科学の果てに神秘を見、神秘の先に理(ことわり)を見る
カフェリンダでの一幕
神秘の青いノートが異空間と現実世界とを結ぶ
カフェリンダでは異空間の奈々へメッセージを送る準備が整っていた。
無意識の領域から帰ったセラが放った過去現在未来への認識について、メンバー間での共有が成されている。
「お兄ちゃん? 過去と現在と未来が同時に存在するってどういうこと?」
椿姫が初めに食いつく。
セラの考えていることは何でも理解したいと考えているのだ。
「セラ君が言っているのはブロック宇宙論ね?」
リンダが捕捉する。
「リンダさん確かにブロック論には近いですが少し見解に差異があります。ブロック論ではたとえタイムトラベルが可能となっても過去は変えられないとされていますが、僕は現在、未来の意志や行動が過去や、未来から見て過去にあたる現在に影響を与え得ると考えています。」
「だから~いきなりそこに行かないで椿姫にまずはボロック宇宙論を教えてよ!」
「椿姫・・・ボロックじゃなくてブロックね」
京子がおかしそうに言う。
「あそっか、ブロック宇宙論ね」
「椿姫ちゃん、そ・こ・は・このリンダちゃんが説明するわね!」
リンダが胸を叩きながら言う。
「ブロック宇宙論って言うのはね。宇宙を4次元時空のブロックとして捉えて・・・えっと4次元時空って言うのはつまり長さ、高さ、幅からなる3つの空間次元に時間を加えたものなんだけど。で、そのブロックの中に全ての出来事がすっかり納まっているっていう考え方なの。ブロックの長さを時間に置き換えたようなものだとイメージすれば良いわ。この辺の一方の端が宇宙の始まりであるビッグバンで、もう片方の端が宇宙の終焉であるビッグクランチってわけ!」
リンダが理解しやすいようにコピー用紙に図を描きながら説明する。
「リンダちゃん・・・もっと簡単に説明して」
椿姫がふてくされて言う。
「う~ん・・・そうね・・・いっぱい並んだブロックの中に過去現在未来が詰まってて同時に存在してるってイメージかな!」
「う~ん・・・なんだかわかったようなわからないような。リンダちゃん! さっきの箱の中の猫の話しと言い宇宙とか量子とかってどうしてこう、ややこしいことばっかりなの!」
そう非難がましく言う椿姫を見て皆が微笑む。
「セラ君は・・・アカシックレコードを・・・イメージしている・・・?」
ドキンちゃんがセラに向ける。
「世界記憶、元始からのすべての事象、想念、感情が記録されているという概念ですね。ユングの集合的無意識とも類似しているという点では興味深いですね。そして、ブロック宇宙論との対比でも・・・。科学を追及した果てに神秘を見るという観点から、現在は科学的な根拠はない概念ですがいずれその存在が最新の宇宙論と交差する日が来るのではないかとも考えています」
「笑う門には福来るとか情けは人のためならずって諺が現在の科学で証明されたみたいに?」
京子がセラに投げかける。
「京子さん面白いね! つまりそれは癌細胞を破壊するNK細胞の活性化のことを指しているんだよね?」
セラが京子に投げ返す。
「そう! 笑う事で体内中のNK細胞が活性化され癌細胞の増殖を抑える、つまり福が来る! そして人のために良き行いをしてその行為に喜びを得ると言った感情的な作用も同様の効果をもたらす。いわば人のためにした良き行いが、自分に良き結果としてかえって来ると。先人はこう言った細胞レベルの作用を知る由もなかったのに見事に諺と言う形で真理を掴んでいた。そして後世に科学の発達がそれを証明した! みたいな?」
京子が生き生きと解説する。
「吉本新喜劇を観に行った後と・・・前とで癌細胞の状況を測定した結果・・・1時間観劇し笑いに笑った患者は・・・笑った後と前で・・・明らかにNK細胞の活動に差が生じ・・・結果癌細胞が減ったという・・・。科学が諺を証明したって訳ね・・・。科学の果てに神秘を見、神秘の先に理を見る・・・ね」
ドキンちゃんが椿姫にわかり易いようにさらに噛み砕く。
「面白い! こういうのだったら椿姫もわかるよドキンちゃん!」
椿姫がやっと皆と共感できたことを殊更喜ぶ。
「ブロック宇宙論については仏教的な宇宙観との類似にも興味があります。そもそもアカシックレコードのアカシックはサンスクリット語で虚空、空間、天空を意味するアーカーシャからきていますから仏教的な要素も大きいと考えますが、仏教の世界では『仏には三世十方を見渡す力がある』と言われています。三世と言うのは仏教用語であらゆる時間、前世、現世、来世を意味します。十方とは、あらゆる方向を意味しそこから、あらゆる空間、全宇宙を意味します。ですから仏は、三世十方つまり無限の時間と無限の空間、全宇宙を見渡せるということになります。全てを見渡せるということは、全てが存在していると言う事が大前提となりますからブロック宇宙論と同様の捉え方であると言っても良いでしょう」
「確かに・・・ブロック宇宙論と仏教的な宇宙観は捉え方として近しいわね・・・」
セラの言葉に興味深げにうなずくリンダ。
「リンダさん、最新のブロック宇宙論、仏教における宇宙観、そして神秘主義的な観点。こういった事柄について集合的無意識と言う括りで捉えた場合、全人類的普遍的に共通する無意識の領域は時空も超えて存在していると考えても過言ではないと思っているのです。電波望遠鏡も高度な測定機器なども存在しない遥か昔の人類が現在の最新の宇宙論と近しい認識を既に持っていた。そこから類推するに少なくとも意識は過去現在未来を自在に移動する、もしくは存在することが可能だと思えるのです。今後の科学進歩の果てにタイムトラベルが可能となるのであればそれは物質的なものではなく恐らく魂・・・意識レベルでの時空の旅になると考えているのです」
「セラ君は・・・無意識の領域で既に過去現在未来を旅している・・・」
ドキンちゃんが小さくつぶやく。
そしてふと奈々と京子のお気に入りの席に目をやる。
ドキン!
ドキンちゃんがビックリしたように不意に肩を上にあげる。
「セラはん、セラはん! 上手く行きよった! みてみぃ~」
ドキンちゃんが関西弁で指し示す方を皆が一斉に見る。
「あっ! 青いノートが消えてる!」
椿姫がまるで目の前でマジックを見せられたかのように驚く。
「まさに神秘の青いノートね・・・奈々に届け!」
京子が祈るように言う。
カフェリンダと異空間に確かな絆が結ばれた。




