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奈々! この異空間から必ず抜け出すんだよ!

ああ、もう終わりに近づいているのか・・・

もっと奈々を動かしたいな・・・。

「メッセージって・・・電車の中で見た夢のか?」

「そうです! 」


奈々が『ちょっと置いて置いて・・・』と端折った部分が俺にとって何かとても重要な意味がるように感じたが、今はそれよりも京子ちゃんのメッセージだ!


異空間について物理学的な見地から何らかの答えを導き出したであろう彼女のメッセージが俺達に大きな変化をもたらすことに期待したい。


「あの時の京子ちゃんの夢と俺の優子の夢のエッセンスに一定の共通点がある・・・そしてそれらが一直線上に並ぶ何らかのメッセージがあるって奈々は言ってたよな・・・。」

俺は昨日の会話を必死で思い出す。


「そうです・・・キーワードとしては、京子ちゃん、奈々、雅樹さん、優子さん、ノート、カフェリンダ・・・『オレンジ色のハトのメッセージ』、『自由に飛ぶ』、アイビーの落書き帳・・・の雅樹さんのメッセージをカフェリンダのノートに書き写した・・・・」

奈々が各々の夢のエッセンスの断片を羅列し熟考に入る。


「奈々? 単純に重複しているワードを拾うと、ノートとそれからカフェリンダってとこだよな?」


「そうですね、カフェリンダのノートとアイビーの落書き帳、雅樹さんがアイビーのノートからカフェリンダのノートにメッセージを移植した。その結果『オレンジ色のハト』というワードと『自由に飛べ』と言う二つのメッセージが雅樹さんの夢を介在してカフェリンダに集約された・・・。」

奈々がエッセンスを整理する。


「京子ちゃんの未来からのメッセージ・・・優子の20年後からのメッセージ・・・これに俺たち二人の未来からのメッセージ・・・と言うか未来の俺たちの行動がもたらす何らかの変化が生じてくるはずだ。もっともそれは俺達に未来があればの話だが・・・。」


「・・・・・・・。」

奈々は無言で思索している。


俺達が未来においてもこの異空間に居続けているのであれば、元の世界での未来はなく、この異空間においての未来が何らかの変化をおよぼすはずだ。が、しかし時間の止まった世界に本来的な未来などあるわけもなく、それが証拠に漆黒の津波は異空間を定期的に破壊し綿々と流れる時間の存在を許さない。

あの時直感的に感じた、未来の俺達からのメッセージはこの異空間を脱出できているか否かにかかっているような気がする。


 死神に襲われたあの時、本来であれば奈々の実家でアルバムを見る予定だった。

それはこの異空間における時間の内的逆行について考察するためであったが、この一日の経過を鑑みるとやはり肉体的な変化は急激には、少なくとも外見上現れていないようだ。


昨日と比較して奈々に極端な外見的な変化は確認できない。

ベッドルームから直接キッチンにきてしまったから俺自身はまだ鏡も見ていないが恐らく俺もほとんど変化は見られないだろう。

 外見的な、もしくは骨格的な部分に関しては急激には変化がしにくいであろう。

ただ内臓レベルや細胞レベルではどうかと言うと確認のしようもないが、いわゆる幹細胞レベルでの逆行は意外と急速に行われている可能性がある。


それはまた脳細胞についても同様に働いている可能性が高く、それが故に俺達はしばしばデジャブを感じる。恐らくこれは内的逆行に伴い過去の記憶が曖昧になることから生じる既視感であろう。

つまり記憶レベルでも急速にでは、ないまでも時に欠落や曖昧さを感じさせるレベルでは変化は起きている。しかし記憶の欠落と反比例するようにひらめきやイマジネーションに関しては向上している感がある。奈々のハイレベルな発想を拒否することなく受け入れることが出来ているのはもしかしたら脳が若返っているのかもしれないな。


「雅樹さん・・・」

奈々が長い熟考から覚めて俺の名前を呟く。


「どうした奈々? 何か思い出せたのかい?」

「思い出したというか、これまでのイメージからかつて京子ちゃんが私に託したメッセージを記憶の中からサルベージしてみました。」


「エッセンスをもとに記憶を復元したってことだね」

俺は自身に理解できるように噛み砕いて奈々に尋ねる。


「その通りです、その結果どう言うわけか一部の記憶が意図的に曖昧にされていることに気が付きました。そしてそれは時間の内的逆行が意図的にもたらしている作用でもあると類推します。それが故に過去に京子ちゃんと交わした会話を再度京子ちゃんがメッセージとして夢で再現してくれたにもかかわらず奈々は思い出せなかったのです。これはおそらく後に証明されるはずですが、この異空間の存在は記憶に残されてはいけないものであるというある種プログラミング的な要素が存在していると考えています。」

奈々は一旦言葉を切り、そこから仕切りなおすように話し始める。


奈々の理論的な思考に感心するとともに自分自身が類推していた定義とかなり認識が近い事に満足する。


「雅樹さん、これまでのエッセンス、キーワードをもとに奈々はある仮説を立てそこから思考していきました。その仮説とは京子ちゃんが奈々にカフェリンダのノートを託したというものです。そしてそこから導き出せるノートの存在意義と、京子ちゃんが奈々にメッセージとして伝えたかったことを加味して考えると、奈々が夢で再現したにもかかわらず思い出せない京子ちゃんと過去に交わした会話と京子ちゃんが夢と言う形で発信したメッセージのエッセンスとは、こうなるはずです。『奈々、あたしは曖昧になる記憶をこのノートに書き記すよ。あたしは漆黒の津波や異空間で確認できたことをここに書き記すよ。奈々、カフェリンダのノートを見るんだよ。奈々! この異空間から必ず抜け出すんだよ!』と」


奈々の瞳に怜悧な光が宿る。

そして、その視線の先には確かな真理が見据えられていた。




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