正解です! 奈々の母校は千葉市美浜区の渋谷幕張高校です!
奈々の母校が千葉市美浜区の名門校渋谷幕張だったというお話。
「奈々? 俺の話ちゃんと聞いてた? 熱あんじゃないの?」
そう言いながらソファーに座る奈々の額に手を当てる。
「熱なんかありません! 奈々は全然っ正気です! あ、雅樹さん、こんなのどうですか?」
そう言うと奈々は内的時間の逆行について自説を説きはじめた。
「内的時間の逆行により赤ちゃんまで戻ったら、そこからまた大人に戻っていくんです! それでまた繰り返す! みたいな!」
無茶苦茶明るい顔つきでさも名案みたいに言うが、
「だから赤ちゃんになったら死神どころか暗黒の空間からも逃げられないだろ? 赤ちゃんになってまたそこから成長って・・・火の鳥か?」
「う~ん・・・でも大丈夫! 奈々と雅樹さんは年の差があるから奈々が赤ちゃんになったら雅樹さんが奈々を抱っこして逃げて、雅樹さんが赤ちゃんになったら奈々が抱っこして逃げます!」
「そっか! じゃあ俺は赤ちゃんになった奈々のオムツ換えたり、ミルク飲ませたりするんだな! そりゃあ大変だ。じゃあ今から本屋に行って『ひよこクラブ』でも読んで勉強するか!」
そう言いながらちらりと奈々を見る。
「嫌っ! 雅樹さんの変態! そんな不埒な事を言っていると地獄行きですよ! その前に奈々がぎぃーっですから」
そう言いながら猫のように爪を立てる仕草をする。
「だってそう言う事だろ? こう言う事は事前にちゃんと勉強しておかないと急には出来ないからな」
「・・・・・・」
無言で真剣に考える奈々。
「雅樹さん・・・奈々はまた願い事しちゃいます」
奈々の目が何かを企むようにきらりと光った気がした。
「どんな願い事をするんだ今度は?」
「奈々は、奈々のパパとママとお姉ちゃんをここに呼んじゃいます!」
「オイオイ・・・よせよ。いきなりこんなところに連れてこられたら・・・。それにそんなにうまく行くんならもっと他の願い事しろって」
あきれてそう言う俺に、
「大丈夫です雅樹さん! どういうわけか神様は奈々のお願いを良く聴いてくれます! ここに来てからもう8つも!」
うれしそうに指を8本立ててこちらに見せる奈々。
「8つって、ひとつめは自分がここに来て、ふたつめは京子ちゃんが来て、みっつめで俺が来て・・・。あと5つも何を願ってたんだ奈々は? で、しかもみんな叶ったって。えこひいき酷過ぎないか! 俺なんて生まれれこの方・・・ってまぁ俺のことはいいや。何がそんなに叶ったんだよ奈々?」
「それは・・・ヒ・ミ・ツ・です。てへっ」
「てへって・・・いつの間に5つも願い事してしかも叶えてんだ? 一体いつ? でも奈々? パパやママをこんなとんでもないところに連れてくるのは賛成できないな」
そうたしなめる。
「確かに・・・それにパパとママ、お姉ちゃんまで赤ちゃんになると都合4人の赤ちゃんを一人でお世話する日も来るとなれば・・・無理かも」
「だろ? 奈々、朝ごはん食べてとにかくカフェリンダに行こう。そうすればまた何かいい考えが浮かぶさ。なっ? 京子ちゃんのメッセージだってちゃんと受け取らないと」
「・・・わかりました」
奈々が観念したように言う。
ソファーからキッチンに向かい途中だった朝食を食べる。
「そう言えば雅樹さんはどうして奈々を助けてくれたことを覚えていてはいけないなんて考えてたんですか? 本当は奈々のことなんて一人の女の子として認識してなかっただけじゃないんですか?」
奈々がやや不満げに言う。
「いやそうじゃないよ。俺は奈々がまだ高校生だって思ってたんだよ。流石にまずいでしょ? しかもだ、電車の中でこのオッサンが親しげに高校生の女の子に声をかけたりじろじろ見たら・・・変態か痴漢かストーカーくらいにしか思われないぜ?」
「奈々はあの時高校生じゃありません~!ひどいっ子ども扱いして! だいたい助けてもらった時だって制服じゃなくて私服でした!」
「そうそうだから俺もおかしいなって思ったんだけどさ。奈々小っちゃくて可愛いらしい上にどう見ても賢そうだったから、もしかして東葛飾高等学校の生徒じゃないかって思い込んでたんだよ。あそこって制服無くて私服だろ?」
「奈々の出身高校は東葛飾高校じゃありません。同じ中高一貫校ではありますけど・・・」
「あのあたりで他に中高一貫って言うと、県立千葉高校、千葉市立稲毛高校、私立だと志學館高校・・・と、忘れちゃいけない名門渋谷幕張高校!」
「正解です! 奈々の母校は千葉市美浜区の渋谷幕張高校です!」
「偏差値76オーバー、東大にも毎年50名以上進学するトップクラスの高校だ・・・。やっぱり奈々は頭良いんだな。ビックリだよ。でやっぱり東大?」
なんだか恐る恐る聞く俺。
「それは、ヒ・ミ・ツ・です。男の人は謎めいた女性が好きなんでしょ? そうしたら奈々はずーっと謎めいて雅樹さんをよそ見させませんから」
小悪魔っぽく俺の方を見ながらそう言う奈々。
「もう! 奈々の高校の話じゃなくてどうして奈々のことを覚えていてはいけないなんて考えてたんですかってお話でしょ!」
「いやいや、だから言ったでしょ? 助けてあげたなんて思ってないし、助けてもらったなんて恩を感じてもらいたくもないし、ってかそんなに大したことしたわけじゃないし、俺に許される範囲であたりまえのことをしただけなんだからさ。それにさっきも言ったけどやっぱり俺が電車の中で奈々をジロジロ見てたり声かけたらほとんど犯罪だって」
「なんか誤魔化されてる感じ・・・。でも・・・い・ま・は、奈々のことあれなんでしょ? ん?」
どういうわけか奈々らしくない艶っぽい目つきと表情で俺に何かをお求めになられている・・・。
「ん?ってなんだ?」
「『ん?ってなんだ?』じゃなくて! さっき言ってたでしょ? 奈々が〇〇でしかも・・・一番〇〇るって」
「〇〇って・・・穴埋め問題かよ?」
と、とぼける俺。
「もう! またとぼけて! そうよ! 穴埋め問題! 〇〇に該当する文字を埋めて奈々の目を見てもう一度回答しなさい!」
急にテンション変わるし。
やっぱりあんまり頭良いって言うか知能指数高い女性ってこうなのかな?
昔、ガンズアンドローゼスのヴォーカルのアクセル・ローズは知能指数200とかで時々ホルモンバランス崩して暴れるとかって言われてたけど・・・奈々も?
「え~っと奈々が癇癪持ちで異空間で一番怖いですっ・・・なんつって」
オッサンらしくおどけるが、
「ち・が・う! 不正解! もう一度! 正解するまで許さないから!」
そう言いながら爪を立てる仕草をする・・・。
あぁ・・・これはもうどう誤魔化しても本当に許してもくれないだろうな・・・。
早くカフェリンダ行って事実を確認したいしな・・・。
ってかオッサンにあれはしらふでキツイって。
さっきは成り行き上勢いで言ったけどさ・・・。
「奈々が大切で、一番あ、あ、」
「あ、あ、何?」
きつい・・・。
しかし、もう観念した。
「奈々が大切で一番愛している!」
破れかぶれで奈々の目を見てそう言い切る。
テーブルについていた奈々が急に立ち上がり俺のそばに駆け寄る。
そして俺の膝の上にちょこんと乗り首に手を回す。
「うれしいっ。奈々も一番愛してる」
そう言いながら俺の胸に飛び込んできたのは、やはり紛れもなく宝石のように美しく愛おしい奈々だった。




