天国と地獄がある確率って?
8年ぶりに再開!モチベーションになったのは住田よる先生の「君の膵臓を食べたい」に対する愛情と美浜美波さんに奈々の役を演じて欲しいという妄想的な欲求(笑)ともあれ再び書く力を与えてくれたお二人に大感謝!ぜひ読んでください!
「わかりました雅樹さんもう少しヤハウェについてお話しますね。ヤハウェ自体は「生みもせず、生まれもしない、時間と空間を超越した絶対固有だとされています。全知全能唯一絶対であり、すべてを超越する。『目無くして見、耳無くして聞き、口無くして語る』とされる意思だけの存在であるため、あらゆる時にあらゆる場にあり得て、つまり遍在しています。六日間で天地創造し、また最後の日には全人類を死者までも復活させ、最後の審判を行う「終末」を司るとされています。」
例のごとく奈々がよどみなく俺に解説する。
この子の知識の広さと深さには毎回ただただ、感心するばかりだ。
「目無くして見、耳無くして聞き、口無くして語る・・・か。まるでテレパシーだな。超能力者?」
俺は在り来たりな印象を口にする。
「全知全能ですから、中途半端な超能力者ではないですよね。それに意思だけの存在ですし・・・。」
「意思だけの存在か・・・。奈々?意思があらゆる時にあらゆる場にあり得て、遍在しているって・・・これはまるで宇宙自体が意思を持ち時空を超えて全てを包括しているって、そんなイメージを俺は受けたよ。」
俺は感じるままを奈々にぶつける。
「確かに普遍的に存在するという部分から類推するとそんなイメージも感じられますね。意思だけの存在・・・物体としての存在を持たずして六日間で天地を創造する・・・。雅樹さん、全知全能の意思は、手も足も何の道具も無くして全宇宙を創造したってことですよね?そうなるとやはり思念にはエネルギーがあり何物かを創り出す力があると考えられますよね。」
奈々が目を細め口元に指を当てながら俺に言う。そのしぐさのなんと愛らしい事か。しばし奈々に見とれる。
「そういうことになるよね。意思の力、思念で宇宙の全てを創ったってことになる。そして創りだされた宇宙そのものが全知全能の意思・・・・。俺たちはその意思の中で生かされている・・・ってことになる。最後の審判があったとしてそこでどんなに取り繕って嘘をついても大いなる意思は全て見ていて騙しようがないってことか。」
俺は自嘲的に笑う。
「・・・・・」
不意に奈々が無言となり表情がみるみるうちに硬くなる。
そしてキッと俺の方を睨みつけ言い放つ。
「雅樹さん?何か嘘をつかなければいけないようなことをしているんですか?」
「奈々?いやいやただの例えだよ?」
「・・・・・・。」
なおも無言で見つめる奈々。
ほんの少しの変化も見逃さない科学者の様な目に囚われ眉一つ動かせなくなる俺・・・。
「本当に?」
俺の目を顎の下から見上げ徐々にその瞳を俺の目線に合わせるように移してくる。
まさに、なめまわされている感じだ。
「はい本当です。誓ってやましいことはありませんです。」
なぜこんな目に合わなければならないかは理解ができなかったがその時の俺は蛇に睨まれたカエルよりもさらに動けない状態だった。
ちょっとでも動いたならこの天使の様にそして時に魔女の様にも美しい奈々に、無作法に触れてしまいそうな距離にあったからである。
しばしの沈黙。
「残念ながら嘘であると断定する材料と反応が読み取れませんでした。しかしだからと言って本当であるとの確証もありません・・・・。」
奈々が殊更仰々しく言う。
「おいおい、残念ながらってそれじゃあ嘘の方が良かったみたいな感じじゃん?」
射るような視線からやや逃れられた俺が負け惜しみ気味に言う。
「違います。嘘では困るのです。」
なぜか声を押し殺し、あの愛らしい声とは真逆な威厳ある声で言う。
「困るって?」
困ってるのはいきなりの展開に押されて妙なプレッシャー受けてるこのおじさんではないか?と思いつつ次の奈々の言葉を大人しく待つ。
やや間を開けて奈々が話し始める。
「雅樹さん?天国と地獄がある確率って知ってますか?」
そう言う奈々の瞳がだんだんと慈愛に満ちた色に変わってくる。