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なぜ奈々が悲しくて泣いたのかを聞かないんですか?

この物語が終わったら奈々とはお別れ・・・

『神の息・人の息』で奈々を復活させたい

恐らく最終的に4部作になり一つに統合されていく、他の小説に奈々の息吹を伝えたい。

「奈々・・・記憶が蘇ったんだね」

「いいえ、雅樹さん。記憶が蘇ったわけではありません。仮説から最も可能性の高い結論を引き出していきました。その過程でいくつかの事象がきっかけ(トリガー)となって思い出せた記憶もありましたが・・・。」

そう言うと奈々は黙り込んでしまった。


仮説形成アブダクションか・・・。」

奈々は論理的推論によって失われた記憶を補完し、結論を導き出したというわけか。


「どうした? 奈々?」

うつむき黙り込む奈々にそっと声をかける。


「何か辛いことを思い出したの?」

「いいえ、雅樹さん・・・。観測したわけではないので確実な事実としては言えませんが、奈々にはこれまでに起こったこと、これから起こること、京子ちゃんとカフェリンダの皆さんが今、何をしているのかそれらがかなりの高確率でわかってしまいました・・・。」


うつむく奈々の目から大粒の涙が零れ落ちているのが見える。


「奈々? 泣いているのか?」

「はい、奈々はうれしくて、悲しくて泣いています・・・」


そう言うと奈々は、京子ちゃんが無事元の世界に戻っている可能性が高いこと、京子ちゃんがカフェリンダのメンバーと合流していること、異空間でいつもと違う場所にあったノートに京子ちゃんからのメッセージが書かれていることをぽつりぽつりと話しだした。


「京子ちゃんは元の世界に戻れたと思います。本当に良かった・・・奈々はそのことがとてもうれしいのです・・・。そしてどうやって京子ちゃんがその問題をクリアーにしたのかはまだ判然としないのですが、奈々の仮説だと異空間から現実世界に戻った時、ここでの記憶は失われるはずなのです。だけど京子ちゃんはその問題をクリアーにして奈々にメッセージを送った・・・つまり京子ちゃんは異空間での記憶を何らかの形で復元しているということです。」


そう言うとまた奈々は考え込む。

「確かにこの空間に居るだけで恐らく内的時間の逆光の影響によって記憶が曖昧になったりするよな。俺がこの異空間にきてたぶんまだ24時間経ったくらいだけどこの状態が長く続けば一般的な頭脳の持ち主じゃあほとんどのこと忘れちゃうかもな。最終的には赤ちゃんになっちゃうみたいな」


奈々は1年間ほどこの異空間に居るが頭脳は正常以上だ。

そもそも幼少期からかなりの頭脳を持ち合わせた奈々だからこそ内的時間が逆行しても常人以上の能力を発揮できているのだろう。


「奈々と同じように仮説形成アブダクションして論理的に導き出したんじゃないのか?」


「雅樹さん、奈々が仮説を立て論理的に結論を導きだ出せたのは、そもそも問題となる事象に関して認識が出来ていたからです。京子ちゃんの場合ここでの記憶が消されているわけですから何のきっかけ(トリガー)もなくこの常識はずれな異空間について仮説を立てることはほぼ不可能・・・・なんです。京子ちゃんは異空間に来るまでカフェリンダのことは知りませんでした。だから現実世界に戻った時京子ちゃんはカフェリンダことを覚えていなくて当然なのです。でも奈々の仮説では京子ちゃんはカフェリンダにたどり着いている・・・」


「京子ちゃんは一体どうやって異空間の記憶を保持していたんだろうね?もしかしたらものすごく単純な方法かもしれないよね」

「奈々にはわかりません・・・。どうやって京子ちゃんがカフェリンダにたどり着けたのか・・・。」


「奈々、とにかくカフェリンダに行って京子ちゃんが残したノートの中身を見てみよう! そうしたらきっとそこに答えが示されているさ!」

俺は勇んでそう奈々に言う。


「でも・・・」

奈々がしり込みをするようにその後の言葉を濁す。


「どうした奈々?」

「・・・・・・。」

無言で答える奈々。


「雅樹さん?」

「どうした?」


「奈々はさっき、うれしくて、悲しくて泣きました・・・」

「ああ、それはさっき聞いた」

どう答えて良いかわからず俺は当たり前の様に簡素に言う。

少しでも早くカフェリンダに行き真相を知りたいと言う気持ちが逸って(はやって)いたのだろう。


「京子ちゃんが元の世界に無事戻れていたことがうれしくて奈々は泣きました」

「そうだな、良かった京子ちゃんが無事で!」

どうしたというのだ奈々は?


「雅樹さんは・・・なぜ奈々が悲しくて泣いたのかを聞かないんですか?」

そう俺を見上げながら言う奈々の目に、再び譬え(たとえ)様のない美しい涙が溢れる。


「奈々・・・・?」


窓から差し込むまぶしい光が奈々の涙を一層輝かせる。


瞳に溢れる氷の様に悲しい滴が、俺の言葉を凍らせた。


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