五話
私がいつものように公園に行くと、これまた、いつものようによれたスーツを着て、ニコニコ顔で手を振る、大人の色気を醸すおじさんがいた。
「おじさん!おはよう!」
「やぁおはよう、桜ちゃん。おはようというよりは、こんにちは、かな?」
おじさんのいつもの様子に昨日の両親の喧嘩による私の不機嫌な心の内はバレてないと私は確信した。
「じゃあ改めてこんにちは!」
「はい、こんにちは」
今日はおじさんの初恋の話の続きをお願いするために来たのだ。
「おじさん?昨日のおじさんの初恋の話をしてほしいわ!」
「続き?」とおじさんは、とぼける。「昨日はおじさんが初恋を自覚したところまでだったじゃない!」
するとおじさんは困った顔で「まいったな、どうしても話さなきゃだめかい?」と言いそれに対して私は、
「だめ!絶対!」と強い口調でおじさんにお願いする。
肩をすくめておじさんは「仕方がないなその代わり少し格好の悪いおじさんを見せることになるよ?構わないかい?」と私に宣告した。
私は驚いた。いつも、私にタメになる話をしてくれて、学校の先生も知らないような話をしてくれるおじさんは、私にとってテレビの向こうのアイドルよりもよっぽど輝いて見える存在だった。そんなおじさんに格好悪いことなんてないと思っていたのだ。
「構わないわ!おじさんは普段から格好良いもの!多少格好悪い所があってもそんなのでおじさんの魅力は消えたりしないわ!」
私は喉を強く震わせておじさんの説得に力をいれる。
冷や汗が首筋を垂れる感触がする。
断られたらどうしよう。
おじさんは頭をポリポリとかき「わかった。それじゃあ喋ろうか。」
良かった!断られるかと思った私はおじさんの体に思わず抱きつく。
抱きついた私を払わずおじさんはそのまま私の頭を撫でながらゆっくりと喋り始めた。