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後日談の続き

視点変更あり

この小説にはじれじれも存在しない!

 

「名前をお付けしても宜しいでしょうか?」



 ナリアが私にお願いをしてくれたのだが…

名前を付ける? 何にだ? いや、話の流れからしてこの触手の事だろうが……え、大変じゃないか?  この触手の数は一本や二本と言う話ではないぞ?

当然周りに控えていたマーサ達も困惑している。


 それもそうだろう、私の触手は赤子の頃から今の大人になるまで、太さや長さは変われど、数に変わりは無く、その数二十本。

二十本だぞ二十本。


 父に聞いてみたら失わない限りは変わらないらしい。

新しく生えてこないのか? とも聞いたら、

「魔族で軟体系の触手であれば生えてくるんだけど、私達はどちらかと言うと獣系の触手るだからね。

 因みに、触手の目玉を失うと、その触手は枯れて消滅するよ。そしてその部分だけ、毛根ごと死んで禿げるよ」と言われた。


 分かるようで分からない理由だったが、父の体で一箇所だけ、丸い形をしたハゲを見たことがある。

それ故私は、決して触手の目玉を失うまいと、心に固く誓ったのだ。


 うむ、話が少しずれてしまったが要は、二十本だよ? 名前付けるのも大変だけど、覚えるのも大変だよ? と言う事だ。



「あの、やはり駄目でしたか?」


 この場の困惑した雰囲気にナリアが戸惑っている。

このまま見ていてもお茶が美味しいが、可哀想なので話を進めよう。


「駄目ではないが、大変ではないか?

 それに触手共は動いてはいるが、一本一本には意思はないぞ?」

「はい、ですがハーヴェイ様、触手達に意思は無いのでしょうが、特徴はございますのよ」


 なに、そうなのか? と普段私の触手の手入れをしているメイド達に目線を送ると、ブンブンブンと一様に首を横に振っていた。

 まぁ、きっとそんな事を考えた事も無いのだろうが、それは当然の事だろう。


 私が疑問符を浮かべていると、ナリアは得意満面な顔をして私に教えてくれた。


「例えば、今目を開いているこの五本の触手達だって、目の大きさや触手の長さ、毛の流れ、動きのうねり具合など、それぞれに違う特徴が沢山ありますのよ」



 …ふむ、何と、まったく分からん! きっとマーサ達も同じ気持ちであろう。

 だかしかし、名前を付けられて特段困る物でもなく、ナリアがそれで私に今以上に慣れてくれるなら、それに越した事はない。


「くく、そうか、ではナリアの好きに名を付けてくれて構わない」

「わぁ! ありがとうございます!

小さい頃のお人形遊びを思い出しますわ」




 は、お人形遊びだと?

では何か? ナリアはわたしの触手で人形遊びをするのか?

 何だそれは、凄く可愛いではないか。


「あ、すみません!か

 お人形遊びだなんて、ハーヴェイ様は玩具ではありませんのに」


 いいのいいの!ナリアになら玩具にされてもいいんだよ! どんどんこの触手共を使ってやってよ!

でも千切らないでね! 禿げるから!


「いや、いい。

 そう言う風にナリアが遊びたければいつだって遊んでくれて良いのだぞ?」

 駄目だ顔がにやけてしまう。


「もうっ、うふふ、ハーヴェイ様ったら。

 そうですね、では近い将来、お言葉に甘えさせて頂きますわね」


 アハハハハ。ウフフフフ。

 とても和やかな時間が過ぎる。




 私は今、とても幸せだ。



「ナリア」


「はい、ハーヴェイ様」


「この触手の目が 全て開き終え、そしてそれを見てナリアが無事ならば、その時はまた、改めてナリアに求婚をさせて貰えないだろうか?」


 見合いの結果としてだけではなく、私個人からの、心からの求婚をナリアに伝えたい。


 ナリアは少し驚いたあと、その顔を微笑みに変え、返事をしようと口を開きかけたその時――






「そぉんな悠長な事、やってられますかぁーーっ! 」



 そんな声が聞こえ、バターーンッ!!と言う扉の音と共に部屋の中へ現れたのは母と父とついでにサルバだった。

 サルバよ、居ないと思っていたら父達と居たのか。


「大奥様、少々はしたないかと」

「いいじゃない、ここには今は家族と屋敷の者達しかいないのだから。サルバったら相変わらずね」

「ナリア様がいらっしゃいます。

 それに私は当然の事を指摘しているだけなのですが」

「やぁハーヴェイ、遊びにきたよ」


 皆好き好きに言葉を交わし、ナリアに至っては驚いているのだろう、目を見開いて固まってしまっている。


 …はぁ、どうやらナリアとの幸せなひと時は、暫くお預けになりそうだ。





 ※




 突然ハーヴェイ様のお父様とお母様が現れました。



「父上、母上、来るなら来ると一言知らせてからにして下さいと言っているでしょう」

「ちゃんと手紙を飛ばしたよ。届くのは明日だと思うけど。いやぁ〜ハーヴェイを驚かせたくて」

「まぁ、ラーグったらお茶目ね」

「父上、母上…はぁ、まぁ来てしまったものは仕方ありません」


「そんなことよりも、ハーヴェイ、あの子が貴方の婚約者なのでしょう? ほらほら、早く私達にあの子を紹介して頂戴」


「全く、分かりましたよ。しかし残念ながらナリアはまだ婚約者ではありません。

 ですがご存知の通り、今回の見合いで縁があり、私と、その、こ、恋人となってくれた、女性、です。

 ナリア、此方へ」


「は?」「えっ?」



 ハーヴェイ様が私を紹介して下さるようです。

少々驚き唖然としてしまいましたが、兎も角ご挨拶を致しませんと。

 私は立ち上がり、ランドグラッセル侯爵夫妻の方へと体を向け、あら? 何故か二人が唖然としていらっしゃいますが、これはご挨拶してもよろしいのですよね?よし、頑張りますわ。



「お初にお目にかかります。ただ今紹介に上がりましたサーザンド男爵家の次女、ナリア=サーザンドでございます。

 この度ご縁があり、ハーヴェイ様とお付き合いをさせて頂く事になりました。身分不相応とは重々承知しておりますが、出来ればどうぞこれからも、よろしくお願い致します」


ふう、流石に緊張してしまいますわ。失礼がないと良いのだけれど。



「まあ、まあまあまあ! ご丁寧にどうもありがとう。ナリア、良いお名前だわ!

 私はハーヴェイの母親でアンジェリカと言います。此方こそどうか宜しくね。

 ナリアさん、私の事はどうか義母(はは)と呼んで頂戴ね」

「え、しかしそれは…「お願いね、ナリアさん」…はい、義母様(おかあさま)


義母様(おかあさま)ですか、本当によろしいのかしら? 何だか照れてしまいますが、そう呼べる事はとても嬉しいですね。


「は、母上! ナリアをあまり困らせないで下さい」


「…ハーヴェイ、貴方はちょっと此方へいらっしゃい」



 あら? 何故だか義母様(おかあさま)にハーヴェイ様がぐいぐいと部屋の隅へ連れて行かれてしまったわ。

 私、やはりなにか失礼をしてしまったのかしら?


「大丈夫ですよ、ナリア様。

 大奥様は、ハーヴェイ様のあまりの甲斐性の無さに喝を入れるだけでございます」

「そうそう、大奥様ではありませんが、この調子だと本当にいつになることやら。

 ここだけの話、旦那様は案外ロマンチストなものでして」


 あぁ、成る程。先程のハーヴェイ様の発言ですわね。私も、婚約はして頂いても良いとは思っていました。寧ろあの後(お見合い)、婚約するのだと考えていましたのに。


「ありがとう、サルバ、マーサ」



「マーサ、私にもお茶を淹れておくれ。

 ごめんね。アンジェリカもハーヴェイに良い人ができて少し浮かれているんだよ」








 ――――っ!





 ……あ、危なかったわ。急だったから危うく叫び声を上げてしまう所でした。

 いつの間にかハーヴェイ様のお父様が、私達が先ほどお茶をしていたテーブルへと着いておりました。


「話を途中にしちゃってごめんね。改めて自己紹介をさせて貰うよ。

 初めましてナリア嬢、僕がハーヴェイの父親で名前はラーグ。見て分かるように魔族だよ。

 アンジェリカがああ言うなら、どうかぼくの事も義父(ちち)と呼んでおくれ。

ほら、ナリアさんも座って座って」


 そう気さくにニコニコと微笑みながら、ランドグラッセル侯爵は自身を紹介して下さいました。


「…お、義父様(おとうさま)?」


 うんうんと、満足気に頷いて下さいますが……義母様(おかあさま)と同じくそう呼ぶ事を許して頂けるのはとても嬉しいのですが…


正直『おとうさま』と言う言葉の違和感が凄いですわ。


 義父様(おとうさま)は目や口がハーヴェイ様より数段も大きく、きっとハーヴェイ様で慣れていなければ、私の意識は一瞬で無くなっていた事でしょう。

 お姿は、所々に金色の刺繍をされた、足元まである藍色のローブを着用され、その隙間からはやはり触手が動いているのが見えます。



「ああ、ごめんね、驚かせてしまったかな? 僕みたいな姿をした魔族はあまり人族の国へは行かないからね。なかなか特に人間にはこの姿は厳しいみたいだし。

 いやぁ、僕の方は大丈夫だったんだけどね、あの時のアンジェリカとの結婚は本当に大変だったなぁ。あははは〜」


と触手で頭?を掻きながら仰っています。

ええ、確かに厳しいと思いますし、ハーヴェイ様のお祖母様とお祖父様はさぞ驚いた事でしょう。

  義父様(おとうさま)のお姿は人から遠い分、ある意味ハーヴェイ様より衝撃的かもしれません。



 けれどまあ、それはそれとして、何だかとても興味をそそられる恋物語ですわね。


 私は、私自身に恋愛の経験が無いものだから、こう言うお話聞くのは結構好きなのよね。

 また次機会があれば、ゆっくりとそのお話を聞かせて頂きたいですわ。


 そう私の怯えと戸惑いが薄れ、ワクワクと侯爵夫妻の恋物語に心を躍らせていると、


「おや、君はもう大丈夫なのかな?」


 と、面白そうな気配を滲ませながら、私に聞かれました。


 そうですわね。ここは今後の為にも、正直に話しておいた方が良いのかもしれませんわ。


「いえ、実は……」




 私はハーヴェイ様とのお見合いから今までの事を義父様(おとうさま)にお話し致しました。



「あっはっはっは! そうかそうか、それで触手に名前だなんて話になっていたんだね。

 ああ、いやいや、ごめんね、邪魔しちゃ悪いかと思ってちょっと覗いて聞いてたんだよ」


 こんな私でも侯爵夫妻は受け入れてくれるのでしょうか?



「う〜ん、一つ良いかい?」

「は、はい」


「僕の触手にも名前を付けれそうかい?」

「えっ」


 義父様(おとうさま)が、ローブの前ボタンを外して開け、私に体の触手も少し見せて下さいます。




 ――ですが、駄目ですわ。どれもこれも同じに見えてしまいます。

 よくよくと拝見させて貰いましたが、ハーヴェイ様の倍の数の触手があるとは言え、一本もこれといった特徴を見つけられません。全て同じに見えてしまいますの。

 慣れたとしても、それはきっと同じ事だと思います。



「申し訳ありません。

 私には、義父様(おとうさま)の触手を見分ける事が出来ないようで、なので名前をお付けする事が難しく…」


 何故でしょう?ハーヴェイ様の触手はあんなにも簡単に見分ける事が出来きますのに。はぁ。

そうして少し気を落としていると、



「いいよいいよ、気を落とさないで大丈夫だよ。


 うんうん、君ならきっと、ハーヴェイと一緒に幸せになれるよ。息子を宜しくね」


 義父様(おとうさま)が口を大きく開け、迫力のある、けれど慈愛溢れる満面の笑みで、そう、私に仰って下さったのです。






  ポカン、と一瞬呆気に取られてしまいましたが、次の瞬間、私の顔は真っ赤になり――




 ああ、やだわ、私ったら、本当にもうやだわ、そう言う事なのでしょうか?



 私は、今まで異性に恋や、ましてや愛など全く感じた事が無かったものだから、これでも私、此の先ハーヴェイ様のお気持ちに、多少なりと寄り添えるのか少し不安に思っていましたのよ。


 けれど、ええ、やはりお見合いの時の直感は正しく、何も心配は要らないのかもしれませんわ。


 もちろん、まだ確かなものではありません。

それでも日々、私の中でハーヴェイ様への、何か陽だまりのような暖かい心が存在しているのも確かなのです。



 そしてそれは、これからも大きく、大きく、私の中で成長していくのでしょう。


ああ、義父様(おとうさま)が微笑ましく私を見ております。



  気恥ずかしくなった私は、俯き「あ、ありがとうございます…」と、そう答えるのが精一杯なのでした。




ラーグさんいいとこ取り。

次話で終わる予定です。

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