前編
ふわっと読んでね。
初めまして。私の名前はナリア=サーザンドと申します。先月17歳になりました。
どうやら私、今日、化物とお見合いするそうです。
とは言いましてもそれは私だけでは無く、私の他にも未婚で婚約者もいない10代後半から20代後半までの貴族の女性が十数名程ここ侯爵家に集められ、身分が高い方から順にお見合いされるのですが。
因みに、一応私は男爵令嬢なので、身分の順番で言うと最後の方になりますので、今はこの広々とした客間でゆっくりと侯爵家のメイドが淹れてくれた美味しい紅茶を楽しんでおりますの。
「ぎゃーーーーーっ! 」
はぁ、紅茶が美味しいですわ。
私も貴族で勿論そこそこ裕福ではありますが、ここ侯爵家の物と男爵家の物とはやはり程度が違いますね。高級な紅茶、有名店のお菓子、素晴らしいですわ。
「いやーーーーーっ! 」
客間だけでもとても豪華。
家具や装飾品も形は簡素ではありますが、その分意匠がとても華美で統一感がありますの。
こう言う物に詳しくない私でも、何と無しにも分かるこの高級感。
今私が座っているこのソファも絶妙にお尻が沈み込み、とても座り心地が良いのですよ。ふかふか。
だと言うのに他の皆様、一様に顔が青く、震えていらっしゃいます。
それに先程から順番が来られて、侯爵様の元へと向かったはずのお嬢様方の叫び声が聞こえ、お見合いが終わった後も気を失ったのか、従者とメイドに運ばれながら戻って来られたり、泣き叫びながら戻って来られたり、無表情で戻って来られたと思ったら、挨拶もそこそこに従者と共に脱兎の如く出て行かれたお嬢様もおりました。
…これは、中々に失礼に当たるのではないのでしょうか?
しかしそれは私の杞憂であるようで、ここの執事やメイド護衛の方々も誰も彼女達のこの行動を咎める雰囲気はありません。
私も侯爵様とのお見合いが始まれば彼女達のようになるのかしら?
不謹慎だとは思いますが恐ろしくも、少しワクワクもしてしまいますわね。
ランドグラッセル家当主、ハーヴェイ=ランドグラッセル侯爵、年齢は確か三十五歳。
彼は中々の有名人ですの。何故かと言いますと、侯爵様はどうやら父親が魔族、母親が人族という、異種族間で産まれたハーフなのですって。
しかもその父親がが人型ならまだしも異形だったものだからさぁ大変。
案の定二人の子である侯爵様にも魔の部分が遺伝されたと。
しかし今時異種族間結婚自体は特に珍しいものでも有りませんし、問題でも有りません。
多少の小競り合いはあるものの、私がいる国はここ数百年かは魔族の方の国とも関係が良好で和平が続いております。
その数百年前は種族間での争いや国同士の戦争もあったようですが、その辺りは今は置いておきましょう。
では何が有名だと言いますと、何と言いますか、単純に見た目が…という事らしく。
なんでも私が聞いた噂では、一度見れば地獄に落とされるとか、その眼を見れば深淵に引き摺り込まれるとか、触手に囚われ養分にされるとか色々。
まぁ、私はまだ見たことがないから何とも言えないのだけれど、お見合いが終わった皆さまのこの様子を伺うだけでも察するものがありますわね。
それにこの集まった令嬢たちは、私も含めて大体が訳ありであったり行き遅れであったりの微妙な人選なのです。
私?私はよくある話で、メイドであった母が現当主である父にお手付きにされ見事妊娠。
そのことに気付いた母はメイドを辞めひっそりと街で暮らし、そして産まれる私。
しかし私が7歳になった頃、母は流行り病により天に召され、何処から嗅ぎつけたか、父がいる男爵家から迎えが来て一緒に暮らすようになったのです。
父の隣には現奥様とその娘が居ましたが、まぁ何と言いますか、上手くいかず割と今の今まで邪険にされてきました。
何故私を引き取ったのか、頭の足りない私ではずっと謎のままだったのですが、今日分かりました。
こう言う時の為の私だったのです。
そう気付きましたが特に何か思うことはありません。何だかんだと今まで衣食住についてはしっかりして頂いていたので。
「次の方、ナリア=サーザンド男爵令嬢、お願い致します」
そんな事をつらつら考えていると、私の名前が呼ばれました。順番が回ってきたようですね。
案外早かったですわ。
今回何故侯爵様がこのようなお見合いを開かれたのかは私には分かりませんが、噂の真意を確かめられる良い機会です。
因みにただの興味本位ですが。
さて、私ナリアも地獄や深淵とやらを見てまいりましょう。