第一射 バカが来る
「もう、食べられないよ……グヘヘ。……ええ? しょうがないなぁ……………………………………ンガッ!?」
肌を突き刺す太陽光が、俺を強制的に叩き起こしてきた。
「……あー? どこだ、ココ?」
目の前には青一色の景色が広がっていた。
「……海、だな」
どこまでも続いていそうな青空と、その青空を鏡のように写し出す水面。開放感がハンパなかった。
「ふむ……」
視線を落とすと、今度は白が待っていた。
砂浜だ。とてもサラサラしていて、溶けない砂糖のようだ。
「人工物か? いや、まさかな……」
しかしこの砂浜、足跡の一つもない。つまり……
「見覚えのない海、そして無人のビーチとくりゃあ」
振り返ってみた。期待に応えるかのように、南国っぽい木がたくさん生えていた。
……無人島、確定!
「いや待て待て。……っていうか俺、なんでこんなとこで寝てんだっけ?」
昨日の記憶を遡ってみたが、どういうことかそれっぽい記憶が二つあった。
たぶん、こっちが本当の記憶だよな。でもそうすっと、なんでこんな場所にいるのか辻褄が合わないんだよなぁ。
「……チッ」
寝起きで上手く働かない頭を掻きつつ、再度周囲を確認した。
「おーい、誰かいるかー?」
返事がない、ただの無人島のようだ。
「墜落した飛行機とかもねぇし、マジでココがどこかも分かんねぇ。どうしたもんかな…………………………にしてもココ、いいとこだな」
陽射しはちとキツイが、風は穏やかで気持ちが良い。波の音も優しくリラックスさせてくるもんだから、
「…………よし」
二度寝することにした。
卍
「起きろ」
「フグオッ!?」
背中に衝撃が走った!
「ア……! アアッ…………!」
鞭で叩かれたような激痛だった。
歯を食いしばりなんとか激痛に耐えている俺を、危害を加えたであろうソイツは、偉そうに見下ろしてくる。
「テッ、テメェ……何しやがった……!」
陽光が邪魔でシルエットぐらいしか分からなかって。陽光を利用するとは、この野郎手練れか!? なんて思ったが、
……なんだコイツ?
何もしてこなかった。こんなことをしておいて敵じゃねぇってことか?
「ふむ……よし、敵じゃねぇなら特別に許してやる。だから消えろ。もしくは用があるならあと五分寝かせろ」
「は? あ! おい寝るな! さっさと起きろ!!」
腕を枕にした途端再び背中に衝撃。
「イッデェ!!」
同じ場所はダメだって!! 痛くて動けねぇよ……
「や、やめろ! あと十分したら起きるから蹴るのはやめろ!!」
「じゅっ!? 増やすなっ!! いや、そんなことよりもキサマ、ここがどこか分かって言っているのか!?」
「なん……だと……!?」
一つ、重要なことが分かった。
コイツが――女であるということだ。
物言いはちとキツいが、澄んだいい声の持ち主だった。……ついでだし、子守り唄代わりにして寝よう。
「そんなもんわかってる。わかってるから……もう少し、寝かせてくれ」
「ふざけるな!」
どうやらこの女、俺を寝かせたくないらしい。まったく、男だったらぶん殴っているところだ。けどまぁ女なら仕方ない、女なら俺ほどのイケメンを寝かしときたくなんてないだろうからな。
「たくっしょうがねぇなぁ……そこまで言うなら起きてやるよ」
いい声だし、コイツの顔に期待しつつ起き上がると、
「ッッ!? 起きるなアァァ!!」
「ぶべらっ!!」
脇腹に掌底が炸裂!!
先程の痛みの比ではない強烈な痛みが脇腹を襲う! バタバタ寝転がりまくって痛みを逃がし、なんとか女を睨んだ。
「テ、テメェ……! 寝起きの人間になんつーこと……お?」
転がりまくったからだろう、暴力女の姿が、見えるようになっていた。
「へぇー……」
なかなかのもんだった。つい痛みを忘れ、そのまま観察してしまう程に。
「コスプレって、こんな海外でも流行ってたんだな……」
女の正体は、レベルの高いレイヤーだった。
「キサマ、なにをじろじろ見ている?」
「黙ってろ。今お前を評価中なんだからよ」
「は?」
赤く猫っぽいケモミミ。グッド! 斑模様が混じっているからおそらく豹を演出しているのだろう。アームカバーやニーハイも同じく赤い豹柄で揃えられている。いいね! 獣人のコスプレをしていることが素人の俺にも一発で分かった。
「じゃあメインにいってみようか」
「め、めいん?」
コイツの一番の特徴は、腰まで届く朝焼けのような赤い髪である。
しかし! そんな目立つ赤髪にも負けないくらい素晴らしいものがコイツにはある! ズバリ顔だ!
Mじゃない俺ですらグッとくるキリリ美人! 腹筋も割れてるし、ドMだったら今すぐにでも○玉を差し出していることだろう。
「いい仕事してんな、お前」
「さっきからなんなんだキサマは?」
腹筋割れは人によってはマイナスポイントかもしれない。でも考えてみて欲しい、その分プロポーションは抜群なんだよ!? この人乳だってドーンなんだよ!? ならプラスポイントでしょお客さん!?
そして重要なポイント……それはこのレイヤーが、ビキニ姿であることだ!!
美人、ビキニ、きょぬー。寝転がってる俺の角度からだと、いろいろとヤバイんよ!!
(下から見上げる乳はたまりまへんなぁ……グヘヘ。…………ってそうじゃない!!)
「評価終わり! とりあえず九九点! そりよりもテメェ! 人様をいきなり襲うたぁどういうつもりだコラァ!?」
姿勢は変えず、伸びた鼻の下だけを戻して文句を言ってみた。
「いまさらなんだ……。だいたいさっきのは……キ、キサマがいけないんだ! わたしに……そっ、そんな下品なものを見せようとするからっ!!」
「下品なもの?」
恥ずかしそうに顔を逸らすレイヤー。そういやさっきからコイツ、まともに俺を見てねぇな。
試しに、レイヤーが最後にチラ見した視線をたどってみた。
ああ。そういや全裸だった。てへぺろ。
卍
レイヤーは持っていた縄で俺を簀巻きにした。
もちろん俺も抵抗したけど、レイヤーの力はかなり強く、レイプされるんじゃないかと期待……じゃなかった。怖くなったから諦めたんだ。
「俺はMじゃねぇ! 縄をもっと緩めろ!」と訴えても、緩めてはくれなかった。レイヤーはやっぱりドSだったよ。良かったなドM達。
文字通り手も足も出せない状態になった俺を、レイヤーは犯すこともなく、ヒョイと持ち上げ肩に担いで歩きだした。
(この女!? パーフェクトボディの持ち主である俺を片手で!?)
力での抵抗は無意味。なので、言葉巧みに説得することにした。だが、レイヤーはずっとガン無視。しまいには「うるさい」と布で口を塞がれてしまうのでした。
こうしてスタートした新番組、レイヤーに担がれて巡るミノムシ旅行! は、気づけば野を越え森を越え、風通しの良さそうな貧乏集落へと辿り着いた。
「ムゴ? ……ムゴゴッ!?」
なんということでしょう。集落にいたのは、全員レイヤーだったのです。自然と鼻息が荒くなってしまいます。
村人一人目、ノーマルな犬ミミちゃん。
村人二人目、残念なウサミミ。
村人三人目、たれ耳でボインな羊角様。
村人よに…………ノーコメント。でかいが馬面。不合格。
他にも数名、全員がなんらかのケモコスプレをしていた。
元気百倍! ○イ○ンマン! ヤッベェ、テンション上がるわ~!
レイヤー達のほとんどが歳の近そうな美女ばかり! そりゃあテンション上がるってもんよ! こんな状態じゃなけりゃ、全員にワンタッチしてあげたのに……。無論、馬面は除く!
そして、彼女達が素晴らしい何よりの理由は! ほとんどが! 水着姿のような薄着でいることだ!!
(あれ? ここって天国なのかなぁ?)
なーんて浮かれてたら、犬ミミを着けたショートヘアがテッテッテッテッと近づいてきた。
「フォン? ソイツはなんだぁ」
犬ケモミミはCカップとみた。茶色い毛皮ビキニがよく似合っている。うん! 合格! あとで揉んであげよう!
俺を降ろすことなく、レイヤーは素っ気なく答えた。
……と言っても、ココの連中は全員がレイヤーである。これでは誰が誰だか分かりづらい。豹柄のコイツは俺のパーフェクトボディを見て興奮していたから……ビッチと呼ぼう!
ビッチが答えた。
「コイツか? 不審者だ」
的確な表現だなぁ。
「モガーーーーーーー!!」
だが事実は違う! 俺だって好きでコスプレビーチで全裸待機していたわけじゃない! キチンとした情事……間違った! 事情がある! はず!!
「フォン、ソイツ暴れてるけど平気かぁ?」
「問題ない」
「ムゴォ!」
ミノムシと化した俺が全力でもがいても、ビッチの片手には勝てなかったよ……
というわけで戦意喪失したので、反論は諦めました。
卍
犬ミミと別れ、他のレイヤーたちに見つめられながら、集落の一番奥にある大きなあばら屋へと運ばれてきた。
「オオババ様、失礼します」
入り口に掛けてある暖簾をめくり、中に入るビッチ。どことなく、仕草が丁寧になった気がした。
中に入るとビッチの発言通り、でっけぇばぁさんが木製ベッドで横になっていた。
「……おや?」
ばぁさんが重いんだろう。下敷きになっているベッドは撓み、今にも壊れそうだ。
「フォンかい? 今日は早かったね。おや、その子は?」
え? ノロノロ起き上がったばぁさんはなんと! 上半身だけで俺よりデカかった!
えーー。でかいとは思ってたけど、これだと立ったら余裕で二メートル越えてるじゃん……なにこのばぁさん?
「オオババ様!」
俺を担いだまま、ビッチが慌てて駆け出す。
「寝ていてください! 今日訪ねて来た理由に起き上がるほどの事なんてないんですから! 寝たままで充分ですから!」
ヒドイ言いようだ。
ベッドに座るばぁさんの前でオロオロするだけのクソビッチのくせに。つーか俺を降ろせ!
しかしなんだ、ばぁさんまでコスプレしてるなんて。象みたいにでかい耳なんかつけて恥ずかしくねぇの?
「大丈夫だよフォン。今日は調子がいいから……それより」
ビッチを宥めながらも、ばぁさんの視線は俺に釘付けだった。
やがて視線に気づいたビッチが、俺を貢ぎ物のようにそっと床に置いた。
捧げられてもなぁ……、熟女は趣味じゃないんだけどなぁ。
「この子はいったい、どうしたんだい?」
「砂浜にいた不審者です。船もなくどうやって島に来たのかは分かりませんが……。とにかく怪しい奴でしたので、オオババ様のご意見を窺いたく連れて参りました」
さっきから無礼だなこのクソビッチ。
にしてもツッコミを入れられないのがこんなに辛いとは思わなかった。今後は喋れなくなってもツッコミを入れられる手段を考えとこう。
取り合えず心の中でツッコミをいれながら、二人のやり取りをボーっと眺めていた。そしたら最高のツッコミが思い浮かんだのに、今さらながら知ってしまった衝撃の事実に、最高のツッコミが記憶からふっ飛んで行ってしまった。
えっ!? ホワーイ? どゆことこれ?
ツッコミも飛ぶというもの。二人のケモミミが、目の前で動いているのだから!
ビッチのネコミミもばぁさんの象耳も、まるで血が通っているかのように元気に動いている。しかも、よく見りゃ顔の横に人の耳が見あたらない。
ゴクリ。まさか、本物?
……ってことは、レイヤー達は全員、『本物の獣人』なん?
ビックリしすぎて思わず関西弁が出ちゃいました。関係ないのにね。
本物、か。……あっ! そういやそうだった!
本物の獣人。そう過程したことがきっかけで、俺はようやく本当の記憶を思い出した。
ん? 待てよ。となると……豪邸で美女百人と過ごしたセッ○スライフのほうが夢だったのか!? クソッ! まだ半分以上とヤってないのに!
やっぱりもっと寝てれば良かったと本気で後悔しました。
冗談はさておき、記憶を思い出したことで次に何をするべきかの最適解が、どんどん湧き出てきた。
とりあえず、まずはイモムシ状態から抜け出そう!
「モガ、モガガンガ、モンガー!!」
急に喋りだした俺に、二人は狙った通り会話を止めこちらを凝視してきた。
「何か言いたいことでもあるのか?」と、拘束を解いてくれることを期待していたのだが、
「チッ、うるさいヤツめ……」
「モッ!?」
それだけだった。
こいつはビッチじゃなく鬼なのだろうか?
「何か言いたいことがあるんじゃないのかい? フォン、布を取っておやりよ」
でっかいばぁさん略してDB! ナイスだぜ!
「いえ。お言葉ですがオオババ様、コイツは口を開けばでまかせしか言いません。このままでよろしいかと」
「モーーーーーーーーーッ!?」
ビッチはやっぱり鬼だった。
もがきにもがき、なんとか口に巻かれた布は解いてもらえた。
「いいか。オカシイことを口走ったらすぐに喋れなくするからな」
発言がいちいちむかつく女である。簀巻きにされていなければいますぐにでもオ○してやったものを。
「返事はどうした?」
こんなヤツの言いなりになるのは心底嫌なのだが、俺は目的の為なら手段を選ばない漢!
「イエスビッチ!!」
「……意味はわからないが従っているようだからまぁいい」
自由を手にいれるため、そしてビッチを○カすため、俺は従順なふりをする。
「……あとで覚えてろよクソビッチ……」
「何か言ったか?」
「いえ! ようやく喋れるようになったんで一人言を言ってみただけです!」
「そうか? なにか文句を言っていたように聞こえたが……」
「まさか! さ、んなことより本題に入ろうぜ! でっかいばぁさん略してDB! 俺の話を聞いてくれ!」
卍
俺はDBにでも理解出来るよう、これまでの出来事を噛み砕いて説明してやった。
「……ふざけてるわけじゃ、ないんだね?」
「おいおいDB。俺だって大事な場面じゃふざけたりしねぇって」
そういう時はふざけるのではなく嘘をつくものである。ま、今回はちゃーんと真実を話したけどね。
DBはまた小さく唸り、三回目となる同じ質問をしてきた。
「最後にもう一度確認するけど、ボウヤは違う世界からきた人間。そういうことで間違いないんだね?」
「だからそうだって言ってんだろ」
笑顔で対応こそしてはいるが、本当は「何回も同じ質問してんじゃねぇ!」と怒鳴りたかった。
「違う世界ねぇ……」
まだ言うのかよ! と、さすがにイライラしてきた時だ。
「オオババ様!」
これまで俺とDBとのやり取りを?壁に寄りかかり傍観するだけだったビッチが、生理でもきたみたいな不機嫌さで急に会話に割り込んできた。
「いつまでこんなヤツの戯れ言に付き合っているのですか!? 違う世界から来たなどと嘘に決まっています! コイツは嘘つき、それでもう十分です! そして嘘をつく以上、コイツには何かを疚しいことがあるのです! なら、面倒事になる前にさっさと処刑してしまいましょう!」
は? 処刑?
「フォン。……決めつけるのは良くないよ。それに、この子の言っていることは嘘みたいに聞こえるけれど、嘘を言ってはいないようなんだ」
「なっ!? 正気ですかオオババ様っ! こんなヤツの戯れ言を信じるというのですか!?」
「んーー、信じたわけじゃないさ」
「なら!」
「だからこそ、さ。いいかいフォン、嘘だと決めつけるのは簡単なことだ。でもね、だからこそ簡単に決めつけちゃいけないんだよ。ましてや、今回は命が関わっている。この子が本当に嘘をついているかどうかが分かるまで、アタシは処刑だなんて、口が裂けても言えやしないよ」
へぇ。物騒なことを言い出すアホがいる村のわりには、しっかりとしたリーダーがいたもんだ。これならすぐに自由になれそうだな。
「クッ! おいキサマ!」
「!? フォン! おやめ!」
「あ? ……ンべッ!」
喉元をがっつり掴まれ持ち上げられた! 食い込んでくる五本の指が、脳へと向かう血流を阻害している!
「正直に言え! キサマはなんだ!? なんのために島に来た!」
さらにビッチは、空いてるもう片方の手の爪を剥き出しにして、俺の両目に突き付けてきた。瞳孔もコレでもかっていうくらい開いてるし、まさに猫科だな。獣人というのものを肌で実感させられる。
「どうした? なぜ黙っている」
「……く、苦しくてしゃべれねぇんだよこのバカ……! 正直に答えてやっから、手を離せアホ女豹……!!」
舌打ちをもらうと、手の力が緩められていき、脳へと血流が流れて行くのを感じた。直後、完全に手を離され、背中を床に強打した。
「グベッ!? ……ゴホッ! ゲホッ!」
ビッチめ、急に手を離すなよムカツクなぁ。
けど、とっさに出た女豹という悪口は良かった。性格の悪いコイツにはぴったりだ。よし! お前は今日からビッチ女豹だ!
「ほら、離してやったぞ。さっさと本当のことを言え」
「ああ、わかっ……おお、ビューリホー……」
咳が止まった俺の目の前に、急なサプライズが舞い降りていた!
え? 何が起きたかって? ふふ、女豹様がヤンキー座りをしてくださったのです!
分かるだろうか? 女豹様はビキニ。そしてヤンキー座り。そう! 頑張れば舌が届きそうな位置に、食い込んだビキニパンツがあるのです!
「絶景です。なんとか舐めれねぇかなぁ……って、アウチッ!」
俺の赤ちゃんほっぺから、じわりとブラッドが滲み出てきた。
「キサマ……いい加減にしろよ? 何を舌など出している?」
「わかった! ちゃんと言う! ちゃんと言うから顔はやめろ!」
この顔面に傷が付くのは世界中の女を悲しませることと同義。本当だったら傷付けた奴なんざ、殺すか秘技、禁止姦罪を喰らわせなければならないのだが……今は無理。だって女豹に殺されるちゃうもん。この件は自由になったら身体で払わせるとして、今は真面目にやろう。
「……つーかよ、本当のことを言えもクソもねぇだろ? お前自身がさっきから俺の言ってること証明してんだからよ?」
「? 何を言っている?」
あ! コイツ本当に分かってねぇんだ。目を白黒させちゃってまあ、あったま悪い(ww)
「分かんねぇか。なら特別に教えてやる。なぁ女豹? お前、俺のことばぁさんに説明した時なんつった? 自分ではっきり言ったよな「船もなくどうやって島に来たのか分かりません」ってよぉ」
「言ったが……それがどうした?」
「それだけじゃねえ。俺と会った時のことをよーく思い出せ」
「? …………ッ!?」
うん。真っ赤になったから何を思い出したか簡単にわかっちゃったよね。このエロビッチが! そこじゃねえよ!
「俺の美ボディを思い出してんじゃねぇっつーの。そこじゃなくて、砂浜を思い出せっつってんだよ」
「砂浜?」
「思い出したか? ならそこに、一つでも足跡はあったか?」
「…………あ」
コイツ、さっきから全部表情に出てんな。……ポーカーとかぜってぇ無理だな。
「どうだ? 足跡なんざ無かっただろ? で、なら俺はどうやって島に来たんだ? 足跡を消したのか? 全裸で来た人間が道具も使わずにか? お前にそんなことができんのか? どうだ? お? ……な、言った通りだろ。お前が俺のことを証明してるじゃねぇか。で、この状況になってもお前はまだ俺が嘘をついてるなんて言い続けんのか?」
「…………クッ!」
悔しそうに拳を震わせだんまりを決め込んだ女豹ちゃん。気分がいいから放置しとこうと思ったら、まさかのDBが止めを刺してしまった。
「どうやら、フォンの負けのようだね」
その一言を最後に、女豹は外へ飛び出して行った。
卍
「オッ……オェェェ……」
口からキラキラしたものが流れ出す。
女豹が去り際、腹に一発ぶちかましていったせいだ。
「大丈夫かい? ええっと……」
「ん? あー、そういや自己紹介がまだだったな。俺の名は聖。アンタらには珍しい響きだろうから、好きに呼んでくれていい」
「ヒジリ……だね。覚えておくよ。それじゃあヒジリ、アンタのことで一つ、確認しておきたいことがあるんだけど。いいかい?」
「あ? んだよ、まだ聞きたいことがあったのか? さっき十分教えたじゃねぇか」
「そうだね。アンタの世界とアンタのこれまでのことは、ね」
つまり、これからのことを知りたいってわけか。ったく、このばぁさん喰えねぇな……。あ! もちろんそういう意味では絶っ対喰わないよ! 熟女は趣味じゃないから!
しかし、さっきは俺が嘘をついてねぇってどうやって見抜いたんだろうな。象の能力か何かなのか? ま、どっちにしろ変に隠しごとはするべきじゃねぇな。
「……いいぜDB、何が聞きたい?」
ずっと座りっぱなしだったDBが立ち上がる。……マジでデカイ。踏まれたら死ねるなコレ……
DBはゆっくり膝を折り、俺を縛る縄へと手を伸ばした。
「アタシが聞きたいことはね、アンタがどうして自分のいた世界を捨ててまでこの世界に来たのか? ってことさ」
でっかい指でDBは縄の結び目をいじっている。……解ける気配はまるでない。
「あー、そこ聞いちゃう?」
「ん? 何か言えない理由でもあるのかい?」
「んなわけねぇだろ……」
「なら早く教えとくれ」
この圧……実はばぁさん滅茶苦茶つえぇんじゃね? こりゃあ嘘ついたらマジで殺されるな。でもなぁ、本当のこと言っても伝わるわけねぇんだよなぁ。どうすっかなぁ…………そうだ!
「わかった。一度しか言わねぇからちゃんと聞いとけよDB」
「大丈夫。アタシは耳がいいからね」
「そうか、なら言わせてもらおう。この世界に来た理由は、『ハーレム王国を築く』ためだ!!」
俺は美面でそう言った。
「……そ、そうかい」
DBは手を止め、そのままのそのそとベッドに戻っていった。
俺の縄はまだ、解かれてはいない。
次回予告
セッ○ス! これはおはようから今晩どう? まで通じる万国共通の万能な挨拶だ。みんなも俺の国に来たらどんどん使ってくれよな! ところで、タイトルのバカって誰のことだ? ま、女豹のことに決まってるか! それじゃあみんな、お別れの挨拶だ。せーの、セッ
次回『バカが居る』
あれ? なんか邪魔されたような……