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愛とは受け入れる事。愛とは受け入れられること。

セラ、現実空間に帰還!

現実空間のカフェリンダでは皆に見守られる中、セラが無意識の領域を旅していた。


椿姫はすっかり京子になつきそのそばを離れようとしない。

まるで親猫にじゃれつく子猫の様に無警戒な椿姫。

「京子ちゃんって女子高出身じゃない?」

奈々が見透かすような目つきをして京子に問う。

「そうだけど? 何か?」

これまでずっと椿姫に男の様に扱われてきた京子が警戒する。


「やっぱりねぇ~」

「やっぱりね~ってど・う・い・う・事?」

京子がまるで奈々の様に語気を強調して言う。

神秘の青色のノートに京子が書き残した記録に『奈々が拗ねた時や怒った時に言葉を区切って強調するのが可愛い』と記録されていたのを真似たのだ。


愛する者に似せたいという心理は親子関係、恋愛関係、片思いの関係、芸能人を追うファンなど関係性は異なっても共通している。


増してや愛し愛される者は互いが互いになろうとし、その結果に似てくるのだろう。

互いの想いを受け止めることで、さらに愛を深める。

愛とは受け入れる事。愛とは受け入れられること。なのである。

京子は異空間での生活を記録した自らの日記を読むことで奈々への想いを深めていた。


「なんか京子ちゃんって女の子の扱い慣れてるもん。女子高でモテたでしょ?」

冷やかすように椿姫が言う。

「…」

そんな椿姫に無言で抵抗する京子。

これまで散々男扱いされたことを忘れてはいないのである。


「ねぇねぇ京子ちゃんってば~」

無言で抵抗する京子に椿姫は子猫のようにじゃれつく。

「あ~っ。もうその手には乗らないからね椿姫っ。あんまりしつこくするとまたバックハグこちょこちょだよ!」

そう言うとじゃれつく椿姫を後ろから抱きしめようとする。

「いや~っそれは許してっ」

と言いつつなぜか両手を挙げる椿姫。


「ってなんでわざわざくすぐり易い様に手を挙げちゃうわけ?」

京子があきれて言う。

「京子ちゃんのせいだからね…。京子ちゃんが椿姫に甘美な大人の世界の扉を開けてしまったの…。椿姫もうお兄ちゃんに顔向けできないっ」

そう言うと両手で顔を覆い涙ぐむ椿姫。


「…」

再び無言の京子。

「ん?」

指の隙間から京子を窺う椿姫。

「そ・の・手・に・は・乗らないよ! 椿姫っ!」

「へへっ。ば・れ・た・かっ! 流石京子ちゃん、お兄ちゃんならコロッとひっかかるのに」

「椿姫…あんたって子は…」

京子が呆れる。


「京子ちゃん隙ありっ!」

そう言うと素早く京子の後ろに回り京子の必殺技『バックハグこちょこちょ」を仕掛ける椿姫。


「ちょっちょと椿姫っ! ははははっ椿姫っ! くすぐったいってば! あはは。 いや~やめて~」

何も聞こえないふりをしてくすぐり続ける椿姫に京子が悲鳴を上げて許しを請う。

「…」

今度は椿姫が無言となり、後ろから抱きついた姿勢を維持しながらくすぐる手を止める。

「ん? 終わり?」

拍子抜けしたように後ろを振り返り椿姫を見る京子。


「なんか違う…」

「ん? なんか違うってどういう事?」


「京子ちゃん…『いや~やめて~』ってそれじゃあ京子ちゃんのイメージが崩れるよ…」

気に入らない顔をして椿姫が言う。

「イメージって…」

「もっとこう男らしく『ええい! やめんか! 無礼は許さんぞ!』っ的なのを椿姫は期待していたのに…」

「…『ええい! やめんか! 無礼は許さんぞ!』ってあたしは江戸時代のお侍さんか!」

そんなやり取りを眺めながら微笑むリンダとドキンちゃん。

 

京子に後ろから抱きついていた椿姫が不意に表情を変える。

「お兄ちゃん…」

「どうしたの椿姫? 急にボーっとしちゃって…」

京子が椿姫の異変に気付く。


椿姫はカフェリンダの壁の両サイドにかかっているバロック調の額に収まった鏡の一方を見つめる。

「お兄ちゃんが帰って来た…」

「え? セラ君が帰って来た? ってセラ君まだソファーで眠ったようにしてるけど…」

京子がセラの方を見て言う。

ふたりの会話に気付いたリンダ達もセラに視線を向けるが、京子の言うとおりセラはまだ目覚めていない。


「ううん。お兄ちゃんは確かに帰って来た…。椿姫にはわかるの」

そう言うと京子の体から離れセラの座っているソファーに近づく椿姫。


椿姫はセラのそばに座りその姿を見つめる。

すると…椿姫に呼応するかの如くセラが目を覚ます。

「ただいま…椿姫…」

ゆっくりと目を開けたセラが弱々しく椿姫の名を呼んだ。

「お兄ちゃん大丈夫?」

心配気にセラを見つめる。


「心配しなくて大丈夫だよ…。異空間への侵入でだいぶ消耗したみたいだ」

ぐったりとした様子のセラ。


「セラ君! 本当に大丈夫なの?」

リンダも駆け寄り声をかける。

「リンダさんちょっと疲れただけです…。異空間のセキュリティシステムの様な存在に…どうやら僕は気に入られなかったみたいで」

そう言いながらシニカルな笑顔を見せるセラ。


「セキュリティシステム…。そのシステムに異空間への介入を阻止されたの?」

奈々の安否が気になるリンダが性急に尋ねる。

「いえ、異空間へのアクセスは成功しました。京子さんと奈々さんのエピソード記憶から想起されてカフェリンダの鏡から侵入することが出来ました」

そう言うとセラは壁にかかった鏡の方を見る。


「セラ君! 奈々ちゃんは無事だったの?」

リンダは奈々の安否が心配で仕方がなかった。

「リンダさん奈々ちゃんは元気でした。以前の奈々ちゃんより元気で明るくて、そして少し強くなっていました。そうだな…まるで椿姫みたいに溌剌としていたよ」

セラの会話に自分の名が出て来たことで椿姫が上機嫌となる。


「京子ちゃんのことをとても気にしていた。京子ちゃんが元気なのか、自分を恨んでいるんじゃないか…怒っていないかってね」

セラの発言に京子が反応する。


「私は奈々のことを恨んだりしない」

「京子さん、無意識の領域で感じた京子さんの奈々ちゃんへの想いを伝えてきました。もちろん、京子さんが奈々ちゃんを恨んでいたり怒っているなんて感情は全く見られないと。無意識の領域ではむしろふたりは強い絆と深い愛情で結ばれていました」

京子がホッとした表情を見せる。

「奈々ちゃんからのメッセージです。『京子ちゃんをひどい目に合わせてごめんね。奈々は京子ちゃんが大好き』」

「奈々…」

奈々の想いを聞いた京子が呟く…。


「お兄ちゃん奈々ちゃんは独りぼっちだったの?」

「いや、奈々ちゃんには心強いパートナーがいたよ! しっかりと奈々ちゃんを守ってくれていた。でもそのことが結果的に奈々ちゃんを現実世界に帰ることをためらわせている様でした」

「どう言う事なのセラ君?」


カフェリンダには時空を超えて奈々と雅樹も存在している。

みんなの想いが急速に収束し始めていた。










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