もっと早くこうしてればよかった…
中学の美術部の部長の時と同じで、私は、先輩に、『恥ずかしいから付き合ってることは内緒にしてください』と言ってた。だけどそんなの、分かる人には分かるんだろうな。いつの間にか、私と先輩が付き合ってるってことが噂になってた。
「あっちゃん、先輩と付き合ってるの…?」
学校で休憩中、織姫にそんな風に訊かれて私は、サーっと血の気が引くのを感じてた。そんな私の表情からすべてを察したらしくて、彼女は、「そっか…」って寂しそうに笑った。
「あっちゃんと私って、男性の好みが似てるんだね」
一度ならず二度までも好きな相手を横からかっさらっていった私を責めるどころか、織姫は、
「だけど、今度こそうまくいくように祈ってるよ」
なんて言ってくれた。
どうしてよ…!
おかしいよ…!
おかしいよ織姫…!
どうして怒らないの!?
どうして私を責めないの!?
どうしてそんなに優しいのよ…!!
だから私はいつまで経ってもあなたを諦められないんだよ……!!
怒ってよ! 罵ってよ! 『あんたなんか顔も見たくない!!』って切り捨ててよ!!
じゃないと、私…私……
……違う…違うよね……分かってる…それは私が甘えてるだけだって分かってる……本当は私が自分の気持ちにケリを付けなきゃいけないの……
織姫のことが好きだってみんなの前で宣言もできないくせに、踏み越えることもできない天の川を挟んでたまに近付けたらそれだけで有頂天になって、浮かれて、幸せだと自分に言い聞かせて、なのに織姫の恋路を邪魔して、しかも自分からは諦められずに彼女から見限ってくれることを期待してる、どうしようもない最低のクズなんだ……
だからね、私、もう何もかも終わらせようと思うんだ……
こんな最低な私なんてこの世にいちゃいけないと思うんだ……
あんな両親の下に生まれてくるくらいだから、私、本当は間違って生まれてきちゃったんだろうな……
部活が終わった後、いつものように織姫と一緒に帰って、いつもの場所で別れて、でもそれからそんなことをぼんやり考えながら、私は家の方向とは逆に向かって歩いてた。
そこにあるのは、自転車と歩行者しか通れない小さな踏切。
ああ、あそこに立ってれば、私、確実にいなくなれるな……
こんな、生きてる価値もないクズ、確実に<処分>できるな……
もっと早くこうしてればよかった…そうすれば何回も彼女を傷付けずに済んだのに……
私って、本当にどうしようもないクズなんだ……
これならきっと、私かどうかも分からないくらいにめっちゃめちゃのぐちゃぐちゃになれる。
そうだ、私みたいのを勝手にこの世に送り出したあの人達にも復讐できるじゃん。超絶迷惑を掛けられるじゃん。私を罰せられて、この世から消し去って、二度と彼女を傷付けないようにできて、両親にも復讐できて、一石二鳥どころじゃないじゃん。
そう思った時、私は自分が笑ってることに気付いた。
「くくく…あはは…あはははははははははは……!」
何だかすごく気分がいいや…こんな気持ち、生まれて初めてかも……
警報機が鳴ってる。おいで、おいでって私を呼んでる。『さあ、クズを処分しよう』って言ってくれてる。
それに励まされるように、私は歩き出してた。
歩いて、遮断機をくぐって、その時を待った。電車がゆっくりと近付いてくるのが分かる。
へえ、死ぬ瞬間って、こんな感じなんだ……
なんて、やけに冷静に考えてた。
…だけど……
「彦星…っ!!」
誰かがそう声を上げて、私はすごい力で自分の体が引っ張られるのを感じたのだった。




