嫌だ…怖い…
スマホの画面を見ながら私は、織姫のことをぼんやりと考えてた。
でもそうやって思い出すだけで胸が痛くなる。
家の中では、この部屋以外、私の居場所はない。リビングには母親がいるし、父親は帰ってもこないし。
私の家庭はとことん壊れ切っていた。ただ同じ場所に住んでるだけの赤の他人同士だった。血の繋がりなんて、何の価値もない。私にそう思い知らせるには十分すぎるくらいにどうしようもない家庭だった。
織姫……
織姫……
やっぱり私にはあなたしかいない……
そう思うのに、何故か先輩の顔が頭をよぎる。
先輩は、さすが織姫が好きになるだけあって本当に優しい人だった。私が嫌う男性の姿が全然なかった。織姫はそういう男性を見抜く嗅覚みたいなのが本当に優れてるんだろうな。
それでも、もしかしたら、織姫のことがなかったら私は先輩のことなんて見向きもしてなかったかもしれない。それこそ顔すらないモブの一人として見逃して、存在すら気付かなかったかもしれない。
どうしてこんなに皮肉なことが起こるんだろう……
スマホを見ていたのは、本当は先輩をデートに誘った電話を掛けた後だったからだ。先輩とのデートの約束を取り付けて、それで織姫のことを思い出してしまったからだ。
私、本当に何をしてるんだよ……!
頭がぐちゃぐちゃになる。こんなに織姫のことが好きなのに、こうやって先輩ともデートしようとしてる。それはもちろん、私が先輩と付き合ってることにして、織姫と先輩がくっつかないようにする為。
だけど、もう、訳が分からなくなってきてた。
だって、先輩、いい人すぎるんだもん……
中学の時の美術部の部長もいい人だったけど、まだ中学生だったからかさすがに頼りないところもあって、それでまだ冷静でいられた部分もあった気がする。なのに先輩は、高校生だからなのか、部長よりももっと器の大きさを感じるんだ。
もしかしたら、部長も、今ならこんな感じになってるのかもしれないけどさ……
ずるいよ…私には織姫しかいないのに、どうして私の前に現れるの……?
私、先輩のことを信じてしまいそうになってるよ……
嫌だ…
怖い…
信じるのが怖い……
織姫はもうずっと一緒にいたから、彼女なら信じられるって分かってる。だから彼女さえいれば私は大丈夫だった。なのに今さら、他にも信じられそうな人が現れるなんて、おかしいよ……
確かに、信じられる人は他にもいるのかもしれない。だけど私はもう、それを確かめることが怖いの。織姫さえいてくれたら大丈夫だから、それ以外の人が信じられるかどうかを確かめること自体が怖いの。もしそうじゃなかったらって思うのが怖いの……




