二人のコスプレイヤー
三話目です!
コスプレオヤジことエルフレッドと出会ったカケル。
やっと異世界にやって来たことを自覚するのか?
「ミラ様、お怪我はありませんでしたか?」
エルフレッドの部屋の前に、騒ぎを聞きつけてメイドのような格好をした女性がやって来た。
「ええ、すぐに衛兵が来て連れていったから平気だったわ。しかも、エルフレッドも一緒だったし万が一もないわ。あんな弱そうなやつ私一人でもやっつけられたわ!マーサが心配する必要はないわ!」
「え、ええ、そうでしたか...」
フンッと鼻息を鳴らすミラに対して、マーサと呼ばれたメイドはぎこちない返事を返し、その場を去っていった。
(まったく、何だったのよアイツ!いきなり変なポーズで謝り出すし、私の事チラチラ見てくるしもう!)
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ところ変わってとある一室。二人の男が向かい合って座っていた。
「なるほど...つまり記憶が無いのじゃな?」
「どうしたらそういう結論になるんだー!」
俺は大袈裟に悲しい演技をした。衛兵に連れられてやって来た部屋で、コスプレオジサンと話し始めて約15分。何も状況が進展していない様子。それどころか、このオジサンが何者なのか謎が深まるばかりだ。
「さっきも言った通り、気がついたら知らない部屋にいて何が何だか分からないです。もう夜も遅いので出来ればお家に帰りたいです」
「ふむ...そう言われてもじゃな...。ちなみに、混乱してるようじゃがお主はここがどこの国でどのような場所だか分かっておるのか?」
「んー、何かのコスプレのイベント会場ですかね?それにしては妙にリアルな内装だけど...」
「そのコスプレというものがよく分からんのじゃが、ここはアルレディア王国の王城...の横のキプレス家の城内じゃぞ?」
「アルなんだって?」
「アルレディア王国じゃ」
「ハイー?ヨクワカリマセン」
「まあ、記憶がないようじゃから仕方あるまいか。とりあえず付いてくるのじゃ」
そう告げると返事を待たずして入口の方へ向かっていった。俺は展開がよく分からず椅子に座ったままでいると、
「早く付いてこんかい!」
一瞬、ビクッとなったが、俺は素直におじさんのあとを付いて行った。
□
衛兵に連れられて歩いた廊下を少し進んだ後、先ほど通らなかった方向へとおじさんが進んでいった。すると階段があり、上の階へと進んでいく。上の階に到着すると、少し建物内が明るくなったような気がする。それもそのはずである。今までいた場所は、部屋はもちろん廊下にさえも窓がなく、見たこともない薄暗く光る石が点々とあるのみであった。しかし、どうやらこの階には窓があるようだ。外からの日差しが建物内に差し込んでいる。
(あれ?今、夜中じゃなかったっけ?まさか知らぬ間に気絶でもしてたのか?でもそんな記憶無いしな...)
そう思いながらふと窓から外を覗いてみると、すぐ先に城壁で囲われたとてつもなく大きな城が鎮座していた。そのあまりの光景に言葉を失っていると、こちらじゃと手招きされた。
そこは、外が一望できるバルコニーの様な場所で、
「ここから見えるのがアルレディア王国の城下街じゃ。どうじゃ?何か思い出せたか?」
そこには、見渡す限り大小様々な建物が乱立していた。丁度お昼時なのか、市場のような場所にはかなりの人がいるのが見受けられる。ひときわ印象的なのは、街の左側にある黒い屋根の建物が連なった一角である。そのほとんどが平屋であり、人の気配がほとんど見受けられなかった。さらに、人の背丈を優に超える高さの壁がこの街を、いや、この国を取り囲んでいた。
「マジかよ...」
眼下に広がる景色に、何とも稚拙な感想しか出てこない。最近のCG技術は非常に発達しているが、わずかに感じる違和感で何となく作り物か否かの区別は出来る自信があった。しかし、広がる光景はそんな違和感を微塵も感じさせなかった。すなわち、自分が本当にアルレディア王国なる国にいることを信じるには十分すぎる程の衝撃であった。
□
俺はコスオジことエルフレッドと共に、先程までいた小部屋で座っていた。
「オジサンの言ってたこと本当だったんだな」
「だから言ったじゃろ、それにわしの名前はオジサンではなくてエルフレッドじゃぞ」
「エルドレッドじゃなかったのな」
「誰がエルドレッドじゃ!」
エルフレッドは不機嫌そうに答えると、
「そうじゃ、せっかくじゃし一緒に街に行ってみんか?そうすれば何か記憶を取り戻すかもしれんぞ?」
「そうだな...ちょっと街の方も気になるかも。てか、まだその設定続いてるの!?」
「じゃが、お主の格好は悪目立ちしそうじゃから着るものを用意せんとな」
「ツッコミ無視かーい」
エルフレッドは部屋を出ていき、どこかへ行ってしまった。またもや一人で部屋に取り残されてしまった。
(何にもすることないし、所持品でも確認するか...)
そう思いまずポケットの中身を確認し始めた。今履いている短パンはポケットにチャックが付いているタイプであり、右ポケットには100円玉が3枚と50円玉、そして10円玉が3枚の計380円が入っていた。ランニングに行く直前にポケットに500円玉だけ入れて出てきたのだ。
「...はぁ」
気づいたら異国の地。所持品は使えないであろう小銭がジャラジャラ。この先のことを思うとため息しか出ない。
□
そんなこんなしているうちにエルフレッドが布の様なもの抱えて部屋に戻ってきた。
「ほれ、これに着替えるのじゃ」
そう言うと、布の塊を渡してきた。
「ええっと...これどうやって着るんですか?」
「それはじゃな、これをこうして―」
俺は言われるがままに布を体に纏っていく。どうやら渡された布の塊は、昔のローマ人が着用していたトガと呼ばれる上着の一種の様だ。エルフレッドは慣れた手つきで着るのを手伝ってくれている。
「おー、よく似合ってるじゃないか」
「...」
俺は、ほんの数分前までワクワクしていた。え?だって昔のローマ人の格好ってよく分からないけどカッコイイじゃん?
しかし、現実は厳しいのである。そもそもサイズがでかいのである。まあ、それだけならよかったのだが、ランニングをする格好の上から着たのが不味かった。右胸のところからポロシャツの赤い犬のロゴが主張している。かなりシュールだ。足元は、と言うと赤いランニングシューズである。エルフレッドは似合ってると言っているが、内心笑っているのかもしれない。
そんなことを思いながら、一人で唸り声をあげていると、
「では準備もできた様じゃし、街に向かうか」
「せめて履くものだけ用意して貰えませんか?」
「お主すでに履いてるでわないか」
おっしゃる通りです。しかし、そこを何とかと頼んでいるとすぐにサンダルの様な履物を用意してくれた。エルフレッド様様である。
かくして、俺たち二人のコスプレイヤーは街に繰りだしていった。
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