あぁ奈々のご飯が食べたいな・・・
京子と死神の壮絶な闘い!
すべては奈々のために・・・
奈々のために!
ガシャーン・・・ガラガラガラ・・・
2体の死神はアイアンバンパーの鋭いエッジに打ち砕かれ空中でガラガラと音を立て粉々に散る。
『グオォォォァ~・・・』
死神の断末魔の叫びが京成稲毛駅周辺に不気味に響く。
その叫び声に無機質な結晶体の生き物らしい一面を見た気がした。
漆黒の結晶は美しく砕け散り地面に落ちると同時にその姿を消す。
赤いコルベットは踏切を超え着地。
死神に切りつけられた屋根が着地と同時に剥がれ落ちる。
「やったぜ相棒! 計算通り! 漆黒の津波ギリギリのラインであれば奴ら2体とも焦って狩りに来ると踏んでいたけどうまく行った!」
京子は興奮してコルベットに語りかける。
「ってオープンカーになっちゃったね・・・。でも・・・それもカッコいい!」
京子がカーステレオを操作する。
「COME AND GET IT・・・奈々、死神退治・・・出来たよ・・・。あぁ奈々のご飯が食べたいな・・・奈々・・・『ご飯が出来ましたよ。食べに来下さい』って言ってよ・・・」
南の空を見上げて京子が呟く。
2体の死神への攻撃が計画通り、とは言っても、そもそもその場の状況と勘を頼りに立てた心もとない作戦ではあったが、兎にも角にもやっつけた。
京子はこの決死の計画が思惑通りに運ばなかった時には死神に狩られること、つまり死を覚悟していた。
究極の緊張状態からしばし解放されたのである。
がホッとするのも束の間・・・。
「ってやばいやばい! もうそこまで漆黒の津波が来てる!
京子は逃走経路を検索しながらリュックから青いノートとペンを出し何やら書き込んでいる。
『臨港プロムナードを南に向かうか・・・だけどあの道は狭い・・・もし車両が双方向ですれ違うように停車していたらアウトだ・・・。総武線稲毛駅まで行ってそこで漆黒の津波が途切れていてくれればそれで良し! そのラインまで漆黒の津波が来ていたらそのまま突っ切ってモノレールのある道路で右折! あそこだったら上下2車線だから車を逃がすスペースが取りやすい!』
秒での検索を終えると再びコルベットのアクセルを踏み込む。
京子もまた奈々とは違ったタイプの天才と言って良いだろう。
今やオープンカーとなった赤いコルベッドが稲毛の街中を通るルート134を疾走する。
道幅は狭いが何とか車両をかき分けながら突き進む。
Y字路を超えるとルート133に変わりほどなく右手に総武線稲毛駅が見えてくる。
ここで漆黒の津波の終わりの部分、つまり横の限界地域であれば京子の勝ちであった。
しかし無情にも暗黒の空間はその口を大きく開け既に小仲代坂通りの坂の下あたりまで飲み込んでいた。
「だめだ・・・まだ暗黒空間が途切れない・・・。どうして今回はこんなに大きいんだよ! 道路狭くてもいいからここから南に行くか?」
京子が泣き出しそうな顔をして叫び、漆黒の津波の終わりの地点を目指してコルベットのアクセルをさらに踏み込んだ瞬間・・・。
小仲台坂通りに向けていた視線を正面に戻そうとしたその眼の端に漆黒の死神の姿が映った。
「そっか・・・マリンスタジアムで狩りを終えた死神がまだ居たっけ・・・。忘れてたよ奈々・・・。でももう奈々は安全圏まで逃げているはず・・・。お前は奈々を狩ることはできないよ。 だけど、あたしもお前に狩られるのだけは勘弁・・・となれば道はひとつ!」
強気な京子であったが死神に対しての自身の認識に怯えていた。
死神は・・・すべてを無に帰す。
あの大鎌で殺られたら身も心もこの世から消滅する。
あいつらは死の執行人。
異空間の記憶を潜在意識にでも残した生き物の存在を許さない。
あの大鎌は輪廻をも断ち切りあたしを無き者にする・・・。
それだけは嫌だ。
例え今世で分かれても次の世で奈々と巡り合えるのならどんな無茶でもできた。
そんな健気な儚い望みまでもを絶とうとする死神。
漆黒の津波は破壊と再生を司る。
それならあたしは漆黒の津波に飲まれることを選ぶ。
遠い未来にまた奈々と巡り合うために・・・。
奈々は赤いラインの列車が今頃安全圏まで運んでくれているはず。
それだけの時間はしっかり稼いだからね。
死神はもう奈々には近づけない。
奈々・・・ごめんよ。
そばにいてあげられなくなっちゃった。
奈々・・・もう一度あんたのご飯が食べたかったよ・・・。
奈々・・・必ず生き残って異空間から抜け出して。
奈々・・・次の世で必ずもう一度巡り合うよ。
来世で必ず奈々を見つけ出すから!
あたしのことを忘れないで・・・。
京子と過ごしたあの日々を
きっと覚えていてね
「奈々!」
京子はそう叫ぶと
ルート72の変形した交差点を左に折れた。
もう目の前と言って良いほど近づいた漆黒の津波に向かって全速力でコルベットを走らせる。
コルベットの鼻先が漆黒の津波を捉えようとした瞬間、京子の前に死神が立ちはだかった。
「どうしてもだめなの・・・。だけどここまで来たらあたしもあきらめるわけにはいかないのよ! あんたの仲間をどう殺ったのか教えてあげる!」
そう言うと京子はコルベットのアクセルをさらに踏み込み加速する。
漆黒の津波と赤いコルベットの狭間に君臨する死神は大鎌を振りかざす。
京子は大鎌を避けるように身を低くしながらも怯まず突き進む。
大鎌とコルベットが止まった時間の中でクロスする。
アイアンバンパーがそのエッジを再び死神に突き立て木端微塵に破壊する。
赤いコルベットは異空間の英雄、京子をその背に乗せていることを誇るかのように雄々しく、怯むことなく暗黒の空間に飛び込む。
赤いコルベットのハンドルを、しっかりと握った京子の瞳から涙が溢れる。
「奈々・・・また会おうね・・・絶対に・・・。京子は奈々のことが大好きだよ・・・。奈々・・・」
京子とコルベットが暗黒の津波の奥底まで飲み込まれるのにそれほどの時間は要しなかった。
暗黒の空間はもうこれでひと仕事終えた、と言わんばかりにその動きを止め異空間に新しい時間を流し込んだ。




