私の…
『あのね…ひめちゃん……』
そう切り出した私だったけど、その口から洩れたのは、虚飾だった。
「私ね…部長と付き合ってるの……彼から告白されて、それで……
ごめんね、ひめちゃん。ひめちゃんが部長のこと好きなのは私も分かったけど、だから余計に言い出せなくて……」
嘘…嘘…大嘘よ……!
自分が嘘を吐いてるのは分かってるのに、本当のことを言おうと思ってたのに、そうやって私の口から出たの嘘ばかりだった。
私の口が、本当のことを話せなくなってしまったみたいにスラスラと嘘が出た。
ああ…もう…私、そうなんだ……本当のことを話せなくなってしまったんだ……
だから私は覚悟した。もうこの嘘は、一生、死ぬまで吐き続けるって。嘘を貫き通して本当に変えるしかないって。
私は自分で自分を茨の檻に閉じ込めてしまったんだ……
いや、私の場合は、織姫との距離を遠ざける天の川かもしれない……
これからもきっと、織姫は私に優しくしてくれると思う。笑顔を向けてくれると思う。だけど、もう、私と織姫との距離は縮まることはないんだ……
私ってなんてバカなんだろう……
だけど、同時に思ったの。どうせ私の想いは報われることはないんだ。だったら、別にこれまでと何も変わらないって。男性だっていうだけで彼女と結ばれようとするのを阻止できただけでも良かったって。
私はこういう風に生きていくしかないんだって。
織姫が男性と結ばれなければ、私が彼女と結ばれることはなくても少なくともこれ以上距離が離れることはない。私だけが取り残されることはない。
彼女と私の関係は、今のままでずっと続くんだ。
私はもう、それでいい……。
取り返しのつかないことをしてしまった苦しみと、でも彼女との距離は変わらない筈だという安心感で、私は泣いていた。
彼女が、
「あ~、そうなんだ……」
と呟いたのを聞いて、
「ごめんね…、ごめんね……」
と何度も繰り返してた。
なのに織姫は言うの。
「…ありがと、正直に打ち明けてくれて。私の方こそあっちゃんを困らせてたんだね。ごめん……」
って……
なんでよ…どうしてあなたが謝るの? あなたは何も悪くない。悪いのは私。私なのに……
しかも彼女は、微笑ってくれた。私の何もかもを包み込むみたいに微笑ってくれた。それが痛くて、苦しくて、私は余計に涙が止まらなくなる。
もっとたまらなくなる。
「ひめちゃん……」
私はいつしか彼女の胸に抱き締められていた。彼女の大きな胸に顔をうずめて泣きじゃくってた。
でも、それでも、私と彼女の距離は決して縮まることはなかったのだった。




