた。


「そうだね、京子さんの言うとおり二人が単純に異空間で出会っただけの関係であればそうかもしれない。だけど僕が見た通常世界における無意識の領域での記憶によると…」

セラが再び言葉を途切れさせる。


「もう! お兄ちゃんまたもったいぶって! 悪い癖だよ! 早く言って」

椿姫がジリジリしながらセラを責める。


「もったいぶっているわけじゃないよ、口に出す前にもう一度熟考しているんだよ。椿姫はせっかちなんだよ」


「そうだよ椿姫はせっかちなの! 京子ちゃんだって早く結論が知りたいんだから早くお話しして! お兄ちゃんの女心がわからないレベルは致命的に低いんだからさ!」

椿姫が京子の心情も代弁する。


「わかったよ椿姫…その前に椿姫? 奈々ちゃん最近元気なかったよね?」


「うん…確かにあんまり元気なくていつもため息ついて…顔色も悪かったような…」

椿姫が思い出し思い出し言う。


「心配だねって椿姫とも話したよね?」

「そう言えばセラ君の言うとおりね…ここに来ている時もなんだか元気がない様子だったわ…」

リンダも追随する。


「どうもその辺りに答えがあるみたいだよ。つまり奈々ちゃんの元気がなかった原因が雅樹さんだったってことさ!」


「え~っ」

椿姫とリンダが同時に叫ぶ。


「奈々ちゃん椿姫にはなんにも言ってなかったよ! 年上の人と付き合ってたなんて…」

椿姫がとても信じられないと強調する。


「セラ君、私もそんな話奈々ちゃんから聞いたことないな…」

リンダが奈々との会話を思い出しながら言う。


「ですからお付き合いしていたというのではなく奈々ちゃんは異空間に行く前から雅樹さんの存在を知っていた。雅樹さんもある一定のレベルで奈々ちゃんのことを知っていたかのかもしれません。しかし奈々ちゃんの様子から推測するに相互認識は希薄な物であり日常的な交流があると言ったレベルではなかった。…わかり易く表現するならば…顔は知っているけど互いの名前までは知らない…と言ったレベルではなかったかと」

  

「そう言えば…そんな記述が青いノートにあった…。電車の中で会うだけの人…。奈々も助けてもらったことがある人…。名前も知らない…奈々が恋した人…」

京子がポツリポツリと言う。

神秘の青いノートを一番熟読していたのは異空間での記憶を失った当事者であり同時に記録者でもある京子であった。


「そう言えばそう言うの書いてあった! お兄ちゃんカフェリンダに来てすぐに無意識の領域に行っちゃったからほとんど青いノート読んでなかったよね?」

「そうだね、だけど無意識の領域での二人の心の移ろいは何となく把握できたからね。そこから異空間で見た二人の関係性と普段の奈々ちゃんの性格を加味して仮説を形成すれば恐らくそう言う結論に至るはずさ」

セラが事も無げに言う。


そんなセラと椿姫のやり取りを聞きながら京子が誰にも悟られないように小さく呟く…。

「奈々…恋が叶ったんだね…」

京子の瞳に複雑な色の光が差し込んでいた。









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