迷子と正拳突き
八話目です!
脱獄を果たしたカケルたち一行。
どこへ逃げていくのか!?
脱獄した俺たち一行は、道の整備がされていない森へと逃げ込んでいた。
「ホントにこっちで大丈夫なんですか?」
「たぶん大丈夫じゃ」
「たぶんかよ...」
ここら辺の土地に関しては、エルフレッドの方が遥かに詳しいはずであるので素直に従うことにした。ミラは文句言う素振りも見せずにエルフレッドに付いていく。
「あ、そう言えばまだミラ...様に自己紹介してなかったな。三谷 駆と申します、気軽にカケルって呼んでください」
「フンッ!名乗るのが遅いのよ!それにミラ様なんて呼ばなくていいわ、あなたの方が年上だろうし...ミ、ミラでいいわ!」
「お、おう、よろしく頼むわ」
「こんな態度じゃが、ミラは若い男と話すのが―。」
「よ、余計なこと言わなくていいのよ!」
そう言いながら顔を手で覆っていた。暗くて分からないがきっと赤くなってるのだろう。
そんなやり取りをしながら森の奥へと進んでいった。
□
森の奥に突然線路のようなものが現れ、錆びたトロッコがいたるところで横倒しになっていた。過去に鉱山かなにかだったのか、至るところに様々な残骸が残っている。
「こっちに昔の坑道があるのじゃ。そこを使えば追手を撒けるじゃろう」
「坑道の中で息を潜めるってこと!?むしろ行き止まりなんだから立てこもりと同じじゃね!?」
「そう言うと思っておったよ。じゃが安心せい、昔ミラと一緒に坑道を探検した時、奥に穴みたいのを発見してのう、王国の外に繋がっておったのじゃ」
「え!?秘密の裏口的な?」
「まあ、指が通る位の穴じゃがな」
「小さ!てっきり、ギリギリ通れるとかかと思ったよ!」
「わしが壁を割るから平気じゃ」
「なにその脳筋発想!割るからって板チョコじゃないんだから...」
と言いつつ、先ほどの監獄での一件を思い出すと容易に想像がついてしまった。とりあえず、ここはエルフレッドに任せるしかないようだ。こうして坑道へと進んでいった。
坑道に入る直前に、エルフレッドがどこからかカバンを取り出し、光る石を手に持った。どこかで見覚えがあると思ったら、城や監獄もこれに似た石が光源となっていた。
「城でも見たけど、この石って何なの?」
「これは魔光石と言って、魔石の一種じゃ。滅多なことがない限りずっと光っておるから明かりとして重宝するのじゃ」
「なるほど...滅多なことでは光が消えない石ね...」
(城に置いてあった魔光石は相当古いものだったのか?)
城での出来事を思い出しながら俺は首をかしげた。
坑道は思った以上に長く、整備されていないため足場が非常に悪かった。たまにコウモリだろう生物が飛んでくるもんだから、俺はビビりまくりだった。20分ほどだろうか、歩いた先でエルフレッドが立ち止まった。
「道に迷ったのじゃ...」
「はい!?割とスイスイ進んでたじゃん!?分かれ道で迷う素振りなかったのに!?」
「穴を見つけたのもたまたまじゃったし、今回もたまたま辿り着くかと思ってたのじゃ」
「どんな理論だよ!?ダメだ...一番道案内させたらいけない人だ...」
「すまんのう」
「じゃあわたしが案内してあげるわ!」
「え?ミラは道がわかるのか?」
「当たり前じゃない!エルフレッドと一緒に来たことあるもの」
「まさか、道間違えてるの気づいてたの?」
「もちろんよ!」
「...」
(もっと先に言ってよ!)
□
ミラの案内は的確だったようで、すぐに目的の穴のところまでやって来た。言っていた通り、人が到底通れないような小さな穴だった。
「よし、わしの出番じゃな」
すると、エルフレッドは空手のような構えをとり、セイッと声を発しながら拳を突き出した。
ドカーーーンッ
そんな馬鹿でかい音を立てながら目の前に人が通れるほどの大穴が出現した。いろいろとツッコミ要素が満載で何を言えばいいのか分からない状況だ。
「エ、エルフレッドさん?てっきり杖で穴開けるのかと思ってたよ...」
「ここは狭いからのう、振りかぶれんじゃろ。だから拳じゃ」
「謎理論!!拳ってそんな万能なの!?」
「いずれお主もできるようになるじゃろ」
「無理でしょ...」
まったくもって共感出来ずにいた。ちなみにミラはというと、さすがはエルフレッドみたいな自慢げの顔をしていた。なぜ今の現象を見て普通でいられるのやら...。
そう思いつつ、大穴から俺たち三人は出ていった。
□
穴の外は木々の生い茂る森になっていた。
「この森って獣とか出ないですか?」
「安心せい、獣はほとんど出んよ。ただ、魔獣がうろうろしてるがな」
「そりゃ安心だ...つてむしろ心配だよ!何、魔獣って!?」
「獣の強化版といったところじゃよ。昔からもいたようじゃが100年くらい前に大量に増えてのう、冒険者の依頼の多くがこの魔獣狩りじゃよ」
「そ、そうなのね...大丈夫かな...」
「心配せんでもわしとミラでなんとかするから平気じゃ。じゃが、群れに遭遇したらわしとミラ以外は全滅かもじゃが」
「全滅ね...って死んでるの俺だけじゃん!?」
そんなやり取りをしながら森を進んでいく。森を抜けたところに街道があるようで、その街道を進むとシルクベスタという国があるそうだ。シルクベスタは、絹などの織物が有名な国らしい。俺はシルクベスタに着いたら早々に着替えを買うことを決心した。
□
森の中は妙に静かだった。虫の鳴き声すら聞こえない。何とも不気味だ。
そんなことお構いなしと言ったようにエルフレッドとミラは、魔光石の明かりを頼りにズカズカと突き進んでいく。エルフレッドが先頭で大丈夫か心配だったのでミラが先頭の方が良かったが、そもそもミラは国外に出たことがないとのことらしい。
「止まるのじゃ...」
「「???」」
唐突にエルフレッドが止まるよう合図してきた。
視力の悪い目を目一杯こらしてみると、何やら黒い塊が小さく上下に動いていた。
「魔獣じゃ。こやつはホースなんとかじゃ...」
「ホースなんとかね...どんな魔獣なの?」
「足が速い...」
「強いとかそういうのじゃないのね」
「強さは...拳で一発じゃよ」
「...」
(聞いた相手が悪かったか...)
「とりあえず無理に戦う必要もないじゃろうし、ここは迂回していくか」
「そうだな」
俺たち三人は回り込むために後戻りを始めようとした。
バキッ
「あ...」
エルフレッドの間抜けな声とともに、そこそこ太い枝が折れる音が森の中に響き渡った。
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