魔法発動イベントと紫いも
11話目です!
エルフレッドに魔法陣を要求したカケル。
なにか思い当たることでもあったのか?
俺はエルフレッドのドヤ顔をとりあえず無視することにした。
「ちょっとユウタも試してみてくれないか?」
「今のやつ?出来るかな...ボルビックだっけ?」
そう言ってユウタはコップの載った魔法陣に手をかざし、
「ボルビック!」
(....)
「ボルビック!ボルビック!ボルビック!」
(....)
「なにも起こらんやないか...」
何度も唱えたが何も起こらなかった。魔力を流し込む感覚の問題かと思いエルフレッドに聞いてみたが、魔法陣の場合では感覚は関係ないようで、魔法陣に対応する呪文を唱えれば勝手に術者の魔力を吸い取り魔法が発動するらしい。つまり、ユウタは魔法の発動に必要な魔力が無かったということになる。
「珍しいのう...ボルビックはほとんど魔力を使わんでも発動出来るんじゃがな。それこそ2歳くらいでもじゃ」
「...いいもん僕にはこれがあるから!」
ユウタはいじけてしまったのか、ネックレスを見ながらそんな捨て台詞をはいた。すると、エルフレッドが聞いてきた。
「お主はやらんのか?」
「今の流れでやると思う!?」
「やらんのならいいのじゃが...」
「うそうそ、やります!」
そう言いながら魔法陣の前までやって来た。
(初めての魔法発動イベントなのにできる流れじゃないなこれ...)
そう思いながら俺は魔法陣に手を触れた。
「ボルビック!」
(...パンッ!)
「「???」」
カケルの詠唱と同時に一瞬魔法陣が光った...ような気がしたが、何故か魔法は発動せずそれどころか、破裂音とともに魔法陣の描かれた紙がバラバラになり宙を舞っていた。
(ええ!?なんで!?これ完全にやらかしちゃったパターンじゃね!?念を押されてたのに...)
そう思いながら、ゆっくーりとエルフレッドの方を振り向いた。しかし、エルフレッドは意外にも怒った様子ではなかった。むしろ驚いた様子であった。そして目を瞑り何か独り言を呟いていた。
「エ、エルフレッドさん?お、怒ってるよね?やっぱり魔法陣って貴重だよね?」
「...怒ってはおらんよ。またか、ってかんじじゃ」
「ですよね...」
「まあ、二人とも魔法は使えんかったがそう落ち込むでないぞ。魔法が使えなくても、いくらでも仕事はあるのじゃぞ」
「「...」」
仕事の心配とかをそもそも考えていなかった俺たちは、エルフレッドの若干ズレた視点での慰めに何も言葉を返せなかった。
□
俺は一人、自室に戻ってきた。ユウタはとりあえずエルフレッドの部屋にいることになり、しばらくの間は面倒を見ることになった。
部屋に戻って来ると、相変わらずミラは無防備な格好でスウスウと寝ていた。うつ伏せの格好で、何度か寝返りを打ったのか、シーツが乱れており何ともいえない色気を放っていた。
すると、俺が部屋に入ってくるのに気がついたのかゆっくりと起き上がった。
「んっ...カケル起きてたんだ...」
「ごめん、起こしちゃったな」
「ううんいいの...」
ミラはなんともしおらしい返事をした。昨日のトゲトゲしい態度がまるで嘘だったかのようだ。
(これが俗に言うギャップ萌え...なのか!?)
「とりあえず服がはだけてて目のやり場に困るのだが...」
「んー?あ...ちょっと何でじっと見てるのよ!」
「ご、ごめんごめん。エルフレッドがそろそろ街に行くから準備してくれってさ」
「む...わかったわ」
ミラはしぶしぶ準備を始めた。俺はとくに準備することもなかったので刺された傷口と服にまだ血が付いていたので洗面台のようなところで洗っていた。ちなみに傷は浅かったが、エルフレッドが簡単に縫ってくれた。そんな俺の姿を見て、事情を知らないミラはすごく心配そうにしてくれたが、騒がしくされるのも面倒だったので俺は適当にあしらった。
「ちなみに質問なんだけど、こっちに来る時に着てた鎧ってどこに置いてるの?」
「え?鎧ならここにあるわよ!」
(ドサリ)
そんな音を立てながら何も無い空間から鎧一式が現れた。
「え?なんですかそれ?」
「収納の魔法だわ!旅をするのだから出来て当然よ!」
「お、おう...」
(だから何も荷物持ってなかったのか...エルフレッドの杖もいきなり現れるもんだから、完全にご都合主義的な何かだと思ってたわ...)
俺は種明かしをされ納得をした。ところでこの収納魔法だが、容量は個人の魔力量に比例するらしいが、一定を超えると頭打ちになるとの事みたいだ。そもそも魔法陣の魔法すら発動できない俺にとってはあまり関係のない話かもしれない。
「準備できたわ!」
「じゃあ行くか」
ミラは白い花柄のワンピースを着ていた。俺はというと、相変わらず変な格好のままである。こうして、俺とミラの二人はエルフレッドたちと合流し街へと繰り出していった。
□
街は先ほどの乱闘騒ぎがまるで無かったかのように、人でごった返しており賑わっていた。さすがは衣服の都と言われるだけあり、様々な格好をした人で溢れていた。
「...ところでエルフレッドの横にいる子供は誰なのよ?」
「ユウタじゃ。あっちで拾ったのじゃ」
「いやいや、言い方!?捨て犬じゃないんだからさ...」
「捨て犬にしては大きいわね!」
「...」
「わたしはミラよ!よろしくね!」
「オダ・ユウタや、お姉ちゃんよろしくな」
「変な喋り方だわね、どこの国の出なの?」
「隣の名前の知らないお兄ちゃんと同じ国やで」
「だから変なの頭に巻いてるのね!」
どうやらミラの中でも、変な格好=俺の構図が出来ているようだ。そう言えばユウタに名前を名乗ってなかった。あとで教えておこう、そう俺は心に決めた。
「そこの若いの!面白い格好してるじゃないか!うちの店見てきな!」
「お、おう?」
いきなり威勢のよい店員に声をかけられ、言われるがままに店の中へと入っていった。他の三人は店の外で待っているようだ。
店の中は日中にも関わらず何とも薄暗い。きっと入口に掛けられている服がカーテンのようになっているのだろう。店内には鎧や装飾品をはじめ、様々なものが売られていた。
「兄ちゃん、この国は初めてかい?」
「そうですよ、今朝着きました」
「その格好は、兄ちゃんの国の衣装なのか?」
(あれ、これって素直に答えていきなり刺されないよね?)
「い、一応そんなところですかね...」
「おお!いきなりなんだが、その服売ってくれないか!?」
「え?これをですか!?」
「そうそう、珍しい材質だし作りがしっかりしてるからな!」
(たしかにこっちの世界の服よりはしっかり出来てるもんな)
「その話乗った!でもこれ以外に着る服ないから代わりのを用意して欲しいんだが?」
「それなら任せろ!この店で一式を揃えてやるよ!」
こうして、俺は念願の着替えを果たすのであった。暗いし鏡もないので、とりあえず店主に渡された服を着てお金を受け取った。相場は分からないが、代わりの服を貰えたので物々交換だと思えばお得だろう。店主は上機嫌だった。
外で待っている三人にお披露目すべく、意気揚々と外に出た。
「どうよこれ!」
「「...」」
(あれ?似合いすぎて声も出ないか?)
俺は自分の服装に目を向けた。うん、紫いもみたい。
「ぬおおおーー!」
ミラに至っては笑いをこらえてるようだ。エルフレッドに肩を叩かれ、似合ってるぞと言われ余計に俺は落ち込んだ。
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