不真面目の真面目
三日連続の雨には、さすがに気が滅入ってしまった。
ケモ村の村人達は本日、行事のため全員不在。
雨だし、一日中メリーとスローセッ○スでもして過ごそう! という計画を立ててみたのだが、行事のせいで全部パァ! おのれ行事めぇ!
まぁ別に、約束してたわけでもなんでもないから、メリーには行事の方を優先させたんだけどな。……なにせ行事っつーのは、DBとの最後の別れなわけだし。
一応、俺も一緒に行きませんか? って、メリーに誘われはした。だが断った。俺に魅了されたケモガール達が、泣くのを恥ずかしがってストレス溜めたら良くないからな。あと、葬儀とかあーいう堅っ苦しいのが嫌いだからっつー理由も、有ったり無かったりする。
なのでこうして、一人で我が小屋で寝ていたわけなのだが……
飽きた……。寝るのだって限度つーものがある。
あーあ、晴れてれば島の中を探索しまくったりとか、いくらでも時間を潰せんだけどなー。雨だとそういうわけにもいかないかんなー、あーあ。
これじゃあ俺一人しかいない部屋で、ラニーニャの顔面を弄くって遊ぶしかないじゃないか。
「ほれ、笑え」
「ぞ」
「女の子は笑顔が武器だ。笑顔を覚えろ」
「ぞ」
いくら顔面を弄くっても、すぐ無表情に戻るラニーニャじゃ、五分が限界だった。一人遊びの限界なんてこんなもんだ。
「飽きた。あーあ、暇だぁ……」
「……そうかぞ」
なので結局、獣人の葬儀はどんなもんかと、村人達の後を追うことにすますた。
卍
ケモガール達は俺の存在に気づかない……ようだった。それどころか、ばぁさんを広い草原に運んでいる間、誰一人雨を気にするヤツがいなかったり。さらに、ばぁさんを寝かせるための穴を、全員で泥だらけになりながら掘ったりしていた。気づかないんじゃなくて、気付けないんだろう。
しかし年頃の女ばかりだっつーのに、汚れを気にしないとかどういうことだよオイ。
みんな表情がラニーニャだな……。あ、死んでるって意味ね。……ったく、ここまでばぁさんに依存してやがったとは。
そういやメリーはどうだろう? ……あちゃー、びしょ濡れだな。村で唯一ちゃんと服を着てるからなぁ、濡れると大変そうだな。
でも表情はいい。つっても、他のヤツらと比較べれば、だけどな。実際泣きまくってるし。
けど泣くっつーのはいいことだ。アレはストレスを逃がす行為だし。だから逆に、泣かねぇヤツは危なかったりする。
アイツみたいに、無表情で泣いてないヤツは特に。
犬ミミとかウサギミミなんて泣きすぎて嘔吐いてるっつーのに、アイツは、涙一つ流しちゃいなかった。
アレ、結構ヤバイよなー……。まどうでもいいか……
とにかく村人の邪魔にならないよう、ラニーニャとでっかい葉っぱの傘をさしながら、こんな感じで離れて見守るだけにしといた。
獣人達の葬儀は、昔の日本の葬送とほとんど違いがなかった。土饅頭だったけかな? 土に埋めて地面を盛り上げるだけの、一番シンプルな埋葬だった。
葬儀も終盤、一人一人が順番に土をかけ、ばぁさんを埋めていった。そしたら土をかけていったヤツが、次々と泣き崩れていった。一人除いて全員が同じ行動を取っていくもんだから、すげぇなと、本気で驚かされてしまった。
ってなわけでどんどん見晴らしがよくなっていったもんだから、最後に、しっかりばぁさんの顔を見ることが出来た――
「へっ、思った通り……満足そうなツラだな……DB……」
「ぞ?」
一人言を呟く俺を、ラニーニャは隣でじーっと見つめていた。
卍
ばぁさんが土に消えてから三十分くらいが経過した。
が、村の連中は誰も動こうとしなかった。
動けない、とっ言った方が正しいのかも知れない。
踞り、あるいは立ち尽くし、瞳から大粒の雨を流すケモガール達。行って一人一人抱き締めてやろうかな。なんて思い始めた頃、
「さぁ皆の衆、これ以上はオオババ様に笑われてしまうぞ! ここからはいつも通り、オオババ様が望んだ日常に戻ろう!」
ようやく一人のお姉さんが声を上げた。
声に従い、村人達は一人、また一人と村へと帰っていった。
お姉さんは俺より五歳ぐらい上に見えた。鹿角を生やした巨乳さんで、灰色の長い髪と女豹よりキツそうな吊り目が特徴的だった。アレは真性の女王様だな。うん。
んでなんとなくだけど、あの女王様が次のリーダーなんだろうなって思った。そんな女王様は去り際、俺を一睨みしたような気がしたのは、たぶん気のせいだろう。
あと、メリーは俺の存在に気づいた途端、顔を赤くして走り去って行った。どうしたんだろう? なーんて鈍感系主人公のようなリアクションはしない。あの晩以降、メリーは俺を見る度に赤くなるんだからそういうことだよ。うん。葬儀も終わったし、今晩辺り襲いに行こうかな。ムフフ。
卍
重い足取りで村人達が全員いなくなった後、一人だけ残り、ばぁさんが眠る場所のすぐ側で立ち尽くしているヤツがいた。
ソイツの正体は、なぜかいつも俺の側にいてエロいカッコウでエロい身体を見せつけてくるくせに、ちょっとお触りしただけですぐに暴力を振るってくる理不尽女。
女豹だった。
今日は目立つご自慢の赤髪も、雨雲のせいで光沢を失っていた。そしてなにより、ヤツからはいつもの覇気が、全く感じられなかった。
「……アイツが元気じゃないほうが、俺には都合がいいよな」
一人、アイツは盛り上がった土を、ボーッと見詰め続けている。
「その方がメリーとイチャコラ出来る。助ける義理なんざ何もねぇ……」
虚ろな瞳に光は無く。よーく観察してみれば、肌が荒れていた。……飯もほとんど食ってなかったんだろう、少しだが、窶れてさえいる。精神的に参っているヤツの症状、そのものだった。
「…………あーー!! バカなのか俺は!!」
女豹がどうなろうと俺には関係ない。どころか、利しかないっつーのに。俺は、アイツを放っておけなかった。
だって、失うにはもったいない身体なんだもん。
「ラニーニャ! 少しここで待ってろ!」
「ぞ」
ラニーニャはいつも通り無表情だったが、元気に片手を上げ返事をしてきた。相変わらずよく分かんねぇなコイツ。
ラニーニャに葉っぱ傘を投げ、女豹の元へ向かった。
弱い雨だが、地面はぬかるみ土は泥に近い。だというのに女豹のヤツ、俺が行くまでのちょっと間で、何の躊躇いもなく盛り上がった土に抱きついてしまった。
「おい女豹!」
呼んだところで、返ってきたのは静かな雨音だけ。
「おい!!」
肩を掴み、振り向かせようとしたのだがびくともしない。
女豹は怪力だからね。仕方ないよ。
「…………チッ」
なので舌打ちを一つして、切り札を使うことした。
背中を向けている女豹に、ベタリと張り付き襲いかかったのだ!
「ッ!!」
そう、胸を揉むためだ。もちろん直接両手でね。
普段はビキニの上から触っているが、今日はこうしないとダメだと思った。優しいね俺って。
「……バヴブフゥゥッ!!」
稲妻かと思った。
両手に伝わる、張りがありながら柔らかな感触が消えた! と思った瞬間、ほぼ同時に四ヶ所に激痛が走っていたのだから。
顔面顔面喉心臓。掌底キック肘打ち掌底、の順番……だったと思ふ。常人だったら多分死んでたよ。うん。
鍛えてて本当に良かったと思いました。
「……キサマは…………キサマはぁっ!!」
胸ぐらを掴み、指一本動かせない僕ちゃんを持ち上げる暴力女。死んでないことも意識を保っていることも奇跡なのに、こんな仕打ちしてくるとか女豹ってマジ鬼畜。
「…………」
親の仇とでも思っているのか。女豹はメチャクチャ歪んだ顔で持ち上げた俺を睨んでくる。が結局、何もしないで落下させられた。
「……この間のキサマの助言で、最後にオオババ様と話すことができた。……だから、これはその礼だ。……次はないからな」
落下の衝撃で人が喋れないことをいいことに、勝手に話を終わらせる女豹。ホント、ヤな女。
……でもまぁ、揉めば元気が出ることは分かったし、痛みが引いたらまた揉んでやるとするか。
動けない俺をほったらかし、女豹はまた盛り上がった土の元へ向かい、抱きついていた。
痛みが引くまで待ってみたが、全然動けそうにない。……折れちゃったかなぁ?
「ひじり」
動けないから仕方なく雨が降ってくる様を眺めていたら、生意気そうな声とともに、視界に翠のガキが映り込んできた。
「だいじょうぶかぞ?」
「大丈夫そうに見えるんだったらてめぇの目は病気だ。今度メリーに舐めてもらえ」
「いたいのかぞ?」
「痛ぇなんてもんじゃねぇよ! ……悲鳴を上げねぇだけでも褒めてもらいたいレベルなんだぞ? 分かるか?」
本気で痛かったから、ちょっと大人気ない発言をしてしまった。反省。
「そうかぞ。じゃあ、なおしたほうがいいのかぞ?」
「は? 何言ってんだお前?」
「おまえじゃないぞ。ラニーニャだぞ」
「あ、うん。なんかごめん、……じゃなくて。ラニーニャ、お前、傷を治せるのか?」
「できるぞ。ラニーニャとあったとき、ひじりの目をなおしたのもラニーニャなんだからな」
えっへんと、胸を張るラニーニャ。……うぜぇ。
「……そうだったのか。んじゃあ、とりあえず頼んだ」
「わかったぞ」
空を見上げ、動かなくなるラニーニャ。
「? おい、どうしたラニーニャ?」
返事はなく、それから数十秒後に、最悪の事態が訪れた。
どこからか、グチュグチュと音が聞こえてきた。
まさか!? と思った時にはもう、間に合わなかった。
口いっぱいに雨を含んだラニーニャが、俺を真上から見下ろしてきた――
「やめろぉぉおおぉぉぉぉぉっ!!」
卍
「ふぅ。だぞ」
一仕事終えたぜ。みたいに、やりきった顔をするラニーニャ。
対して俺は、全身を泥水で洗い流したい気分だった。
まさか幼女に皮膚を犯される日がくるとは、思いもしなかったよ。
あー、ベトベトする。人に○ロ吐くとか、拳骨の一発ぐらい喰らわしたいところだが。
……実際、身体から痛みが無くなってるせいで、何も言えない……
「とりあえず、色々言いたいことはあるが、助かったぞラニーニャ……」
「ぞ!」
敬礼とともに、歯切れの良い素敵な返事をしてきたラニーニャ。イライライラリンコ。
「さて、動けるようになったし、女豹のヤツの目を覚ましてやるとすっか!」
と、気合いを入れてみた。ついでに、すぐ近くにいる女豹に、ちょっかい出すぞと宣言をしたことにもなる。
けど、女豹は反応を示さなかった。盛り上がった土に抱きついたまま、全然動かない。
……どうしたもんかなぁ。
乳を揉むのは簡単だが、揉んだらまたラニーニャのゲ○を浴びなければいけない。それに、次は生きてる保証がないらしいからなぁ。
女豹に次はないと言われている為、無策で乳を揉むわけにはいかないのだ。
しばらく考えてみたが……、手詰まりである。
残された手段はもう、トーキングしかないではないか。
ってことで、死んだように動かないでいる女豹の後ろから話し掛けてみることにした。正面からだと危ないからね。
「……なぁ女豹。いつまでそうしてんだよ?」
…………返事がない。ただのビッチのようだ。
「無視か。まぁそれならそれでいいぜ。勝手に話すだけだからな」
やはり返事はない。分かっていることとはいえ、ムカツクことに変わりはない。
「俺も何人か人を送ってる身だからよ。お前の気持ちもいくらかは分かるつもりだ。だから言わせてもらうんだけどよ、お前がそうして、ばぁさんは喜ぶのか?」
ピクッと、耳が動いた。
「俺はよぉ、ばぁさんと数回しか会わなかったからそこまでは分からねぇけどよ、あのばぁさんの性格から考えるに。お前がんなことをしても喜ぶ人には見えなかったけどな。それどころか寧ろ、怒りそうな気さえする」
うんうんと頷いていたら、女豹の顔がゆっくり、後ろを向いた。
「キサマに、オオババ様の何が分かる……」
便所虫でも見るような目付きで、女豹が俺を睨でいた。
「さぁね。分かってるのかも知れねぇし、全然分かってねぇかも知れねぇ。だって答え合わせをしたくとも、答えを知ってるばぁさんはもういねぇんだからな」
瞬間、女豹から発せられた何かが、俺の身体を突き抜けていった。
しばらく感じてなかったから忘れていたが、ソレは紛れもなく、――殺気だった。
スッと、女豹は音もなく立ち上がると、爪を限界まで伸ばし、獣らしい構えを取っていた。前傾姿勢のその構えは、クラウチングスタートによく似ていた。
地面が抉れ、女豹が発射された。
冗談抜きでソレは、ミサイルの発射だった。
「!? ヌォッ!」
あっぶねぇ、なんとか避けれた……
一度、女豹の全力疾走を見ていなければ、間違いなく直撃を喰らっていただろう。
女豹が走り出すタイミング、癖。それらを知らなければ、今頃俺はその辺に寝転がり、最悪死んでいただろう。
だって直撃してないのに、掠っただけなのに、胸の傷はけっこう、パックリいってるんだから。
「……躱されたか」
瞳孔を開き、瞳を丸くした女豹が、俺を捉える。
……ど、どどどどどどうしよう……
今俺弓持ってないんだよなぁ……。弓さえありゃ女豹ぐらいどうにでもなるんだけど、無いからなぁ。……ヤッベェな。
本日二度目の手詰まりである。
躱すことは出来る。けど、反撃する術が無い。そしてこの傷。時間がくりゃぶっ倒れて終わり、ってわけだ。
未来を予測し、参ったとでも言おうかなと思っていたら、
テクテクと、俺の前にラニーニャがやってきた。
「……なんのつもりだ?」
「ひじりはマスターだからな。まもるのはとうぜんだぞ」
「はぁ?」
え、なに。マスターって冗談じゃなかったの?
「ラニーニャ! そこをどけっ! その男を殺せないっ!」
「フォン、そうはとんやがおろさない。だぞ!」
「…………?」
うん。そりゃ困惑するよね。日本人以外に分かるわけねぇもん!
「と、とにかく、どく気はないというわけだな。ならいい、このまま、……その変態だけ狙わせてもらう!」
女豹の足元が爆ぜ、ビッチミサイルが発射された。
ラニーニャを庇おうと飛び出した俺より先に、ラニーニャは前に出ていた。
んで、跳んだ女豹の脚を掴み、流れるように地面に叩きつけていた――
「ガハッ!?」
「えぇ~~……」
卍
背中を勢いよく叩きつけられたからか、女豹は立つことが出来ないようで仰向けで空を眺めている。
そして、叩きつけた張本人であるラニーニャは、急に疲れたと言って眠ってしまった。濡れた地面に寝かせておいても良かったんだが、一応助けてもらったわけだし、特別におんぶしてやっている。
「なぁ女豹」
大人しくなったわけだし、寝転がる女豹に声を掛けてみた。
「……なんだ」
不機嫌なことに変わりはなかったが、暴れたからか少しすっきりしているような、そんな気がした。
「なぁ、人は死んだら、それで終わりだと思うか?」
「……なんだいきなり」
「まぁ聞け、人が死んだらそりゃあ肉体はなくなるわけだけどよ。人にとって重要なのは肉体か? ……そうじゃねぇよな?」
「……なにが言いたい?」
「……ったく。そう答えを急かすなよ、まぁいいけど。つまりだ。重要なのは中身、精神だろ? ばぁさんは死んだ。その事実は変わらねぇ」
「キサマッ!?」「けどよっ!」
「そのばぁさんの精神は、お前らが引き継いでんじゃねぇのか? お前らを育ててくれたばぁさんの想いを、お前も持ってんじゃねえのか? 違うか、女豹」
「…………っ!!」
気づけばいつの間にか、雨は上がっていた。
「……さっさっと、帰れ。わたしも、必ず帰るから、今は、一人にしてくれ……」
本物の雨が止んだというのに。だいぶ遅れてだが、小さくて、それでいて局地的な豪雨は、ようやく降ることが出来たようだ。
卍
こうして、俺は帰るふりをして、女豹が泣く姿をずっと観察していた。
ようやく女豹の弱味を握れたぜ! グヘヘヘへ。
さーて、次回のケモガールは?
ウサミミです。可愛い系です。
村で一番小さいガールだ。え? 身長? 違う違う! 胸の話だよ。
とはいえ小さいことは悪いことじゃない。大きい方が好きだが、ちっぱいだってそれはそれで楽しみ方がある。例えば、
次回「迷い、馬鹿らしく思える日々」
アレ? いつもとタイトルの感じが違くね?