雅樹さんが地獄に落ちることの無い様にっ!
8年ぶりに奈々が動き出してとても憂いしいです。
読んで下さってくれている方に感謝です!
一生懸命書きますので是非、コメント、ブックマークお願いします!
「優子・・・」
そう呟きながら俺は束の間の眠りから眼を覚ます。
「夢・・・だよな。しかし、懐かしい夢だった・・・な。」
そしてソファーから身を起こしもう一度夜景でも眺めるかと身を翻した瞬間、目の前に奈々が座っている事に気がつく。
ちょうど起き上がる前の俺の顔を覗き込む位置に座った奈々は、風呂上がりに似つかわしい寝間着がわりにもなりそうな柔らかな素材のワンピースを着ていた。
「目が覚めましたか?雅樹さん?優子もちょうど今、お風呂から上がって来たところです。」
起き上がった俺のちょうど顔の位置に笑顔だが、目の笑っていない奈々が、優子と名乗って俺に話かける。そして、
「雅樹さん?優子の夢を見ていてくれたの?優子優子って何回も優子の名前読んでくれてた!優子嬉しい!」
と、笑顔を見せながら言うが、やはり目は笑っていない。
な、なぜ奈々が優子と名乗っているのかは俺には全く理解出来ないが、とても怖い。
俺はどうリアクションして良いのか分からずフリーズしかける。
「あ、あの、奈々?奈々だよね?」
恐る恐る言う。
「いいえ〜私は奈々なんかじゃありません。こんなに健気な女の子と二人っきりでお部屋にいるのにそんなの全く影響を受けること無く雅樹さんの夢に出てきて寝言で名前まで呼ばせちゃうくらい大切な大切な大切な、雅樹さんの優子ですけど?何か?」
文末のクエスチョンマーク部分を小首を傾げて言う姿の可愛さに一瞬この事態の全てを忘れてしまいたい気持ちになる。寝言で今の夢を解説してしまっていたのか・・・俺は。
一体どこまで鮮明に寝言で口走っていたのかが問題だ・・・。
しかしここはひとまず・・・。
「あ、いや誤解だよ奈々?」
「誤解?誤解では困ります。雅樹さんが地獄に落ちることの無い様に優子は優子なんですから。それに、夢の中での認識って言うのは、無意識の領域ですからいわゆる恣意的な意図が排除された純~粋~な想いなんだと?そんな純粋な想いを誤解なんて言っては行けません。それこそ、ジ・ゴ・ク!落ちですよ!」
どうもこの辺りの奈々のロジックが良くわからない・・・。
が、恐らく俺が地獄に落ちないために奈々が優子に、なり変わっているということなのだろう。
可愛くも健気だが、現実にはそんなに可愛らしいものではなさそうだ。
「いやいや奈々、そうじゃなくて・・・。」
立て板に水、取りつく島も与えられれそうにない俺はオロオロ怯えるように言う。
「いやいやそうじゃなくて?何がそうじゃなくてなんですか?あんなにはっきり寝言を言い続ける人をユ・ウ・コ!は初めて見ました!大変興味深かったです。『ヨーカドーのハトに乗って飛ぶのが夢っ』なんでしょ?『ハトに乗って・・・』ん?」
殊更優子を強調していった後、急に考え込む奈々・・・。
「・・・これって・・・どこかで聞いたような・・・。」
小声で呟く奈々。
「雅樹さん!『ヨーカドーのハトに乗って』って言うフレーズどこかで見たことがあります・・・。カフェリンダ!カフェリンダのノートです!一体どうして?」
奈々が俺にかぶりつくように言う。
「あ!ああ・俺自分で書いたかも・・・はは・・。」
そう言って自嘲気味に笑う俺。
「カフェリンダでさ、俺もあのノート見たことあるんだけどさ、各領域のプロフェッショナルの書き込み見てたらなんだか自分も何か書き残したくなっちゃって・・・。」
おずおずと言う俺に奈々が食いつく。
「『ヨーカドーのハトに乗って飛びたいって言う、お前の感性が大好きだよ』ってカフェに集まったみんなの中ですごく話題になってました!」
興奮してそう言う奈々。
「は、は、そうなの?]
自嘲的に笑い恥ずかしさから黙り込む俺。
「ヨーカドーのハトに乗って飛びたいなんて発想する人ってとても感性が豊かな人なんだろうねって!で、その感性が大好きって言う人がいて・・この二人は一体どんな関係なんだろうねって。それからこれが一番みんなの興味の中心だったんですけど、二人はその後どうなったんだろうねって!カフェのみんなの中では『オレンジ色のハト』って言うのが慣用句になっていて、例えば、センスの良い発想や発明のアイディアが出ると『それってオレンジ色のハト』だね!センス良いよ!みたいな使われ方されているんです!」
「は、は、そうなんだ。」
俺は照れたようにそう言うのがやっとだった。
アイビーの落書き帳にそのフレーズを書いてしばらくしてから、やっぱりアイビーは閉店した。
もとより優子がその書き込みを見ることなどないとは思っていたが、それでもどこかに優子の夢を残しておきたいとカフェリンダのノートに書き記したのだった。
「信じられない!あの書き込みが雅樹さんだったなんて!雅樹さん、優子さんとのこと奈々にお話ししてくれる・・・?。」
消え入るような声で奈々が言う。
「わかったよ奈々。」
俺は奈々に夢の中でのやり取りを、ゆっくりと語り始める。
窓の外には、美しくも儚い夜景が広がっていた。




