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バカが行く

R17展開


「……ひもじい」


 獣村(けもむら)に来てから三日が経過した。

 未だにハーレムは完成していない。

 なぜか? それは俺がこれまでずっっと、働かされっぱなしだったからだ!!

 仕事内容はザ・(おとこ)の仕事DIYだったからとして、いくら何でも働かせ過ぎなんだよバカヤロウ! 

 この獣村は地震がくれば一発アウトのボロ小屋ばかり! 数件しか家がないとはいえ、一人じゃやることが多くて大変なんだバカヤロウ!


「はぁ、ひもじいよぉ」


 しかも小屋一件まるごとリフォームするような重労働を強いておきながら、出される食事はバナナとかリンゴによく似た変な果物ばっかり! 叫びたくもなるわ! 


「ひ、も、じ、い、ヨォォォッ!!」

「……ぅるっさいっ!」

「オオクボ!?」


 怪力女のビンタが炸裂!


「さっきからなにをひもじいひもじいと言っている! 食事ならちゃんと与えているだろう!?」

「アー、目がチカチカする。……おい女豹ちゃんよぉ、食事だぁ? 果物しか出さねぇくせに何が食事だ? あ? こちとら三日連続同じものに飽き飽きしてんだぞゴルァ!」

「ここではソレが普通だと何度言ったら分かる! だいいちキサマは、三食しっかり食べてるだろうが!!」

「うまいからな!! そりゃ食うだろ!?」

「なっ!? ひもじいと言っておきながらキサマはっ! ん? ……なにかがオカシイ。キサマ、もしかしてわたしをおちょくってるのか?」


 ギクッ!? ……あ、ヤバイ。女豹の尻尾が逆立ってきた。


「まさか! 俺はマジでひもじいから言ってんだって!」

「わたしの次によく食べる、キサマがか?」

「おう! なにせ俺が言ってるのは上のお口じゃなくて、下のお口のことだからな!」

「したの、くち? …………はっ!! この変態がぁ!」


「カヨコ!!」


 まさかのラリアットだった。 

 予想外すぎる攻撃にけっこうダメージを受けてしまい、気絶した――


      卍


 昼休憩。飯はやっぱりバナナみたいだけどバナナ味じゃないバナナモドキだった。アボカド味チェン。思わず語尾もオカシクなるってもんよ。

 女豹はリンゴモドキを食っている。どうせならバナナモドキをエロく食べてもらいたかったが、リンゴモドキを皮ごとワイルドに食うヤツには無理だろう、むしろち○こが痛くなりそうだ……

 萎えそうになったから女豹の胸から視線を逸らし、道行くケモガールたちの胸に移行する。彼女達は俺を見つけると足を止め、遠くから覗き見してくるという変な習性がある。イケメンがそんなに珍しいのだろうか? それとも、俺のグレートバナナが見


「さ、仕事に戻るぞ」

「…………」


 仕事をしてても、ケモガール達は入れ替わり立ち替わり遠くから、トンカチを鮮やかに使う俺を見つめてくる。

 ちょいちょい隣の女豹(めひょう)に視線が集まっているように思えたのは、たぶん気のせいだろう……。女豹はあくまでサポート、俺が釘を打つ丸太を軽々支えてるだけなんだからな。

 …………俺は毎日、こんな怪力女に暴力を振るわれていたのか……

     

      卍


 今日も一件、ボロ小屋を普通の小屋へと進化させてやった。 

「よし、今日はこれぐらいでいいだろう。さて、わたしはオオババ様のところへ報告に行く。キサマは大人しく、家に帰ってろよ? せっかくキサマがキサマのために建てた家かあるんだからな」

「! わかってるって! まっすぐ帰るって!」

「……だといいが」


 あー、この感じ、昨日のことバレてたかな?

 それ以上の追求はされず、ビッチは尻尾の生えた触りたくなるケツを見せつけ、でっかいボロ小屋の方へと消えて行った。

 尻尾はフリフリお尻はプリプリ、カッコウも水着みてぇなもんだし、いまだに誘っているとしか思えない。触ったら触ったらで大変なことになるんだけどね。


「よし……行ったな。おいメリー、出てこいよ」


 そう呼び掛けると、修繕しゅうぜんしたばかりの小屋の近くの木陰から、村娘の姿をした羊ちゃんが現れた。

 彼女は水着村で唯一、ちゃんとした服を着た女の子だ。とはいえ胸部装甲はそんじょそこらの水着よりヤバイ。だから彼女は水着じゃなくても俺を誘っているということになる。まったく、モテるおとこは辛いぜ。ちなみに俺の村人の服を容易してくれたのも彼女、メリーである。


「あの……ヒジリ様? あたしがここに隠れてること、いつから気付いてたんですか?」

「最初っから」

「……っ!!」


 あらら、リンゴみたいに赤くなっちゃてまぁ。しかしあれで隠れてるつもりだったのか、おっぱいが木からはみ出しまくりだったのに。

 

「で何かよう……って、聞くのも野暮やぼだよな」


 昼休みくらいからずっと熱い視線を送ってくれていたのだから。来た理由なんざベッドインしたいからに決まっている。

 ふむ。となると、ベッドインする前に体力をつけておきたいな。


「よしメリー。ジャングルデートしようか」


      卍


「と、いうわけでジャングルに来たわけなんですけどね! ……なんでオメェまでいんだよ女豹めひょう!!」


 朝陽あさひのような紅い髪をしたエロ暴力女が、一回いなくなったのになぜか今、俺の前に隣にいる。いなくなってほしいから犬歯を見せつけ威嚇いかくしてみたんだが、コイツにはなんの効果もなかった。


「いるのは当然だろ。わたしはキサマの監視役なんだからな」

「ご、ごめんなさいヒジリ様……、森に行くにはその、オオババ様に報告をしないといけないんです……」


 なぜか脅えるメリー。威嚇のせいかな?


「それで鉢合わせしたってわけか。んなルールがあるんじゃ仕方ねぇな。メリーに落ち度はねぇよ」

「るーる?」


 るーる? じゃねぇよバカ女豹! 昨日は俺がジャングルに入るのを止めもしなかったくせに、今更なに監視役とか言ってんだ! 今日だってアレだろ、どうせメリーがいるから着いてきただけなんだろこのクソビッチが! 


「で、キサマはなにをしに森に入るんだ?」 

「セッ……肉だよ肉」

「肉?」

「えーと、鳥を捕まえに行くんだそうです」

「鳥を? なのに肉なのか? つまり、食べるために捕まえに行くということか?」

「当たりめぇだろ。俺はいい加減果物以外を食いてぇんだよ。それに、メリーに聞いた話じゃ草食型だって肉は食えるそうじゃねぇか。なのに何で全員、つーか特にお前は。果物しか食わねぇんだ?」

「…………」


 なに黙ってんのコイツ?


「あ、あの、ヒジリ様?」

「ん? どうしたメリー?」

「そ、その……ヒジリ様はどうやって鳥を捕まえるのかなって、気になっちゃいまして」

「おっ。気になるか? フフ……なら特別に教えよう。コイツを使うんだ!」

「それは……」


       卍


 昨日、一人でジャングルに入りこっそり作っておいたものがある。


 それがこの――弓矢である。


 俺は弓神きゅうしんと呼ばれたおとこ。材料さえあれば弓矢を作ることなど朝飯前。しかもこの島は小規模とはいえジャングル。材料なんざ腐るほどあった。

 まず、サバイバル経験をいかしナイフを石から自前で作成。打製石器ってやつだな。ゴツイ木とかは切れねぇけど、大抵のものはコイツで切ることが出来た。


 石ナイフを使い木を切り削って火で(あぶ)れば、弓も矢も最低限の形にはなった。だが、つるだけはそうもいかなかった。丈夫な繊維をまず、見つけることが必須だからだ。繊維自体は自然界にもたくさんあるが、矢を放てる繊維となると、そうそう見つかるものではない。


 繊維を求めジャングルをさまよっていると、陽光ひかりを遮る深い森に入っていた。

 そこで偶然、聖はぁ、(つる)のような植物に、出会ったぁ。

 村人……間違った。蔓は知らない間に腕に巻き付いてやがった。邪魔だと思って腕をぶん回して引き千切(ちぎ)ろうとしたけど、全然引き千切れなかった。

 コイツ、細いくせに頑丈(がんじょう)だなぁ。その上結構しなやかじゃね。……あれ、コレ使えんじゃね? そう思い石ナイフで蔓を切ってみた、そしたら、


「……あん?」


 足元から野太い悲鳴のような声が聞こえてきた。気がした。

 脂ギッシュなおっさんが「きゃー!」って言ったらこんな感じかな? まぁ気のせいだし、どうでもいい。


 切った蔓をいじりまわすと、色々なことが分かった。

 蔓は繊維に沿って力を加えれば簡単に割け、繊維に逆らうと切れ目でもない限り決して千切れない代物だった。

 コレだ! そう思った俺は近場の蔓を切りまくった。切るたびにやっぱり悲鳴のような声が聞こえていたような気がした。が、気のせいなので無視して切りまくった。

 最後の方はなんかこう「も、もっと……」とか聞こえてきたような気がしたから、キモくなって切るのをやめた。

 あと、蔓は割くとヌルヌルした液体を出すことも分かった。ちょっと困ったが、ローションとして使えるな! と思ったら愛着(あいちゃく)()いた。モチロン、瓢箪見たいな植物があったからそれに入れて持ち帰った。


 こうして弓矢が完成したのである。


 ローションのせいでベタベタしてたから試射はしなかった。俺が作ったものだし、ミスなどあり得ない。 

 あとは家の修繕をしてる時に、隙をみて作っておいた矢筒を合わせりゃ、簡易式弓兵(きゅうへい)セットの出来上がりだ。


     卍


「ぱかっぱかっぽかーん!」


 青狸あおだぬきのモノマネをしながら弓矢を掲げてみた。あれ? アライグマだっけ? まぁいいや、装備しよ。矢筒を腰につけ~の、矢を矢筒に入れ~の! とっ。


「なんだソレは?」

「……はっ?」

「ユミヤ、ですよね?」 

「うん。正解だメリー」

「ユミヤ?」

「んだよ女豹、お前、弓矢も知らねぇのか?」

「知らん」

「知らんって……」


 あれ? 肉食型は基本、例の戦争に参加してたよな? なんで草食型のメリーは弓矢を知ってんのに、肉食型代表のようなコイツが弓矢を知らねぇんだ? 


「なぁ女豹、なんでお前弓矢を知らねぇんだ? 十数年前の戦s」「!? ヒ、ヒジリ様!!」

「うぉ!? なんだ、どうしたメリー?」

「あの……少し、いいですか?」


 ……なん……だと!? 

 俺の服の(そで)をつまみ、誰もいない林の方へちいちゃく指差すメリー。典型的な、オ サ ソ イ である。


「よし! 肉を食ってないけど最初にメインディッシュを食べちゃおうっかな!? さぁ、行こうぜメリー!」


 メリーの健康的な腕を掴み、一歩目を踏み出した瞬間、ソレは襲ってきた。


「フンッ!」

「グェボラッ!?」


 水平チョップって喉に当たるとマジでヤバイんだなぁ。 


「グェホ! グェホ! ゴボォッ!!」

「き、急にどうしたメリー? こんなヤツを連れてどこに行くつもりだったんだ? あ、あっちに、何かあるのか?」

「あの……その、ちょっとだけヒジリ様と二人だけでお話しをしたいことが、ありまして……」

「ふ、二人っきりだと!? ……それは、わたしがいたら、ダメなのか?」

「は、はい……」

「そう、か……」

 

 あー、やっとせきが治まった。

 それにしても、HAHA。女豹のヤツ耳と尻尾がシュンとしてらぁ、いい気味だぜ。


「さぁメリー、楽園を拝ませてやる。だから、早く茂みに行こう!」


     卍 


 メリーの腕を引っ張り、獣道から外れて草だらけの場所を突き進む。帰りは疲れてるだろうから、戻りやすいよう草は極力踏み倒してっと。んなことをやっていたら、ほとんど進んでないのにこのくらいで大丈夫ですと、メリーに止められてしまった。


「もっと奥に行かなくていいのか? ここだと女豹から丸見えだぜ?」

「だってフォンさん、見えなくなったらこっちに来ちゃいそうですから……」

「そ、そうか。視○プレイが好きだなんて、見かけによらず大胆なんだなメリー」

「? よく分からないですけど。それであの、フォンさんのことなんですけど……って、ええっ!? あ、あの、ヒジリ様!? どうして、お顔を近づけてくるんですか?」

「どうしてって……口付けは基本だろ?」


 獣人はキスからじゃなくいきなりおっぱじめるのだろうか?


「あの! ヒジリ様!? いまは、その……。もし、ヒジリ様が本当にあたしをお求めなのでしたら、帰ってからお応えさせていただきますから……ですから。その、いまは、お話しを聞いていただけませんか?」

「!? イエスマム!!」


 メリーの可愛い照れ顔は勃○する寸前の破壊力だった! んな顔でお願いされたら、言うこと聞くしかないじゃん!


「帰ってからが楽しみだぜ……ジュルリ。で、話って何だっけ?」

「えっと……フォンさんのこと、なんですけど」

「そうだったそうだった。アイツのことなのが残念だが、メリーの頼みじゃあ仕方ねぇ。何でも言ってくれ」

「は……はい! それじゃあ、フォンさんの前でだけは、戦争のお話をしないでいただけませんか?」

「なんで?」

「それは……。フォンさんが、当時の記憶を持っていないからです」

「へ?」


 自然と、不審者のようにこちらを何度もチラ見してくる女豹を、見返してしまっていた。


「記憶が、ない?」


 これまで女豹とはなぜか一緒の時間を過ごしてきたが、あいつが記憶を失っているとは、つゆにも思わなかった。

 だってアイツ、そもそも悩みなんてなさそうなバカだし、俺をボッコボッコにするのが生きがいなんじゃね? っていうくらい、毎日生き生きしてやがったんだぜ? それで記憶がないとか言われても、疑わないわけがない。 

 とはいえ、メリーの必死な様子を見る限り、これも嘘を言ってるようには見えない。ん? 待てよ。……必死? ……そうか、そういうことか。


 女豹のヤツが果物しか食わないのは、たぶん、忘れてしまったからだ。


 ハンバーガーが大好きなアメリカ人だって、記憶を失ってしまえばハンバーガーを食べたいとすら思わないだろう。この場合、思い出せないっつった方が正しいのか? とにかく、女豹が記憶を失っているのは村の連中にとって、メチャクチャ都合がいいってこった。だって記憶があったら、自分達は食われてたかも知れないんだからな。 


「何となく、メリーの言いたいことが分かった。ようするに、女豹に記憶が戻ったら自分達が危ねぇかもしんないから、戦争の話はするな。っつーことだな?」


 ビクンと身体を震せるメリーたん。嘘をつけない体質のようだ。


「は、はい。ヒジリ様の言う通りです。……ヒジリ様はすごいんですね。いまの会話だけで、そこまで分かってしまうんだなんて……」

「いゃあ~、それほどでもあるよ。まぁそれはそれとして、詳しく教えてもらえねぇか? 女豹ヤツがなんで記憶を失ったのかとか、どうして草食型がほとんどの島の中に、完全な肉食型の女豹がいるのか? とかをな」

「……はい、分かりました。でも、フォンさんがどうして記憶を失ってしまったかは、フォンさんを受け入れたオオババ様にも分からないそうです。あ、でも、フォンさんが記憶を失ったのは、戦争が関わっているのは確かなんだそうです。だからフォンさんの記憶が戻らないよう、村では戦争の話が禁じられてしまったんです」

「ふーん。仮にだが、アイツの記憶が戻ったところで村の連中を食うとは限らねぇんじゃね?」

「……そうですよね。そうであってほしいなって、あたしも思います……」

「……それによぉ、仮にアイツが誰かを襲おうとしたって、全員で取り押さえればなんとかなんだろ?」

「それは……たぶん、無理だと思います」

「は? 無理って、つまりアイツは、記憶が戻ったらそんなにヤバイってことか?」

「……はい。フォンさんの一族は赤豹族せきひょうぞくと呼ばれる、とても勇敢で頭の良い一族なんです。それとその……例の戦争では、一番功績を挙げた一族とも、呼ばれています」


 会話の終わりに、メリーはなぜか俺の顔色を窺い出した。たぶん、俺が人だから、気を遣ったんだろう。


「なるほど。アイツはたぶん違うが、一族は頭が良くて強いだな。人を相手に一番功績を上げるぐらいだもんなー。納得納得」

「? あの、ヒジリ様? 怒って、ないんですか?」

「全然」


 ほっと息を吐き出すメリー。良い匂いがした。


 アイツに関するだいたいの事を教えてもらったところで、話を切り上げ戻ることにした。しかし、アイツが村の変中に嫌われてたとは。プフーー!

 思い返してみれば、女豹と会話をしていたのはDBとメリーと犬の獣人ぐらいなものだった。つまり、俺に他の()が近付いてこないのは、女豹が怖かったから。ということになる。あとはもちろん、俺がイケメン過ぎるせいだ。こっちの方が理由としては大きいだろう。


「そういや、メリーは女豹が怖くないのか?」

「……怖くない。と言えば嘘になります。けど、フォンさんは優しいですから、あたしは平気です」

「ほほぅ」 


 獣人とはいえ、肉食型と草食型の関係は獣とほとんど変わらない。むしろ俺が教えてもらった話じゃ、人の要素が入った分残虐性が増したと聞いている。

 んな天敵ような存在を、メリーは平気だと言い切りやがった。

 エロくて可愛いだけの女だと思っていたが、なかなか面白い女だ。……こりゃあマジで結婚してやってもいいかもな。


「よし、んじゃあ最後にまとめておくか。とにかくあいつの前で戦争の話は禁止。それでいいんだな?」

「はい。お願いできますか?」

「ま、そんぐらいはな。他にも何かして欲しいことがあったら、遠慮くなく言えよ。協力ぐらいは出来るかもしんねぇからな」

「え……? あ、はい! ありがとうございます、ヒジリ様……」


      卍


「おまた~」

「……長かったな。一体何の話をしていたんだ?」

「えっと……」

「ビッチのお前には関係ないことだが、特別に教えてやる。メリーと俺が正式に(夜の)お突きあいをすることになった。っていう話だ」

「なっ!? メリー!? 本当かっ!?」

「えっ? ええっ!?」


 メリーは女豹に肩を揺すられながらも、嬉しそうな表情を浮かべていた。否定もしないし、どうやら完全に俺のものになったようだ。

 どんなに揺さぶっても黙り続けるメリーに、女豹は膝から崩れ落ちた。


「嘘だ……、メリーと、こんなヤツが……」

「おら女豹! さっさと立て、いい加減先に行くぞ!」


     卍


 鳥を捕まえに来たのは精力を付けたい。という理由だけじゃあない。今、俺が手にしている矢も、理由の一つだ。

 弓に軽くつがえてあるこの矢は、木を削り形を整え先端に石を巻きつけただけの、言わばザコ矢。原始的過ぎて現代の矢と比べたら、弱すぎるんだ。

 形式ばかりを重んじるアイツらにこれを見られたら、奴らはどんだけ笑うんだろうな。ま、笑われたところで、アイツらじゃ誰も俺に勝てねぇんだけどな。HAHA。

 話が逸れたな。とにかく鳥を捕まえるのは、矢羽根をゲットして矢の精度を上げるためでもあるってこった。


「……いるな」


 草木(くさき)が生い茂りまくりの密林地帯。既に歩くのもメンドイ中、急に女豹が何かを呟き、足を止めた。

 試しに耳を澄ませてみたら、正面の方でかすかに、草が擦れ合う音が聞こえてきた。風のように全体が揺れているわけじゃない。そこからだけ音がするということは……

 まったく、俺より先に気づくとは、女豹のヤツなかなかやるじゃねぇか。

 

「よし、じゃあ計画を伝える。女豹、お前は……」

「断る」

「あん!? んだとゴラァ!」

「わたしは肉を食わん。だから手伝う理由がない。ましてやキサマのためなら、手伝いたくもない」


 草むらの中で集まり、俺の入念な計画を教えてやろうとしたら、女豹のヤツ腕を組んでソッポを向いてしまった。これだからビッチは。


「でもフォンさん。早くしないと日が消えちゃいますよ?」

「む。それもそうか……しかたない。キサマに手を貸すのは嫌だが、メリーのためだ。協力してやる」

「完全に上からだなこのクソビッチ……。まぁいい、お前にできることなんて鳥を追い込むことぐらいだしな。難しいことは考えなくていいから、とにかくその辺走りまわって鳥を飛び立たせてろ」

「……わかった」


 そう言い、女豹は即座に茂みから飛び出して行った。


「ガイアッ!!」


 俺を踏み台にして。


「あ~鼻がいてぇ。あのクソビッチめ!」


 顔面の痛みをこらえ、草の隙間から女豹を狙って弓を構えた。


「お? ……へ~、すげぇもんだ」


 生い茂った草の中を、女豹は画用紙の端から端を塗りつぶすように跳び回っていた。しかも、あれだけ目立つ赤女あかおんななのに、見えるのは方向転換する時の一瞬だけ。とんでもねぇ速さである。

 これでは間違ってビキニ(ひも)()ぬくことは難しいだろう。


「仕方ない。ポロリ作戦は諦めよう」


 と、舌打ちをしたら。

 (にわとり)サイズの派手な色をした鳥が二羽、飛び出してきた。


「ヒジリ様! あそこ!」

「あ? なんだメリー?」

「!? こっちじゃないです! 前を向いてください!」

「前? 前がどうかしたのか?」

「いま鳥が二羽……、あれ? ……いなくなってる? そんなはずは……」

「ああ、なんだ鳥のことか。大丈夫だメリー、気にすんな」

「え?」

「ハァ、ハァ、ハァ…………おいキサマ!」


 斜め上から声がした。


「あ? よう女豹。そうしてるとほんとに豹みてぇだな」


 声の主は太い木の枝の上でしゃがみ、息を切らしていた。


「鳥は、どうした? まさか、わたしに走らせておいて、取り逃がしたのか?」

「バカ言え。その辺に転がってるに決まってんだろ」

「なに?」「え?」


     卍

 

「このバカッ!」

「バカって言うほうがバカなんです~!」

「あの……ヒジリ様もフォンさんも、もうケンカしないでください……」

「チッ。(しゃく)だが、メリーの頼みなら仕方ない」


 何があったか結論から言おう。

 捕らえた獲物を探し、メチャクチャ時間を無駄にしたのだ!

 今はなんとか見つけ出した二つの鳥肉を手に、帰路(きろ)に着いている状態だ。んな一悶着もんちゃくがあったからだろう、話題は弓矢についてのことばかりだった。


「……それにしても、ヒジリ様はいつ矢をってたんですか? あたし、ぜんぜん分からなかったです」

「あ? んなもん、見えた瞬間に決まってんだろ?」

「え? 二羽とも、ですか?」

「おう。こうして弓を構える時はな、もう一本薬指と小指にも挟んでおくんだよ。んで、一本目をったらすぐに二本目を(つが)えて射る。そうすりゃ二匹同時に射ったように見えるってわけだ」


 メリーは(から)の弓で実演する俺を、キラキラした瞳で見つめてくる。

 言葉にしなくとも、何を言いたいのか手に取るように分かってしまう。こんなもん、別にすごくもねぇのに。


「ふん。やはりキサマのユミヤとやらは下らないな。わたしならもっと簡単に鳥を捕まえられるぞ? それに、獲った獲物を見失って時間を無駄にするようなヘマもしないしな」


 微笑(びしょう)を浮かべ、小バカにするようなことを言ってくるバカ。もちろん女豹たんのことである。


「はぁ……女豹、その件にはもう()れんな」

「なぜだ? ははーん。さてはキサマ、悔しいんだな?」


 やれやれ、これだからビッチは。普段俺にボロクソ言われてるからだろう、ここぞとばかりに嫌味(いやみ)を言ってきやる。


「はいはい、その通りですよ。俺が獲物を見失っちまったばかりに時間を取らせてすいやせんでしたねぇ」


 女豹の足が止まる。 


「……なんだソレは、ソレで謝っているつもりか?」

「んだよ? 謝っただろ? こっちは(かも)だか(きじ)だか分かんねーけど重い荷物持って歩いてんだ。んなつまんねーことでいちいち立ち止まってんじゃねぇよ」

「……あの、フォンさん、やめてください」

「重いだと? その程度でか? はん! キサマは礼儀知らずなだけでなく、非力なんだな!」

「……やめて……ください」

「うるせぇなぁ。お前なんて力しかねぇじゃねぇかよ。……あっ! おい女豹。もうやめろ」

「は? なぜだ? そうか。さてはキサマ、事実だから言うのをやめてほしいだな? まったく、情けないヤツだ。嘘はつくし他人に平気で迷惑を掛ける。その上弱いだなん」「やめてください!!」


 女豹の言葉を遮るように、メリーが大声を上げた。


「!? メ、メリー?」


 大慌てでメリーの方を見る女豹だったが、時既に遅く。メリーの瞳からは、大粒の涙がポロポロ零れていた。

 あーあ。だからやめろって言ったのに。

 女豹は訳が分からないといった感じで狼狽える。情けないのはどっちだバーカ。 


「……違うんです。ヒジリ様は、悪くないんですぅ……。弓矢を射つ時、あたしが声をかけたから……後ろを振り向いちゃっただけなんですぅ……。それで、ヒジリ様は鳥の行方を見失ったんです……。わ、悪いのは、あたしなのに……ヒジリ様は、あたしをかばってくれたんですぅ……」


 子どものよう零れる涙を拭う子羊ちゃん。庇護欲を誘うその姿を、どうして放っておけようか? 


「へ……? ま、待ってくれメリー、だってコイツは、そんなこと一言も……」


 気が付けば俺は、メリーの頭を抱き締め、己の(たくま)しい胸板に押し当てていた。


「いいんだメリー。さっきも言ったが、お前は何も悪くない。悪いのはお前の可愛い声に振り向いちまった俺なんだから。だからさっきも言ったけどよ、女豹が何を言おうと気にすんなよ。な?」

「……はい」

 

 メリーの頭を撫でながら女豹をチラ見してみた。すると、さっきまで俺がいた場所を指差したまま、硬直していた。メリーを泣かせたことが余程ショックだったのだろう。意識を失ってしまったようだ。

 まったく、だから話題に触れんなって言ってやってたのに、バカなビッチだ。まぁ俺としては、こうして抱きしめる口実が出来て結果オーライだから良いけどね! ありがとよ女豹! 


「さてと。メリー、そろそろ泣き止んでくれ。泣いてるお前も可愛いんだからよ。このままじゃ、襲いたくなっちまうだろ?」

「……すみません。でも、あの……もう少しだけ、このままでいてもいいですか?」


 あ、ヤバイ。涙目うるうる攻撃はダメだよ! 俺のSっ()がビンビンに反応してビンビンになっちゃうから! クソッ! 女豹さえいなければ有無を言わさず襲ってるのに! 

 ……とりあえずキスぐらいはいいよね。 

 ちらっと、女豹のヤツを確認する。

 うん! まだ硬直してる! キスぐらいなら余裕だな。よし! 


「分かった。特別だぞ? でも、泣き止まない子羊(こひつじ)ちゃんには、罰が必要だよな?」

「えっ? ……アッ、……ファッ」 


 重なり合う(くちびる)に、メリーの口からは自然と、やる気の出る声が漏れだす。

 メリーの唇は柔らかく、フルーツの香りがした。抵抗しないし、そのまま舌をねじりこもうとしたら、


「「あ」」


 野外なのに、まるでメリーが「恥ずかしいです……。お願いですから、明かりを消してください……」って太陽にお願いしたみたいに、辺りが一瞬で真っ暗になった。 


次回予告

今日のセフレンズは……女豹です。

暴力女か、やる気しねぇな。見た目はモデル体型で美人だから文句ねぇんだけどなぁ、何かあるとすぐ暴力を振るうからなぁ。いい加減毛皮の赤ビキニを剥ぎ取ってやろうかな。それとも、下の超ショートパンツにしようか? よし決めた! 両方剥ぎ取ろう! んで、二度と逆らえないよう俺の肉 


次回「暗闇チャンス」


うん! これでいこう! これで女豹も俺のもんだ! ガハハハハハ!

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