コスオジとツッコミ
二話目です。
いきなり異世界にやって来たカケルは、第一村人と遭遇する?
とりあえずもう一度この部屋を見回すと、前方と後方にドアがあった。
(果たしてどちらが正解か...)
と、そもそも正解とかあるのかもわからない状況の中で、よく分からない役になりきり考えるポーズをとっていると、後方のドアの外から何やら足音と話し声が近づいてきた。
「見せたいものとは何でしょうか?」
「やっと新しい魔法陣が完成したのじゃ」
若そうな声に、そこそこ年季の感じる声が応じている。
俺は視線を足元へと向けた。そこには無残にもグシャグシャになったA3サイズほどの模様の描かれた紙があった。
(...魔法陣ってまさかこれ?)
そう、それである。俺は非常にテンパっていた。後ろからは意気揚々と部屋に入ってくるであろうお爺さんが迫ってくる。しかも、魔法陣とか言われてるであろう代物は先ほどの華麗なる着地のお陰でまるでゴミのようである。
(...ここにいたら色々不味いな)
俺は意を決して逃走することに決めた。何故ここにいるのかは分からないが、不法侵入及びおそらく器物破損である。法律は全くもって知らないが誰がどう見ても泥棒と勘違いするだろう。思い立ったらすぐ行動。前方の扉から外へ出るために一歩を踏み出し、そしてドアに手をかけ、
「ガチャガチャ...ガチャガチャ...」
開かない。
(えーー!?こういう時って普通開くのがテンプレじゃないの!?)
どこぞの世界のテンプレだろうか。しかし何度か試しても開かないため脱出することが出来ないでいると、
「ガチャッ」
という音とともに後方の扉から二人の人物が入ってきた。
一人は白髭を蓄えた短髪のおじさん、背丈はカケルより少し低い程度でローブの様なものを着用していた。その隙間からはステッキみたいなものをのぞかせている。パッと見の印象は、チョイ悪おじさんが魔法使いのコスプレしてる様な佇まいである。
その斜め後方には、少し気が強そうな赤毛の少女が驚いた顔で立っていた。鎧の様なものを身にまとっており、ここへ来るまで運動をしていたのか少し汗をかいている。なんのゲームのコスプレ集団だよ、と心の中でツッコミをしているとおじさんが口を開いた。
「お主何者じゃ?わしの部屋の物置の扉で何をして―。」
「すみません!泥棒じゃありません!信じてもらえないと思いますが気がついたらこの物置にいたんです!」
と、相手が言葉を言い切る前に誠心誠意の謝罪をするのが俺流。ちなみに土下座付きである。相手が怒る前に全力で謝る。今の俺に出来る最大の奥義である。
その効果が効いたのか相手のおじさんも、
「お、おう...」
と若干引き気味に狼狽えている。すると後ろの少女が耐えかねたのか、
「あなた何者なのよ!エルフレッドの部屋に勝手に入り込んで物置を漁ろうとしてるなんて!どっからどう見ても物取りじゃない!」
と絶叫したのである。たしかにそう思われて仕方ない状況である。
(エ、エルフレッド!?まさかこのおじさんの名前?全然日本人顔ですけど?普通に中学校の体育教師とかやってそうな顔なのに!しかも、ここが物置じゃないのかよ!)
と心の中でツッコミをしていると、声を聞いてか、何人かのいかにも衛兵のような格好の人がやって来た。
「ミラ様、どういたしましたか?」
そう衛兵らしき人が聞くと、代わりにエルフレッドと呼ばれていたおじさんが答えた。
「こやつが、わしの部屋に勝手に入り込んでおったのじゃ。衛兵のお主らは何をしておったのじゃ!」
「「大変失礼いたしました!」」
そう言うと俺の周りに集まり、ついて来いといい、どこかへと連行するのであった。
衛兵に連れられて扉を通り過ぎる時に、ミラと呼ばれた赤毛の少女と一瞬目が合った、と思ったがすぐにフンッと目をそらされてしまった。嫌われたかな?
衛兵に連れられ廊下を進んでいるが、どうやらとても立派な建物のようでまるで城みたいである。部屋を出てからしばらくして、わしの魔法陣がーー!と悲痛な叫び声が聞こえた気がするがきっと気のせいだろう。
□
「しばらくここでおとなしくしていろ」
衛兵の方々はそう告げると持ち場へと帰っていった。
今どこにいるかって?よくわからない部屋にいる。強いて言うなれば取り調べ室と言ったところだろうか。それを少し広くしたような質素な部屋である。家具もほとんど無く、木でできた四角いテーブルと椅子があるのみである。見慣れないものとしては、部屋の明かりがトゲトゲした石みたいなもので照らされでいることぐらいか。
俺はその光ってる石が気になり、周りをうろうろとした後、少し触れてみることにした。
(これ何の材質で出来てるんだろ?100均とかにありそうな電球のカバーかな?)
そう思いながら石に触れた瞬間、ヒュンッとタイミング良く光が消えたのであった。
「...」
(壊しちゃった!?そうじゃなくても泥棒扱いされてるのに...)
と嘆いていると、扉がノックされる音が聞こえた。
反射的にハイ?と言えずに立ちすくんでいると、そこに現れたのは先程会ったばかりの体育教師...ではなくチョイ悪コスプレオヤジのエルドレッド?だった。
先程より筋骨隆々になったと思うのは気のせいだろう。そもそもローブで見えないし。
すると、チョイ悪コスプレオヤジはおもむろに手前の椅子に座り口を開いた。
「まぁ座るのじゃ」
「あ、はい...」
とりあえず、明かりが一つ消えてることはスルーしているみたいなので安心だ。
「先程も聞いたのじゃが、お主は何者じゃ?どうやってわしの部屋に入ったのじゃ?」
「ええっと...家の近くを走っていて気がついたら部屋にいたので自分でも何が何だか...」
「お主の家はここの近くなのか?それにしても衛兵がいるのじゃから入れんはずじゃし...」
(いやいや、こんな広いお城みたいな家が近所にあったら絶対知ってるからね?)
と心の中でツッコミを入れていると、
「ところで、お主の出身国はどこなのじゃ?」
「...?」
「言えぬとはますます怪しいのじゃが、まさか黄国の差金か!?」
(え?どっからどう見ても日本ですが?てか、知らない国名出さないでおくれ。地理もっと勉強していればよかった...)
「いえ、ジャパンという国から来ました。」
「ジャパンじゃと!」
コスプレオジサン、略してコスオジがすごい驚いた顔をしている。
(やばい、調子乗って日本をジャパンとかって言ったのは不味かったか...。てかこの人、「じゃ」って言い過ぎではないですかね?語尾にじゃを付けていいのは7,80代からと相場は決まってるけど、どう見ても40代ですが...)
俺は謎の物差しで心の中でツッコミをした。
すると、驚いていたコスオジが神妙な面持ちで重い口を開けた。
「ジャパンってどこにあるのじゃ?」
「知らないのかい!」
ほぼノータイムでの俺の鋭いツッコミが部屋に木霊した。