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侯爵様はお見合い中

 

 人間の女性とのお見合いは予想道理散々な物だった。

もう基礎からして駄目だ。


 どうやら昔に私と友人達との悪乗りの会話が、周りに回って噂という形になってしまったらしい。なんて事だ。


 その為、人間側の一部で私の事を人喰いの化物だの邪眼の持ち主だのと言う噂が流れ、令嬢達はそれを多少なりと聞き、そして実際に出会ってみれば、それを裏切らない私の容姿。はい、人生終了しました、という感じだ。う〜んなんとも。


 そんな令嬢達がいる客間は、今や身分関係なくお通夜状態になっていると言う知らせをメイド達から報告を受けている。


 今現在も見合いが始まり私と対面すると、叫び、泣き、怯え、逃げ、挨拶すら出来ずまた一人また一人ともの凄い勢いで強制的に見合いが終わって行く。


 これが座っているだけの簡単なお仕事です。というやつだろうか。





 そんな中、ある男爵令嬢の番が回って来た。


「ひゃーーーーーーーっ!! 」


 私を見て、開口一番に叫び声を上げ気が飛んだその女性を何の感慨もなく見ていたのだが、マーサが女性の元へ動き出そうとした時、


「初めまして、ランドグラッセル侯爵様。

 私はサーザンド男爵家次女のナリア=サーザンドと申します。先程は無礼を致しまして申し訳ありません」


 と、叫び声を上げたのがまるで嘘だったかのように普通に挨拶をし始めた。


 おぉ!復活した! と部屋の誰もがこの流れ作業(見合い)で感情が無になっていたため、つい感動で固まってしまっている。


 いち早く立て直した執事のサルバが令嬢を椅子へと勧める。


 私と対面し目も合わせてくる。しかもじっくりと。何だ、彼女は一体何を考えているのだ。

 ナリア=サーザンド男爵令嬢、薄い茶色の髪は清楚に纏められ、目は垂れ気味で髪と同じ色をしている。

鼻筋は少し上向きでなかなか愛嬌があり、取り立てて美人ではないがとても可愛らしい令嬢だった。また随分と若いな。

 おっとサルバが睨んで来ている。私も固まってる場合ではないな。挨拶をしなければ。


「…此方こそ初めまして、サーザンド嬢。私がランドグラッセル家の当主であるハーヴェイ=ランドグラッセルだ」


 それにしてもサーザンド嬢、このまま見合いを続けるつもりなのだろうか? 地位や財産目当てか?

しかし授かれる物なら私は子供も欲しいのだが。


 この時点でサーザンド嬢を疑いつつも何故か子供の有無の心配をしてしまう私はどうかしていたが、言い訳をするならばこの怒涛の見合いで心がすり減り余裕も無かったのだ。

だからつい聞いてしまった。


「貴女は、私と結婚し…()()になる事ができるのだろうか」


「えっ」


 サルバやマーサが正気かこいつ?! みたいな顔になっているがそんな事は知らん。


 さて、サーザンド嬢は怯え青褪めるかそれとも野心を覗かせるのか。

しかしサーザンド嬢は我々の予想を外れ、何と顔を真っ赤にさせ、照れて見せたのだ!!


 部屋はざわめき、私は目を疑った。

「赤くなるだと……私の目は疲れで色が判別できなくなったのか? 」

「大丈夫です、私も赤く見えます。ハーヴェイ様、これはもしや好感触なのでは? 」


 サルバと小声でやり取りしている間もサーザンド嬢の顔は赤いままだ。可愛らしい。

 いや、落ち着け私。年頃の女性が異性からそんな事を急に聞かれたら恥ずかしいに決まっている。

……えっ、化物である私を異性として認識しているのか?

 だ、駄目だこんな反応を返されたことがないためどうすればいいのか全く分からんぞ。


「い、いや、すまない。私の見た目はご覧の通り化物だ。このまま何事もなく見合いが進むと貴女は私と結婚しなければならなくなる」


今までの見合いから考えると、滞りなく見合いが終わった事を母が知れば、これ幸いにとサーザンド嬢を逃すはずはない。

そうなれば男爵であるサーザンド側からこの見合いを断るのが難しくなってくる。


「えっと、結婚をする為に今回お見合いをされているのではないのですか?」

「だが強制はしない」

 だから断るならば今しかないのだ。


くそ、こんな余計な事を言ってしまう自分が憎い。サルバもマーサもこの意気地なしが! という顔をしている。

しかし冷静になってみろ。サーザンド嬢はつい先程私を見て悲鳴を上げていたではないか。

 そうだ、サーザンド嬢も実はかなり無理をしているのかもしれない。


「貴女は部屋に入ってきて私を見た時に悲鳴を上げただろう? 人間の貴女には私が恐ろしいのではないか? 」



 ……返事がない、やはり言い出せないだけで本当は嫌だと言いたいけれど私との身分上言い淀んでいるのでは無いだろうか。

はは、危ない、冷静になれて良かった。もう少しでとんでもない勘違いをする所であった。


「気にしなくてもいい、正直に言ってもらって構わない」


 サーザンド嬢は少し考えてから、「恐ろしいと思います」と言った。やはり…


 分かっていた答えのはずだが思うよりも落胆している自分がいる。触手も萎え萎えである。

 しかしそんな私の心境など知らぬ彼女は言葉を続ける。


「しかし侯爵様とは今日初めてお会いしましたし、私も周りのお話を聞いて覚悟は致しておりましたが、やはり初めて実物を見てしまうと…何度か拝見すれば慣れるのではと思いますが、やはり初めてでは… 」


ん? という事は、初めて見たから驚いた、でも何度も見れば慣れる。と言う事か?

え、次も会う気があるのか?断らないのか?

その言葉でいい歳して私の心はまた浮き立ってしまった。


「大変申し訳ないのですが、流石に侯爵様の頭部を初めて見て恐怖しない人間は少ないと思いますし、私も所詮良くいる人間の貴族の女ですし。

なのでこれはもう仕方がないのでは無いのでしょうか? 」


 申し訳ないと言いつつも割とはっきりとサーザンド嬢は言う。

それにしても…仕方がない、か。

その潔い言い方に、ただただ単純に仕方がないと言う風な彼女が面白く、私は彼女に聞いてみた。


「仕方がない? 」


「はい、侯爵様に恐怖するという点は仕方がない事だと。しかし人間慣れというものがありますわ。現に侯爵様の執事やメイドや護衛にも人間が働いてますでしょう? みな侯爵様に恐怖を感じている雰囲気がありません。むしろ侯爵様を心配し、気にかけておられるように見えます。

これはきっと大丈夫、という事だと思うのです」


 そうか? こいつら慣れすぎじゃないか? 今のこの私の状態を面白がっていないか?

まぁだがそんな風に言われ、嬉しく思うのも事実。

しかし大丈夫とは一体どう言う事だろうか?


「大丈夫? 」


 そう私が聞いた後、サーザンド嬢は今日初めての満面の笑みで答えてくれた。



「はい、侯爵様は良い化物だと! 」




 ――私はこの瞬間彼女に、ナリア=サーザンドに恋に落ちたのだ。




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