だからこの先はもう本当のことは言わない
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俺は、さっきまで見ていた夢の話を奈々に話す。
夢とは言っても奈々と京子ちゃんの夢と同様、過去の再現だ。
寝言でだいぶ声に漏らしていたようだが、流石に断片的過ぎて全体の流れは奈々も分かっていなかったようだ。
なので、恋だの愛だのとは全く違った次元でのやり取りであることも抜かりなくそれとなく落とし込んで話す。
奈々にですらあまり語りたくないのだ。
俺の中の聖域?
誰にも汚されたくない愛しい永遠の瞬間・・・
大げさだ。
優子はそんな風には思ってやしない。
それも十分わかっている。
ただ奈々とはまた違った美しさと独特の世界観が今でも俺を惹きつけて止まないのだ。
おっさんのセンチメンタルなんだけどね。
だからこの先はもう本当の事は言わない。
と、心の中で誓うのであった。
ひとしきり話し終えると奈々が言う。
「・・・・やっぱりハトに乗って飛びたいって言うところがすごく好きです!発想が自由と言うかハチャメチャでかっこいいです。」
奈々が殊更感心する。
「ハチャメチャ!!そう!一言でいうとそんな一面もあったな!本当はすごく繊細な子なんだけどね。自由、それもそんな感じ。かっこいいか・・・同性だとそう感じるのかな?俺はストーレートな奴っ!って感じだったけどな。」
そう言いながら思わず笑う俺。
「で?」
奈々の声のトーンが落ちる・・・。
「で?とは?」
アホみたいに聞き返す俺。
「優子さんが言った、雅樹は指一本優子には触れないってとこと、もう二度と会うことはないってとこと、それから・・・雅樹は優子の事が好きなんだろう?ってとこと・・・・。」
虚ろな目で指折り数える奈々・・・。
「いやいやいや?ちゃんと話し聴いてた?奈々?そう言うんじゃなくてお互いになんて言っていいかわからないけどそりが合う?感覚が合うって言うか、ノリが合うって言うの?愛とか恋とかじゃなくて言葉のやり取りがすごく楽しいって言うか・・・ね?そう言うのってあるじゃん?」
取り繕うように言ってしまった事が結局嘘っぽくなっている様だ。
「あ、そういうのいいですから。奈々が聞いたことに端的に答えてください。奈々が更に知りたいと感じた場合そこからもう一度質問しますから。」
怜悧に言う奈々。
「ハイハイハイハイ、本当に指一本触れていません!誓って。その後二度と会っていません記憶の限りでは・・・。最後の質問はそれは私が言ったことではなく先方が言ったことなので私は感知しておりません
。」
「・・・・・・。どうも最後の回答が引っ掛かりますね・・・。」
怪訝な顔で例の如く俺の表情をまじまじと観察し始める奈々。
「・・・・・・。」
ここはだんまりを決めて嵐が過ぎるのを待つ。
真実はいつも記憶の遥か彼方にあるのさ。
そして時として光速で蘇る。
その内若い奈々にも理解できる日がきっと来る。
「わかりました。オレンジ色のハトのセンスに免じてこれ以上の尋問は中止とします。」
厳かに言う奈々・・・
尋問されてたんかい!俺は捕虜か?被告人か?
っと言う心の叫びはまたもグッと胃の奥に押し込んだ。
「ところで雅樹さん?奈々にとっての京子ちゃんの夢がメッセージだとして、雅樹さんの優子さんの夢もやはりなんらかのメッセージじゃないのかって・・・そう感じました。」
「優子のメッセージ?」
「そうです・・・例えば雅樹さんと優子さんは20年後に喫茶店で会う約束をしていましたよね?」
「ああ、だけど20年経つ前に喫茶店は閉店しちゃったよ。それにあれからまだ20年経ってないしね。」
俺は自分の夢に、京子ちゃんの様なメッセージ性を読み取れずにそう返答する。
「雅樹さん?こうは考えられませんか?20年後の未来の優子さんは、雅樹さんと再会が果たせなかった。もうお店は閉店してしまっていますからね。そしてそこから何らかのメッセージを込めて過去の雅樹さんに夢と言う形で確かに伝えたかった思いを表現した。」
奈々は中空を見ながらそう言い、言い終えると俺の方をまっすぐに見た。
「『自由に!一緒に飛ぼう!』これらのフレーズが先ほどの夢のエッセンスだと奈々は感じました。」
「『自由に・・・飛ぼう・・』か。」
「そうです!きっと優子さんは優子さんの確定した未来から見えた、もしくは予測された雅樹さんの状況に即応し、過去の雅樹さんにもう一度自分の伝えたかったの意志の元、想いを発信したのだと!その結果私の京子ちゃんの夢と同様に夢と言う形である意味メッセージが具現化されたのではないでしょうか?」
「なるほど・・・俺の夢も確定した未来からのメッセージか・・・」
「オレンジ色のハト、カフェリンダ、京子ちゃん、奈々、雅樹さん・・・そして優子さん。ここにある一定の共通点があるように思えてなりません・・・具体的に発想することが出来ないのですが・・・。それと今回の優子さんからのメッセージ・・・。雅樹さんがアイビーの落書き帳からカフェリンダのノートに書き写した行為・・・。これらが一直線上に並ぶ何かがあると奈々はそう思うんです。」
熱っぽくそう語る奈々の頬が紅潮する。
そう言えば湯上りでもあったな。
「奈々、俺にもなんとなく奈々が感じているニュアンス理解できるよ。」
「わかってもらえて、うれしい!」
やっと・・・奈々が笑顔になった。
ホッとする俺。
「でも続きはお食事してからにしましょう!雅樹さん!」
間接照明に照らされる二人の影が親しげに寄り添い重りその色を濃くしてゆく。




