あのね…ひめちゃん……
「今日も部長に褒められた~♡」
部活の終わり、一緒に下校する織姫が、ウキウキの上機嫌でそんな風に言ってた。だけど私の気持ちは沈んでいく。彼女が楽しそうにすればするほど……
すると彼女は私の顔を覗き込んできて、
「あっちゃん、どうしたの?」
って…
その距離が近くて、私はカアッと顔が熱くなるのを感じた。彼女の柔らかそうな唇が目の前にあって、胸がどきどきした。
「なな、なんでもないよ…! 大丈夫!」
慌ててそう言って、手と首を振って後ずさった。
「え~? なんか怪しいなあ…?」
そんな風に言いながらも、彼女の目はとても優しかった。口ではツッコむような言い方をしてても、私を気遣ってくれてるのが分かってしまった。
それに気付いた瞬間、ズキンって痛みが体を奔り抜けた。
痛い…痛い…胸が、痛いよ……
どうしてそんなに優しいの? 織姫ぇ……
痛みと一緒に何か大きな塊みたいのが胸に込み上げてきて、私はもう、抑えることができなかった。
ボロボロと涙がこぼれても、とめることもできない。
ああ…ああ…イヤだぁ……抑えきれないよぉ……
「え!? あ、ごめん! しつこくしすぎた!? ごめんね!」
やめてよ織姫…そんなに優しくしないで……でないと、私…私……
ダメだった。抑えておくことができなかった……
「違うの…そうじゃないの……私の方こそごめんね…ごめんね…ひめちゃん……」
本当は黙っておくつもりだった。私と部長が付き合ってることにして、部長が織姫の気持ちに応えさえしなかったらそれでよかった筈だった。そして彼女が部長のことを諦めて他の、<安全パイ>な人に気持ちが移ったら、大丈夫だって確認できたらそのままフェードアウトするつもりだった。
だって、私が他の人と付き合ってるなんてこと自体、織姫には知られたくなかったから。部長にも、『恥ずかしいからしばらく他の人には内緒にしててください』ってお願いしてたから。
部長はちゃんとそれを守って、誰にも言わないでくれた。でも、私と付き合ってるからっていうことで織姫の気持ちにも応えないようにしてくれてた。
それなのに、私は……
「ごめんね、あっちゃん。私、空気読めないとこあるから、自分でも気付かないできついこと言っちゃったりしてるよね。だからさ、そういう時はちゃんと言ってね。次からは気を付けるからさ」
近くの公園のベンチに座って、彼女は穏やかにそう言ってくれた。あたたかくて、柔らかくて、包み込むような言葉だった。織姫そのものって言葉だった。
違うの…ひめちゃん……悪いのはひめちゃんじゃないの…悪いのは私なの……
ぐるぐると頭の中でいろんなことが回ってて、私はとうとう…
「あのね…ひめちゃん……」




