表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
織姫と彦星  作者: 京衛武百十
4/10

あのね…ひめちゃん……

「今日も部長に褒められた~♡」


部活の終わり、一緒に下校する織姫が、ウキウキの上機嫌でそんな風に言ってた。だけど私の気持ちは沈んでいく。彼女が楽しそうにすればするほど……


すると彼女は私の顔を覗き込んできて、


「あっちゃん、どうしたの?」


って…


その距離が近くて、私はカアッと顔が熱くなるのを感じた。彼女の柔らかそうな唇が目の前にあって、胸がどきどきした。


「なな、なんでもないよ…! 大丈夫!」


慌ててそう言って、手と首を振って後ずさった。


「え~? なんか怪しいなあ…?」


そんな風に言いながらも、彼女の目はとても優しかった。口ではツッコむような言い方をしてても、私を気遣ってくれてるのが分かってしまった。


それに気付いた瞬間、ズキンって痛みが体を奔り抜けた。


痛い…痛い…胸が、痛いよ……


どうしてそんなに優しいの? 織姫ぇ……


痛みと一緒に何か大きな塊みたいのが胸に込み上げてきて、私はもう、抑えることができなかった。


ボロボロと涙がこぼれても、とめることもできない。


ああ…ああ…イヤだぁ……抑えきれないよぉ……


「え!? あ、ごめん! しつこくしすぎた!? ごめんね!」


やめてよ織姫…そんなに優しくしないで……でないと、私…私……


ダメだった。抑えておくことができなかった……


「違うの…そうじゃないの……私の方こそごめんね…ごめんね…ひめちゃん……」


本当は黙っておくつもりだった。私と部長が付き合ってることにして、部長が織姫の気持ちに応えさえしなかったらそれでよかった筈だった。そして彼女が部長のことを諦めて他の、<安全パイ>な人に気持ちが移ったら、大丈夫だって確認できたらそのままフェードアウトするつもりだった。


だって、私が他の人と付き合ってるなんてこと自体、織姫には知られたくなかったから。部長にも、『恥ずかしいからしばらく他の人には内緒にしててください』ってお願いしてたから。


部長はちゃんとそれを守って、誰にも言わないでくれた。でも、私と付き合ってるからっていうことで織姫の気持ちにも応えないようにしてくれてた。


それなのに、私は……


「ごめんね、あっちゃん。私、空気読めないとこあるから、自分でも気付かないできついこと言っちゃったりしてるよね。だからさ、そういう時はちゃんと言ってね。次からは気を付けるからさ」


近くの公園のベンチに座って、彼女は穏やかにそう言ってくれた。あたたかくて、柔らかくて、包み込むような言葉だった。織姫そのものって言葉だった。


違うの…ひめちゃん……悪いのはひめちゃんじゃないの…悪いのは私なの……


ぐるぐると頭の中でいろんなことが回ってて、私はとうとう…


「あのね…ひめちゃん……」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ