後日談
視点変更あり。
相変わらず細かい設定はぶん投げてます。
ある日私の目的から始まった、息子ハーヴェイへのお見合い作戦が大成功を収めたと言う報せを手紙で受けた。
「ラ、ラ、ララ〜〜〜〜グゥ〜〜!! 」
すぐ後ろの腰掛けにのんびりと座っている愛しの旦那様を全力で呼ぶ。
「どうしたの? アンジェリカ、そんなに慌てて」
「ハーヴェイが、ハハハーヴェイがぁ」
「よしよし、落ち着いてね」
「お嫁さん(仮)を射止めたのよーーー!」
ああ! 頑張ってよかった!
ラーグと同族の魔族をはじめ、人族、獣族、竜族、巨人族、その他色々な種族へ、コネというコネを使い、足下を見られない程度の権力も使い、質より量を優先としたお見合いを実行して良かった!
でもやっぱりいたわ。当人達にはいい迷惑だったかもしれないけれど、本人に結婚の意思があまりなかったり、こちらとしては大したことのない理由で残ってたりする良い御嬢さんが!!
まぁ余程の女性は私が弾かせてもらったけれど。
「本当かい? それは良い話しだね。よし、じゃあ今から向こうに手紙を飛ばすから、早速明日にでも一緒にハーヴェイの所へ行って、少しの間お世話になりに行こうか」
「え、いいの?」
「アンジェリカ、君今物凄くソワソワしているよ。
また内緒で行かれると僕が寂しいじゃないか。急ぎの用事も今は特に無いしね」
やんっ! ラーグったら寂しがりやさんなんだから。
でも、本当に良かったわ。
個人的には、ハーヴェイはラーグに似て、割と素敵な男性だと思うのだけど、どうも世間では違うらしく。
いえ、男性はもちろん女性にも友人はいるのよ? けど恋人には難しいらしいの。
どうやら見た目が原因なんですって。失礼しちゃうわよね!
だけどそれももう終わり。
どう言う風に射止めたかはまだ詳しく分からないけれど、これを逃しては駄目だわ。
でも本当に大丈夫かしら? 実は騙されてないかしら?でもその辺りはハーヴェイも鍛えられてるから見抜けると思えるのだけど…何だか心配に、いえ、でも、きっと――
「アンジェリカ、おいで」
そっと触手で抱き寄せられ、そのままラーグの膝辺りの場所へ運ばれ上に乗せられる。
ラーグは180はある背丈で、ハーヴェイとは違い頭部だけではなく全身に黒くフサフサでサラサラな毛で覆われている触手が蠢いている。
そしてそこに埋もれている私。
正直絵面だけなら取り込まれているように見えていると思うわ。それもある意味では正解かも。
だってラーグの毛の中はこんなにも気持ち良くて、私は病みつきになってしまっているもの。
「落ち着いたかい?」
「ええ、ありがとうラーグ。
何にしても一度会ってみなければなにも分からないわよね」
「ああ、そうだね」
ラーグがわたしの背中をポンポンと優しく叩いてくれる。好き。
一体どんな子なのかしらね? 私、娘も欲しかったのよ。
楽しみだわ! うふふふふ。
※
「む、何故か悪寒を感じ、触手の目が開きそうになってしまった。ナリア、大丈夫か?」
「そうなのですか? 気が付きませんでしたわ。
それよりもハーヴェイ様は大丈夫ですの? 風邪でも引かれたのでは?」
――あのお見合いから、私達は何度か逢瀬を重ねております。
まぁ、逢瀬と言っても今の所、ハーヴェイ様の屋敷でお茶をするぐらいなのだけど。
ですが、あれから呼び方が家名から名前になりましたのよ。
私は侯爵様をハーヴェイ様とお呼びし、ハーヴェイ様はナリア、と呼んで下さいますの。ふふ、照れてしまいますね。
「いや、大丈夫だ。せっかくのナリアとの時間をそんな事で無駄にしたくはない」
「ふふふ、そうですか。でもただの風邪でも油断は大敵ですよ、ハーヴェイ様」
「ああ、その通りだなナリア」
アハハハハ、ウフフフフ。
そんな私達の笑い声と共に今日も穏やかな時間が過ぎていきます。
それにしても、あのお見合いの時のハーヴェイ様の触手達には、とても驚かされてしまいましたわ。
ハーヴェイ様の触手の先端が私の方へ向き、そこに一筋の切れ目が入り、そして徐々に開かれ――
ええ、そこからは何も覚えていません。気が付いた時には自室のベッドの上でしたもの。
私、とても悔しかったのよ。もう少しでお見合いを最後までやり遂げる事が出来たのに。
そうしたら、ハーヴェイ様はもっと喜んで下さったかもしれないのにって。
私が気を失い、ハーヴェイ様が気を使って今回のお見合いを断るのでは、と危惧していたのだけど、そんな様子もなく無事にお見合いは成立し、今に至ると言う訳ですの。
「所でナリア、今日は五本になるが大丈夫か?」
私があの日の事を思い出していると、ハーヴェイ様から最近の逢瀬での日課を聞かれました。
「はい、五本でお願いしますわ」
そう、最近の日課、それは触手達の目に慣れる事ですわ。
特別無理に…とは、ハーヴェイ様も屋敷の皆様も仰って頂いています。
けれど、けれどですよ? 私はこれからハーヴェイ様の、延いては侯爵家の女主人になる予定ですのよ。
そんな私が先日のような醜態を晒す訳には参りません。ハーヴェイ様に恥は欠かせませんわ。
私がお願いした通りにハーヴェイ様は五本の触手達を動かし、目を開き始めました。
そしてまた普段通りご一緒に、お茶の時間を過ごし始めるのです。
最初はやはり私もハーヴェイ様も、怖ず怖ずという様子でしたが、今では慣れたものでこの調子です。
それでも慎重に、というのはここのメイド長であるマーサに言われているので、会う度に増やしても、一本ずつを決まりとしているの。
あら、という事は私とハーヴェイ様の逢瀬が、今回で五回目という事が知られてしまうわ。
やだ、何だか恥ずかしいわね。
この触手達、目の色はハーヴェイ様と同じで紅の色をしていてとても綺麗なのよ。
ただ、数が多いから綺麗が不気味になってしまうという残念さがあるのですけど。
私も明るい所だと大分慣れてきましたけど、夜などの暗い所で急に出会ってしまうと、また失態を犯す自信がありますわ。
「どうだろう? 大丈夫だろうか?」
ハーヴェイ様が心配して下っています。
触手達もパチパチと瞬きをしながら私の様子を伺っておりますわ。
けれど不思議なもので、不気味なのは確かなのですが、訓練のお陰か最近は可愛らしく見えて愛着さえも湧いてきているのです。
「ふふ、可愛いわ」
あ、声にも出てしまったわ。ハーヴェイ様の目がカッと見開き、触手達もワサワサと忙しなく動き出しました。
「申し訳ありません。つい…
ふぅ、私、この癖を直さなければなりませんね」
「い、いや、大丈夫だ。そこもナリアのいい所だと私は思う。
…所で、その、可愛いと言うのは、まさかとは思うがコレの事だろうか?」
「はい、触手達の事ですわ」
「そ、そうか、コレが可愛いか」
「はい、最近は愛らしく思えてきましたのよ」
そうだわ!私、 良い事を思いつきました。早速ハーヴェイ様に提案してみましょう。
そう考えた事を話す為に、口を開こうとした時、
「わ、私は、私も、ナリアの事が可愛らしく思うぞ!」
きゃぁ!
あらあらあらあら!
ハーヴェイ様ったら!そんな事を仰られては私は照れてしまうではないですか!
ああ、やだわ、顔が熱くなってきてしまったわ。
こんなに動揺して、私もハーヴェイ様の事を言えませんわね。
「あ、ありがとうございます」
「う、うむ」
何だか二人して恥じらってしまっています。
そ、そうだわ、それよりも先ほど考えた事をハーヴェイ様にお話ししてみましょう。
「コホン、あのハーヴェイ様、私触手について提案と言いますか、お願いがあるのですが」
「あぁあ、何でも言ってくれるといい」
「名前をお付けしても宜しいでしょうか?」
……場が困惑した雰囲気になってしまいました。
次は侯爵様視点で続きます