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この曲があたしたちのレクイエム・・・ね。そしてあたしたちの生きた証!

京子の死闘!

奈々の叫び!

ホームに列車が滑り込んで来た。

漆黒の津波はもうすぐそばまで迫って来ている。

赤いラインの列車はホームに着くや否や『早く乗れ!』と言わんばかりに扉を開けた。


奈々は息を切らしながら列車に乗り込み反対側の扉前でうずくまる。

後は京子がこの車内に来てくれさえすれば万事ことは収まる。

しかしこの場所もまた一刻の猶予もない状況にあった。


検見川浜駅はもうすっかり暗黒に飲み込まれてしまっていた。

奈々のいる稲毛海岸駅の目前まで破壊と再生の空間は迫って来ているのである

赤いラインの列車はそれを感知したかのように扉を閉める。


「待って! 電車さん! まだ京子ちゃんが来ていないの! ここを開けて!」

奈々はうずくまっていた床から飛び上がり無情にも閉じられた扉をドンドンと叩く。

しかしそんな奈々の思いは受け入れられることはなく列車は走り出す。


速度を上げる列車の中を奈々は最後尾に向かって走った。

京子がこの稲毛海岸駅に戻ってきているかもしれないのだ。

だが最後尾に辿り着いた奈々がホームに京子の姿を見つけることはなかった。


「京子ちゃん・・・無事でいて! 奈々を独りぼっちにしないで・・・」

そう呟きながら車窓を見つめる奈々の目に死神の姿が映る。


「死神・・・マリンスタジアムでの狩りを終えた3体目の死神・・・」

奈々が表情を凍らせる。

死神が漆黒の津波の前に回り込み、赤いラインのE233系に迫って来たのだ。

しかし死神はE233系との距離をうかがい追っても無駄と判断したのか追跡を止め東の空に向かってふわふわと高度を上げながら移動していく。


「3体目の死神・・・京子ちゃん! もう1体向かったわ!」

奈々が祈るような思いで京子に向かって叫ぶ。

京子の耳に届く訳もないその叫びであったが、そうせずにはいられなかったのだ。


赤いラインの列車はぐんぐんスピードを上げ漆黒の津波を振り切り奈々を安全圏まで運んだ。

列車はナイトとして十分な仕事を果たしたのである。


「京子ちゃん・・・奈々を助けるためにひとりで・・・」

そうつぶやくと最後尾の窓から離れ床に崩れ落ちる奈々。

赤いラインの列車は奈々を優しく包み込む・・・。


赤いコルベットが異空間を疾走する。

京子はまだ結論が出せずにいた。

だが漆黒の津波は京子にもまた迫って来ていた。


左手の稲毛公園が背中に回った。

もう決断するしかない。

が、選択肢はさらに狭まれていた。

千葉街道を左手に曲がれば漆黒の津波が口を開けて待っている。

もうこの選択肢はないと言っていいだろう。


右手に曲がればもしかしたら暗黒の空間の口から逃れ、死神を振り切れるかもしれない・・・。

だが死神を打ち破る手段が思いつかない。

そうこうしているうちに2体の死神の攻撃に落ちてしまうだろう。


京子は消去法に近い論法で千葉街道を横ぎり京成稲毛駅に向かう小路に進む事を決意する。

『どうせ逃げ切れないのなら少しでも奈々から死神を遠ざけるさ・・・』

最後の最後で京子が下した悲痛な選択。


京子はカーステレオのリピート機能を解除する。

「最期に聞く音楽がジューダスプリーストとはご機嫌だね! 相棒! もう少しあたしにつきあってね」

そう言いながらコルベットのハンドルを愛撫する。

スピーカーからうねる様なギターの音が流れる。

ボリュームを上げる京子。

「LOVE YOU TO DEATH 死ぬほど愛してるとは洒落が効いてるね! 死神ともかかってるしね! 本当におまえのご主人様に会いたくなってきたよ」

そう言いながらシニカルに笑う京子。


赤いコルベットは京成稲毛駅に向かう細い道を突き進む。

ここは京子にとってあまり縁のない土地であったが、異空間の摂理の一つである列車について奈々と考察している時にこの辺りを探索した。


総武本線稲毛駅、京葉線稲毛駅、京成線稲毛駅の3つの路線が走っているエリア。

そのいずれの列車も異空間の摂理として運行しているのかを確認しに訪れたのだ。

今となってはその時の探索が地の利を京子にもたらしていた。


「結局京葉線の赤いラインの電車しか動いていないことがわかってあの時は無駄足だったな、なんて思ってたけど人生に無駄はないね、相棒?」

細い路地に点々と停車する車両を猛スピードでかわしながら突き進みそんなことを考える京子。

しかしその視線はしっかりと対峙する魔物を見捉え、次の攻撃に備えて着実に行動していた。

疾走する京子とコルベットに味方するように目の前の道が開けた。


京子はカーステレオを操作し2曲スキップする。

「このアルバムは散々聞き込んだ・・・次の曲は頭に帰って・・・RAM IT DOWN・・・相棒ごめんね、一緒に来てね。この曲があたしたちのレクイエム・・・ね。そしてあたしたちの生きた証!」


京子がアクセルを全開にする。

2体目の死神が慌てて急降下しコルベットの前に立ちふさがるように躍り出る。


「やっぱりね・・・そう来ると思ったよ。あんたたちはどうしてもあたしたちを狩る必要がある。漆黒の津波に飲み込ませるわけにはいかないんだよね? 漆黒の津波は破壊と再生を司る。お前たちは輪廻を断ち切り消滅させ異空間の記憶を無き者にする死の執行者・・・」


「行くよ相棒! 見てみなもう一匹も引き寄せられるように落ちて来たよ! おあつらえ向け! で、京子様の計算通り! 来な! RAM IT DOWN! 2匹まとめて打ち砕いてやる!」


京成稲毛駅は小さな坂道をのぼった先にある。

アクセル全開のコルベットはまるで滑走路を飛び出すように2体の死神の前に飛び出す。

次の瞬間2体目の死神が大鎌を振りおろしコルベットの屋根を切り裂く。

だが、めくれ上がった屋根をものともせずに赤いコルベットは突き進み、上空から急降下する死神と2体目の死神がその姿を重ねた瞬間、アイアンバンパーを鋭く突き立てた。














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