監獄と脱獄とお嬢様
7話目です!
リービッヒとともに詰所を出たカケル。
向かった先はなんと!?
月明かりもなく、一定間隔で配置された薄暗い明かりを頼りに俺とリービッヒはある場所に向かって進んでいる。比較的都会に住んでいたカケルにとっては、ひどく暗いと感じざるを得ない夜である。もし、リービッヒがいなかったらきっとこんな夜道は歩けなかっただろう。
そんな中、リービッヒは昼間のようにスイスイと進んでいくため、ついて行くのに一苦労である。
「夜道を歩くのは苦手なようだね?貴殿のような歳であれば、慣れているものなのだが」
「それは、夜も明るい国で育ったからですかね」
「そのような国は聞いたことがないが...世界は広いという訳か」
「まあ、きっとそんな感じですよ...」
きっと、照明の話をしても理解してもらえないと思い適当な答えになってしまった。
「ちなみに今ってどこに向かってるんですか?」
「そういえば伝えてなかったね、バスタの監獄だよ」
「え!?えーー!?か、監獄!?留置所とかじゃなくて監獄!?」
「まあ、監獄と言ってもこぢんまりとした場所だけどね」
「いやいや、そんなこぢんまりとした店だよみたいに言われても...」
俺は行き先を聞いて絶望に打ちひしがれるた。
□
暗い夜道を歩いていると、どうやら目的地に近づいていると伝えられた。監獄に近づくにつれて、建物が平屋ばっかりになっていたのが少し気になりはしたが、無事にバスタの監獄に到着した。
廃墟のような佇まいであり、古びた診療所を思い起こす不気味な建物であった。入口には、二人の兵士のような格好の人が立っており、リービッヒが何かを伝えると、すぐに建物の中へと案内された。
(さすがに、ここにいるのはお飾りの衛兵ではないだろうな...)
と、俺は心の中で思うのであった。
リービッヒは建物内に入ると、すぐに奥へと進んでいった。そして、小太りの看守らしき人物と何やら話をしており、時折看守らしき人物が声を荒らげていた。何を話していたかまでは分からなかったが、一通り話がまとまったようだ。
リービッヒは俺の元に戻って来ると、付いてくるように指示してきた。
そして牢獄の前の薄暗い通路を進み、一番奥の牢獄まで案内された。
リービッヒは、明日の朝までに自らキプレス家の方に出向き、もう一度事情を聞きに戻るとの事らしい。それまではここで我慢してほしいとのことだ。そう伝えると、リービッヒは足早に去っていった。
(はぁ...)
一人牢獄の中に取り残されたカケルは、すぐに横になった。この世界にやって来てからは半日しか経っていないが、元いた世界では夜中であった。つまり実質、一晩中起きていたのとなんら変わりないのである。しかも、こちらの世界に来てから半日でいろいろな出来事があり過ぎて、パンク状態であった。
(なんか、向かいの牢獄の人が何か話しかけて来てるけどもう疲れたから寝よ)
こうして俺は、深い眠りについた。
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時同じくして、キプレス家の城内にてなにやら騒ぎが起こっていた。
ドタドタと慌ただしい足音とともに、一人の衛兵が当主であるセイブルの部屋にやって来た。
「た、大変ですセイブル様!」
「どうした、こんな夜中に」
「ミ、ミラ様が城内からいなくなってしまいました!」
「いつものことだろ、もうあの子も17歳なのだから少しは目を瞑ってやろうではないか」
「そ、それが、いつもと様子がおかしいようで鎧の他に様々な物が部屋からなくなっているのです!」
「なんと...だがこの国からは簡単には出られないから、きっと明日には泣きべそかいて戻って来るだろうよ」
「それならばいいのですが...」
セイブルは娘が失踪したにも関わらず何とも冷静である。それもそのはずである、娘のミラは度々、衛兵や使用人の目を盗んでは一人で森に探検に行くなどしていたからである。今回も、そうだと決めつけて大事にはしなかったのである。
しかし、この判断がキプレス家にとって大事件に繋がるとは、まだ誰も思わなかったのである。
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牢獄の中でぐうすかと寝ている俺は深夜に、何か不快感を感じて起きた。何やら水のようなものが顔にかかってきた。
すぐさま飛び起き、辺りを確認したが雨漏りをしているような気配も無い。
(何だったん今の?)
そう思いながらキョロキョロしていると、何やら壁の小窓から細い筒のようなものがニョキっと生えてきた。そしてそこから、チョロチョロチョロっと俺の顔に目掛けて水が流れてきた。
「うぇぃ!」
反射的に濡れないように避けた時、変な声が漏れてしまった。
「だ、誰だよ?」
俺は小窓に向かって問を投げかけた。
すると、小窓に人の顔のような輪郭が現れた。しかし、はっきり言って暗いし誰がなんでいるのか、なんでこんなことをするのかサッパリと意味不明であった。
すると、小窓の人物が口を開いた。
「わしじゃ」
そこには、わしことエルフレッドがいた。
□
どうやらエルフレッドは、捕まった俺のことを助けに来たらしい。どのようにして助けるかは不明だが、その気持ちは今の俺にとってとても嬉しいものであった。
「ありがとう、オジサン...」
「まあ、良い。とりあえず壁から離れていてくれ!」
「お、おう...」
そう言って俺は壁から距離をとった。
「フンッ!」
そんな気合いの入った掛け声とともに、ドカーーンッと馬鹿でかい音を立て壁が崩れ去った。え?爆破でもしたの?と言った具合である。向かいの牢獄にいた人もその音で飛び起き、目を丸くしていた。
「無事かー?怪我は無かったかー?」
とそんな呑気な声で心配している人物が、壁が崩れた建物の向こうで佇んでいた。杖を金属バットみたいに担いでおり、全く壁を壊した張本人とは思えない振る舞いである。なぜか、昼間の格好とは異なりローブを着用していないのだが、つなぎのような格好をしていたため土木作業員のようであった。と、そんなエルフレッドの斜め後ろに人影があった。
「ちなみに、そちらさんはどなたですか?」
「??ああ、お主も一度会っておるじゃろ。ミラじゃよ。キプレス家当主の娘じゃ」
「えーーー!?当主の娘じゃとか、そんなにあっさりと言うことじゃないでしょ!?そもそも、何で一緒いるの?まさか少女誘拐...?」
するとそれまで黙ってたミラが、
「あなたいつもそんなのなのね。少しは落ち着いて喋ったりできないのかしら?第一、わたしがここにいるのはわたしの意思なんだから誘拐なんて人聞きの悪いこと言わないでちょうだい!!」
「お、おう...」
落ち着けと言いながら、喋っている間に声荒げさせるミラに動揺しつつ、それを見て俺は落ち着いた。
「何事だ!?」
そんな声が遠くから聞こえるとともに、たくさんの足音が近づいて来ていた。
「と、とりあえずここから離れないと不味いんじゃないかな?」
「そうじゃな、ゆくぞ!」
そう言うと、ミラは、フンッと鼻を鳴らしてエルフレッドの後をトコトコと付いていった。それに続くように、俺もあとを追いかけていった。果たして、どこに向かうのだろうか?俺は何も分からないまま闇夜に消えていった。
読んでいただきありがとうございます!
これからもコツコツ書いていきます!